CREDIT

Planning & Produce: co-lab, Ground Level Inc.
Direction: 熊井晃史 | Operation: シアターワークショップ | Graphic Design, Edit & Writing: BAUM LTD. |

OVER VIEW

コロナ禍における生活を迎えて1年。
渋谷の中心で、いまだからこそできることは何か。

2021年4月で開業から4周年を迎えた渋谷キャスト。未曾有のコロナ禍により、周年祭の開催を見送った昨年の春からは、早くも1年が経過しようとしていました。
昨年7月には明治通りを挟んだ向かいにMIYASHITA PARKがオープン。これまでとはまた少し違う人の流れや光景が生まれるこの場所で、渋谷キャストはその節目をどのように迎えるべきか。年明けすぐに、昨年召集された企画運営メンバーとクリエイターはオンライン上に集い、議論をはじめました。

人々の創造性を誘発し、新たな価値を街に還元しつづける施設である渋谷キャストの周年祭は、単なる施設の「お祝い」イベントではありません。クリエイターとともに、広場のあり方や都市のあるべき姿をさまざまな切り口から実験するのが渋谷キャストの周年祭。しかし、今回はこれまでとは状況が大きく異なります。

街にひらかれた場として確実に求められるのは、コロナ禍以前とは異なる視点と感性。人と人との接触の機会が制限される中で、どのようにクリエイティビティを発揮すべきか。そもそも今そのような場を生み出すことに、どのような価値があるのか。メンバーたちは周年祭の前提をさまざまな角度から問い直していきました。

身近な街で、旅するように新たな視点と出会う

昨年は「landscape!!!」、一昨年は「Readable!!」と、毎年一つのテーマを掲げてきた周年祭。しかし、今年はそのテーマを掲げるべきか疑問が生まれます。
長期化する新型コロナウイルスの影響を受け、人々の物事に対する考え方や感じ方もさまざまであるこの状況に、どのような言葉がふさわしいのか。それを掲げることに、果たして意味があるのか。

悩んだ末に、今年は方針を変え、単一のテーマは掲げないこととしました。けれども、周年祭の意義や祝祭感は何らかの形で表現し、発信していきたい。そこで、周年祭のキービジュアルにその思いを込めることにしたのです。

注目したのはバゲージタグ。いま自由に旅はできないけれど、このイベントでは、旅をするように新たな視点に出会うことができるはずです。そこで、遠方への旅を象徴するバゲージタグをモチーフに、周年の祝祭感や期待感を醸し出す鮮やかなビジュアルがデザインされました。 企画は屋内と屋外の2本立てで進行。そもそも渋谷キャストの周年祭は、単なるアニバーサリーイベントにとどまらず、「都市と街の実験」であることが前提です。さまざまな制約がある中でも、その姿勢がぶれることはなく、都市のあるべき姿を模索する企画が練られていきました。

CONTENTS

1. PLAY DISTANCE - MAKE PUBLIC –

2メートルのディスタンスを、遊びに変えて楽しむ。
偶然性と主体性を高める、色鮮やかな仕掛けの数々

Produce: Ground Level Inc. / Design: 長岡勉(POINT)
デザイン制作サポート: VUILD / EMARF
ワークショップ:みんなのダンボールマン
Photo:YUKA IKENOYA(YUKAI)

広場の企画を担当したのは、2周年祭の「SHIBUYA“YOUR”PARK」、未開催となった3周年祭では「MAKE PUBLIC」を企画し、これまでにない広場の使い方と楽しみ方を提案してきたグランドレベルの田中元子氏と大西正紀氏です。
「1階づくりはまちづくり」を掲げる彼らが、人と人の物理的なふれあいやつながりが失われる状況を目の当たりにしてきた中で、今回挑んだのは「ディスタンスを遊びに変える」こと。やむを得ずとも人と人を引き離してしまう“2メートル = ソーシャルディスタンス”も、 クリエイティビティの力で人とのつながりを感じられるものとして考え直す、という試みです。

グランドレベルのビジョンの元、建築家の長岡勉氏と共に具体的な構想がはじまりました。初期の構想では、身の回りにあるものを2メートルに引き延ばし、「距離をまとう」「距離を拡張する」など、距離を遊ぶ仕掛けがさまざまな形でユーモラスに検討されていました。
この仕掛けが実際に広場に登場すると、あたりは一面鮮やかな世界へと様変わり。2メートルのキオスクに糸電話、ツリーなど、ユニークで複雑な曲線と形で構成されたオブジェを横目に、思わず立ち止まる人の姿も見受けられました。
こうした造形は、VUILD株式会社が提供する、デジタルファブリケーション技術を用いたサービス「EMARF(エマーフ)」を活用することで実現しました。

一角では、身近なダンボールを使ってクリエイティブなアイデアを共有していく「みんなのダンボールマン」によるワークショップを開催。
お面のような小さなものをつくったり、大人と協力して2メートルの巨大な帽子をつくったり、笑い声と笑顔のたえない空間がひろがります。 隣には、ダンボールでつくったオリジナルの扇を投げて遊ぶ「投扇興」のブースもあり、子どもたちが続々とチャレンジしていました。

こちらは「DISTANCE MONSTER」と名付けられた、2メートルのオブジェです。地面には花のような形にカットされた木片がたくさん。 これらをオブジェのくぼみにはめたり、木片同士を自由にはめて枝のようにしていくと、その名の通りモンスターのような、不思議なかたちが空へと伸びていく仕掛けになっています。

その隣には、メッセージを書いたテープをくくりつけられる2メートルのツリーが。自分のこと、家族、友達、社会のこと。先の見えない状況で、街ゆく人々が抱えるひとつひとつの思いが、春の風になびき、幻想的な空間を作り出します。


「PLAY DISTANCE」で印象的だったのは、時間の経過と人の流れにともなって、空間が徐々に「活きた場」へと変化していくこと。空間を自由に遊ぶ子どもや大人たちの姿に、仕掛けを手がけたデザイナーやプランナーも思わず目を細める場面もありました。
2周年祭で開催した「SHIBUYA“YOUR”PARK」でも、広場のスツールや楽しいことを無料でふるまう「マイパブリッカー」たちを介した、人々の即興的かつ自由なふるまいが見られました。今回はそれらがさらに強まり、偶発的なコミュニケーションがいくつも生まれる空間となっていたのではないでしょうか。

2. 202X URBAN VISIONARY vol.7

理想の共有から、アクションプランを生み出す場へ。
都市の理想像を模索し続けるプロジェクトがむかえた転換点

Planning & Produce: co-lab

クリエイティブ思考で都市のあるべき未来を語るトークセッションシリーズ「202X URBAN VISIONARY」。「都市開発はもっとディベロッパー間で議論し、共有しながら進めるべきではないか」という提言から2019年に渋谷キャストから生まれ、様々な会場をリレーする形で開催されてきました。 7回目となる今回は、再び出発地点となる渋谷キャストで開催されることとなりました。

今回は、トークセッションの前に、初の試みとなるディベロッパー各社限定のワークショップを実施しました。会社の垣根を超え、各社が連帯し行動を起こすことをかねてより目標として掲げてきたURBAN VISIONARY。これまで深めてきたビジョンの共有に加え、具体的なアクションの提案や実行につなげる場が設けられたのです。

参加したメンバーは3つの大きなテーマごとにグルーピングされ、以下の流れに沿ってアクションに向けた緻密な議論を進めていきました。

【テーマ】
1)「文化・エリアマネジメント」
2)「Central Business District(中心業務地区。街や都市で特にオフィスや商業店舗が集中している地区)」
3)「ICT・CITY-OS(都市OS。都市に存在する膨大なデータを収集・分析した、他の自治体や企業・研究機関と連携するためのプラットフォーム)」

【ワークショップ】
①Theory of Changeのワークショップ
現状把握を通じて、最終的に実現したい究極的な夢やビジョンを定義する手法。

②Logic Modelの作成
ある施策が目的を達成するに至るまでの因果関係を論理的に整理するもの。長期的な開発において担当者が変わった場合でも、ロジカルな判断を可能とする指針となる。

③フリーディスカッション

東京が目指すべき不動の、究極の行き先=北極星とは何か、そしてその実現には何が必要なのか。各チーム、まずは壮大なビジョンを掲げることからはじめ、具体的な行動やアウトプット、その指針を詰めていきました。
ワークショップ全体の時間は3時間。一気に議論を進め、アウトプットを固める怒涛の進行でしたが、非公開での実施形式であったことから、メンバーからは本音もこぼれやすく、各チームの議論は大いに盛り上がりました。

それぞれのチームから共有された、東京が目指すべき究極の姿は次の3つ。その実現に向けて、ディべロッパーとしてどのようにふるまうべきか、必要なプラットフォームのあり方についてもさまざまな意見が挙げられました。
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「一人ひとりが自立して、やりたいことができる寛容なTOKYO」
「Central Business Districtが有機的につながるTOKYO」
「心が踊る、個人の活躍の幅が拡がる、地方とシームレスにつながったTOKYO」
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終盤のフリーディスカッションでは、まだまだ東京の開発においてはディベロッパーの視点が強いという意見も。 そもそも日本では、都市計画とビジネスのつながりが見えづらいという大きな課題があるものの、ユーザーにとって本当に価値あるものは何か、その視点を強化し、各社が自社内に閉じることなく、他社や教育・研究機関と連携していくことが重要です。 そのためには、それぞれのディベロッパーが自社のリソースをオープンにし、イノベーションにつなげるという、前のめりな姿勢が必要という指摘もなされました。

Graphic:松本花澄(グラフィックカタリスト・ビオトープ)

【トークセッション】
司会進行:パノラマティクス主宰・齋藤精一氏
ファシリテーター:リージョンワークス代表社員・後藤太一氏
日経クロステック/日経アーキテクチュア編集委員・山本恵久氏
春蒔プロジェクト代表/co-lab運営代表・田中陽明氏(実行委員会)
登壇企業:森ビル/三菱地所/三井不動産/東急/東日本旅客鉄道

これまで、一貫して都市の「ビジョン」を議論し続けてきたURBAN VISIONARY。 今回も、「『東京』のあるべき姿」というスケールの大きいテーマが設定されましたが、前段となるワークショップのアウトプットをふまえ、ビジョンを形にするための「アクション」を重点的に語り合うことが期待されました。

理想とする都市の姿をどのように実装していくのか。議論の中では、都市開発のDXをめぐる「誰もやったことがない挑戦だからこそ、そもそも良し悪しが判断しづらい」「誰もファーストペンギンになれない」といった、現場に立つ者のリアルな葛藤が挙げられる一幕もありました。
これら現状の課題は何があれば乗り越えていけるのか、話題は前向きに手段を検討する方向性へ。参加の余地がうまれやすい基盤となるマスタープラットフォームの必要性や、それ自体をディベロッパー各社の連帯によって生み出せるのではないか、という意見が挙がります。 そこにデータが集約されるほど、ギャップが生まれやすい都市計画とビジネスの距離を縮められるという指摘も重要です。

さらには、都市計画・開発において行政に求める姿勢や、ディべロッパーの理想的な関わり方についても話題に。 いずれも「民だけでも公だけでもできない」からこそ、両者が一体となって計画・開発を行うべきであり、URBAN VISIONARYはその場になりうるという共通認識がつくられました。

Graphic:松本花澄(グラフィックカタリスト・ビオトープ)

有識者とともに、都市のビジョンをさまざまな角度から描き続けてきたURBAN VISIONARY。そこから一歩踏み込んで、「実装方法」にフォーカスする新たな試みが導入された今回は、プロジェクトにおけるひとつの転換点になったといえるでしょう。
これまでにない熱量の中で生まれた議論とアウトプットから、次はどのような動きが続いていくのか。イベント終了後の現場は今後への期待感に包まれていました。

*当日のトークの模様は、こちらから。


かたや距離を遊び倒し、かたや都市の理想像とその実装方法を語る。 4周年祭も、企画のアウトプットの形は異なりましたが、いずれも「都市はどのようにあるべきか」を探求する試みであり、それらは運営メンバーとクリエイターが一丸となって同じ方角を見つめた成果といえるでしょう。

自由に遠方への移動はできず、人とも気軽に集まりづらい現在。これまで以上に、住む街や通勤・通学で足を運ぶ身近な街が、日々の充実感を形作り、人や社会とのつながりを感じさせる媒体として存在感を強めているはずです。 何気ない街の光景の中に、新たな発見が得られるか。未来に期待を抱ける瞬間があるか。今回の周年祭は、そうした問いに対する、ひとつの解を体現していたのではないでしょうか。

CREDIT

Planning & Produce

co-lab / Ground Level Inc.

Direction

熊井晃史

Operation

シアターワークショップ

Graphic Design, Edit & Writing

BAUM LTD.