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PUBLIC TABLE
渋谷の街にひらかれた渋谷キャストの広場は、集まる人が用途に合わせて自由な使い方ができるよう設計されています。周年祭ではこれまで、そのような広場のポテンシャルをより顕在化し、新たな意味を見出そうとしてきました。パートナーは「1階づくりはまちづくり」を掲げるグランドレベル。渋谷キャスト開業6年目となる今年は、これまでの周年祭で制作してきたツールも展開しながら、巨大なPUBLIC TABLEを登場させました。
「PUBLIC TABLEという場が、不揃いなものに目を向け、響き合い、混ざり合うことができたら。そんな想いで設置したテーブルで、『みんなの旗をつくって立ててみよう!』というワークショップを開催したいと思いました。誰もが一国一城の主であるということを自覚し、一人でも国家を宣言できる社会になってほしい。そんな願いを込めました」(田中元子)
「今回の周年祭でまず考えたのは、なるべく今までやってきた中であるものを使って場を作ろうということ。既存のものを使う、レンタルする。ゼロから新たに作って、終わったあとに廃棄するというのではなく、循環させる、次にバトンを渡すということができればと思いました。そして、コンセプトが『不揃いの調和』ということで、場の作り方を考えた時、バラバラのコンテンツを調和させるために出たアイデアが、この場所で起きるあらゆる活動や人やものに旗を立てるのはどうかということ。テーブルの上で繰り広げられる小さな事象にも、茶室にも、編集室にも、ブティックにも、大小さまざまな旗が立っていたら面白いなと考えたんです」(長岡 勉)
Produce/Planning: 株式会社グランドレベル
Design: 長岡勉(POINT)
Profile
株式会社グランドレベル(田中元子+大西正紀+江本珠理)
http://glevel.jp/
2016年に田中元子によって設立された建築からコミュニティまでを総合的にデザインする会社。「1階づくりはまちづくり」をモットーに、コンサルティングやプロデュースなどを手がける。主なプロジェクトに「喫茶ランドリー」ほか。
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良薬口愉茶室
薬膳料理研究家のヤマグチヒロさんによる「良薬口愉(りょうやくこうゆ)茶室」は、「良薬口に愉しい」をテーマに、お茶室の体験を楽しめるというもの。といっても中身はお抹茶ではなく、体調やその日の気分に合わせて効能別に選ぶ野菜の薬膳ドリンクです。
<提供されたドリンク3種類>
・「造血のいっぷく」
ビーツ、ニンジン、赤ピーマン、棗入り。食べ物で血をつくり、貧血対策におすすめ。
・「美肌のいっぷく」
小松菜、モロヘイヤ、フェンネル、生姜が入り。身体の要らないものをデトックスして内側から美しく。
・「補益・温活のいっぷく」
カボチャ、タマネギ、ゴボウ、シナモン入り。エネルギーを補給して身体を温める効果あり。
「PUBLIC TABLEという場が、不揃いなものに目を向け、響き合い、混ざり合うことができたら。そんな想いで設置したテーブルで、『みんなの旗をつくって立ててみよう!』というワークショップを開催したいと思いました。誰もが一国一城の主であるということを自覚し、一人でも国家を宣言できる社会になってほしい。そんな願いを込めました」(田中元子)
「今回の周年祭でまず考えたのは、なるべく今までやってきた中であるものを使って場を作ろうということ。既存のものを使う、レンタルする。ゼロから新たに作って、終わったあとに廃棄するというのではなく、循環させる、次にバトンを渡すということができればと思いました。そして、コンセプトが『不揃いの調和』ということで、場の作り方を考えた時、バラバラのコンテンツを調和させるために出たアイデアが、この場所で起きるあらゆる活動や人やものに旗を立てるのはどうかということ。テーブルの上で繰り広げられる小さな事象にも、茶室にも、編集室にも、ブティックにも、大小さまざまな旗が立っていたら面白いなと考えたんです」(長岡 勉)
Profile
ヤマグチヒロ( Hiro Yamaguchi)
https://yamaguchihiro.com/
薬膳料理研究家。合同会社Food Office ハチドリ代表。 食により健康になるための中医学を基にした薬膳料理を学び、その知識を軸としてより人間が健康に幸せになるための食生活の提案と研究活動を行なっている。
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13F ポップアップ編集室
渋谷を拠点に世界の都市をつなぐ新聞『13F/OLDNEWS』ポップアップ編集室は、大階段前に有機的なカウンターを設置し、『13F/OLDNEWS』のバックナンバーはもちろん、編集長の緒方修一さんが手がけた装丁本などが展示されました。
壁面には事前に募集された「あなたの〈ちいさな事件〉」が「13F/OLDNEWS」〈号外〉として映像投影され、思わずクスッと笑ってしまったり、深く考えたり、切なくなったり、思わず足を止めて階段に佇む人の姿が印象的でした。
「渋谷を街ゆく人の声を拾う。そこから今という時代、私たちがいる都市が抱えるものや背中合わせにあるものを垣間見られるのではないか」
打ち合わせの際に企画者の伊勢さんが話されていた言葉です。一見とるに足らない、通り過ぎて消えていくようなささやかな声を拾い集め刻み続ける『13F/OLDNEWS』バックナンバーを読んでいると、自分の中の“とるに足らない、遠く眠っていた”エピソードがふつふつと浮かびあがってくるという体験も、ポップアップ編集室ならではでした。
また、当日その場でも原稿が書けるようにと用意されたのは紙ではなくリボンというユニークさで、リボンに書かれて揺れてはためくどこかの誰かの事件に、つい足を止めて見入ってしまいます。ここで集まった小さな事件は『13F/OLDNEWS』vol.7 夏号で掲載されるなど、イベントだけで終わらないものとして連なっていきます。
13F/OLDNEWS関連企画として、29日(土)にはシンガーソングライター・小島ケイタニーラブさんのアコースティックライブと写真家・朝岡英輔さんのプロジェクションのコラボレーションパフォーマンスも大階段で行われました。一瞬時が止まったような、そしてどこまでも流れていくようなひとときに多くの人が身をゆだねているのが印象的でした。
また、同日夜には装丁家鼎談「本chaばなし」も開催。登壇者は装丁家の原条玲子さん、坂川朱音さん、緒方修一さん(13F編集長)。本という顔を一線でつくり続ける装丁家3人のトークセッションが、ふだん関係者以外は入ることができない「渋谷キャストアパートメント/13F BOOK GALLERY」で開催されるということで、立ち見がでるほどの熱気に包まれました。また「13F BOOK GALLERY」は緒方さんと伊勢さんが運営しているということもあり、セレクトされた本についてもグラフィックデザインやアート目指す学生から質問が飛び交いました。
Profile
『13F/OLDNEWS』
https://www.oldnews-co.com/13foldnews
世界の生活者が記者となって〈私的エポックメイキング〉を伝える新聞。創刊から3年、非編集を一貫しつながり続ける紙片は、私たちが生きる時代、そして都市の姿を浮かび上がらせます。発行人:作家 伊勢華子/編集長:装丁家 緒方修一
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ニューブティック new boutique
スペースでは、クリエーションの学び舎「GAKU」とファッションマガジン『apartment』と連携し、8ブランドを招いた合同展示会「ニューブティック」を開催しました。
「GAKU」は、渋谷パルコで開講されている学校で、10代の若者たちがクリエイティヴの原点に出会うことができる「学び」の集積地です。ファッション、アート、デザイン、演劇、編集、音楽など、さまざまなジャンルのクラスを、クリエイターとともに開講しています。そして、「ファッションストーリーとしての日常」をテーマに掲げるファッションマガジン「apartment」は、1999年生まれの編集者兼フォトグラファーの杉田聖司さんによって2019年に創刊された雑誌。今回はGAKUの事務局スタッフでもある杉田さんが中心となり、GAKUやapartmentに携わる方々作品を展示するという内容。
色とりどりのニットアイテムやユニークなデザインの洋服、ヘッドピースやレザーシューズなど、若手ならではの自由で大胆な発想から生まれたアイテムがずらりと並び、ワクワクしながら見る事ができる展示会でした。
<参加デザイナー>
・BIOTOPE
田中優大と田中杏奈によるユニット 。アートディレクション・グラフィック・ファッションの分野で活動。2022年ITS(INTERNATIONAL TALENT SUPPORT) ファッション部門・アートワーク部門ファイナリスト。 同年ITS Artwork Award powered by Swatch Art Peace Hotelを受賞。
・ROUND HAPPY
山梨県富士吉田からクリエーションの循環を生み出す「ROUND HAPPY」はファッションを通しクリエイター、生産者、リテーラー、プロダクトを手にする方々とともにカルチャーの創造とより良い社会の発展を目指す。
・Nihey
working dress that iterates on aging
・Asahi Sato
1999年生まれ。専門学校で靴作りを学び、卒業後GAKUでファッションを学ぶ。現在は専門学校で授業のアシスタントを行うかたわらファッションショーの制作やコラボレーション活動をしている。
・Five year old
東京造形大学にてテキスタイルを学び、2021年東京造形大学大学院卒業後にFive year oldをスタート。オリジナルプリントや手染め、刺繍などを施しユニークなバランスを探りながら洋服を制作。
・Car Foranimal
2021年に成立したニットブランド。作品の一点一点がデザイナーの手で作られ、数多くの一点ものはすべてデザイナーからのメッセージとして誕生した作品。
・Christopher Loden
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♡ (89)/tailor(仕立屋) ♡
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・Felix Idle
フィリックス・アイドルはシドニーに生まれ、東京を拠点にリメイク、絵画、映像、立体作品、イベントやミックスシリーズのキューレーション、翻訳、(Wa?ste名義で)作曲などの分野を跨って活動している。
同スペース内では、展示されたアイテムを試着して、プロのカメラマンに撮影してもらえるというブースも。カメラマンは岩渕一輝さん。デザイナーさんも親御さんも一緒になってスタイリングし、子どもたちも次第にテンションが高まります。撮影会は二日間とも大盛況、総勢80組の方が参加してくださいました。
「ワークショップス hosted by ニューブティック」もガーデン内PUBLIC TABLEで開催されました。大きなテーブルを囲み、オリジナルハンカチの制作や編み物など、創作のよろこびを味わえる終始賑やかな時間でした。(*2日目は雨天のためスペースで開催)
<check hanky by Five year old>
チェック柄のハンカチにFive year oldのモチーフを組み合わせて自由にプリント。自分だけのオリジナルハンカチを制作。
<shooting star badge by Car Foranimal>
Car Foranimal セレクトの毛糸を舞んで流れ星型のバッジを制作。デザイナーによる編み方講座付き。
<packing tape stencil by Felix Idle>
身の回りのモチーフをテープで型取り、スプレーで服にプリント。お気に入りの形、プリントしたい服を持ち寄って制作。
<attachment shoe tongue by Asahi Sato>
オリジナルテキスタイルを使って「タン」と呼ばれるパーツを制作。自分の靴に付けられるシューズアクセサリーを制作。
座談会
FUNとPLAYの先に、LOVEがある。
不揃いなものが響き合いながら、渋谷キャスト誕生を祝う
6周年祭を終えた5月中旬、リアル&オンラインで周年祭に携わったメンバーが集まり、それぞれの視点で周年祭を振り返りました。それぞれがどんな思いで関わり、場をつくったのか。そして、当日どんな気づきや出会いがあったのか。今後の課題や、大切にしていきたいことなどをお話いただきました。
●トークメンバー
吉澤裕樹、篠田なつき、丹野暁江、西田和真(東急)
熊井晃史(プロデューサー)
田中元子・大西正紀(広場コンセプト/グランドレベル)
ヤマグチヒロ(良薬口愉茶室)
伊勢華子(13F ポップアップ編集室)
杉田聖司(ニューブティック)
林亜華音、手塚 美紀、横田可奈、多田穂香(BAUM LTD.)
自然と主体的に関わりたくなり、自然と交流が生まれる場
西田:みなさん、周年祭ではありがとうございました!。まずはじめに東急としての所感をお伝えできればと思います。前夜祭では、渋谷キャスト内の関係者が互いにコミュニケーションをとり、渋谷キャストのマインドを確認し合う、良い機会となりました。今回は、新たにcift(※)から伊勢さんとヤマグチさん、そして、杉田さんを始めとした若手クリエイターの方々にも参加頂きました。新たな体制で臨んだ周年祭でしたが、渋谷キャストの周年祭ならではの現場でクリエイティビティが発揮していくライブ感、企画同士のコラボレーションが生まれた6周年祭となり、渋谷キャストの新たな可能性を感じました。
(※)渋谷キャスト13階にある住居スペース。「拡張家族」というコンセプトを掲げ、共に働き、共に暮らすことを通して、家族と仕事のあり方を見直す実践としてスタート
熊井:この振り返りでは、コンセプトが「不揃いの調和」だったことを改めてみなさんと共有したいと思っています。渋谷キャストで周年祭を開催する意義というのは「こんな未来がいいのではないか」と社会に投げかけていくことだと思っているんです。
長岡:6周年祭、楽しかったですね! 「ニューブティック」の方々など、自分たちと異なるジャンルの方と出会う場所ができたのもすごくよかったです。周年祭でいつも感じるのですが、渋谷キャストの広場は一人ひとりが主体的に関わることができたり、たわいも無い交流が生まれたりするところがポイントだと思うんです。そういった意味では、道ゆく人が「ちょっと楽しそう」とか、楽しんでいる人の姿を見て自分達もそこに関わりたいと思ってもらうことはできたんじゃないかと思います。
今後のキーワードとしては「持ち寄る」ということも押さえておきたいですね。すでにあるものを使い回すことで、使った後にそれが元に戻る。持ち寄るとその後持ち帰ることになるので、自然と次に繋がるんです。僕の作った茶室も捨てずに持ち帰ることで次に繋がりますし、そういった縛りがあることによって再び交流が生まれて繋がっていくのではないかと考えています。
熊井:杉田さんは、打ち合わせでこのメンバーと全体会議をしたときにインスピレーションがあったと言っていました。このチームのコミュニケーションの取り方や、開き具合がいいなと思ったんだよね?
杉田:そうなんです。打ち合わせで全体会議をしたあとに、参加ブランドを少し変更したのですが、本当はコミュニケーションを取りたいけれど、まだできていない、どちらかというと開くのが苦手、という人たちをあえて選びました。ほとんどのブランドは一人か少人数でやっているので、作ることで精一杯なんですよ。最初はどうなるかと思いましたが、「撮影会」というコンテンツを入れたことで交流が図れたと思っています。彼らが開かれるきっかけになったので、初回としては大成功だったと感じていますね。デザイナーが自分のブランドを安心して外の世界に出すきっかけになったことが嬉しかったです。
熊井:大きいテーブルにいろんな人たちが一堂に会していたのはいい光景でしたね。
ヤマグチ:私一人ではできないことができたことに感謝です。お茶も、2日で150杯くらい売り上げました。キッチンカーの前で声をかけると止まってくれて話を聞いてくれたのが意外で嬉しかったですし、そこで飲んで帰るだけではなく、8割くらいの人が茶室を使ってくれました。茶室に入ってくれた方は全員深度が深まった感覚がありましたね。一度立ち止まって自分の身体に向き合うという体験をしてもらいたかったので、それが実践できたなと思います。結果的に茶道の要素が全部詰まっていたことも嬉しかったですし、飲んだ後の茶器がみんな違うこともアートだなと感じました。
熊井:伊勢さんは現場でとてもいい笑顔をされていたのが印象的でした。実現したい世界観があったんだなと伝わってきました。
伊勢:個人的にもとてもありがたい時間をいただいたと思っています。「小さな事件」に関しては、普段人に話さないことを書いてくださった方もいたと思いますが、そんな表に出さない部分を大きな場所で大事に扱うことができたかなと。集まった原稿を階段に投影することもできましたし、投影された言葉と一緒に自分の影の写真を撮ろうとしていた方がいたことも、場所を使った面白さだと思いました。あと、リボンに書いてもらった内容が面白かったですね。「煮卵10個もらってしまった」とか、「ウシ科の動物は足が早いよ」とか、「渋谷区民じゃないのに渋谷区民と嘘をついてしまった」とか。みんなの小さな事件が詰まっていました。これを新聞に書きたいという外国の方もいたんですよ。夜のトークイベントも立ち見が出るほどで、たくさんの方にきていただきました。
西田:小島ケイタニーラブさんのライブもとても良かったです。
伊勢:小島さんは今回初めてご一緒したのですが、当初は作り手として来てもらおうと考えていたんです。でも、空間として考えたときに、キュッと締まったライブやパフォーマンスがあればいいかなと思ってお願いすることに。ご本人にとってもいい時間だったようです。
田中:PUBLIC TABLEの上でワークショップが次々と展開されている光景がよかったですね。私はそろそろ次回から本格的な渋谷キャストのお誕生日会にした方がいいと思っています。渋谷キャストの広場や建物だけではなくて、地域の人たちとお互いが祝い合える会にもできるといいですよね。地域の学校でブラスバンドや美術をやっている人たちに出し物をしてもらったり、お誕生日を祝うために渋谷キャストの曲を作ってくれたりとか。周年祭というお誕生日会をきっかけに「お互いの存在を祝う」という裏テーマをこっそり考えています(笑)。「ちょっと一言書いてって!」とか「ちょっと寄っていって!」というのは今までやってきたし、これまでは「キャストはどうあるべきか」に集中していた数年間でしたが、渋谷に住んでいる人に、地域の人同士でお祝いする機会があるんだよということを感じてもらいたいですね。
大西:今年の周年祭は新しい試みとしてCiftの方々にも参加していただきましたが、勉さんによるデザインのディレクションや、BAUMさんによるグラフィックまわりとも連携を上手く取れたことで、よくまとまりました。何よりも屋外のガーデンや階段スペース、内部のスペースまでが、グラフィカルな旗、大きなテーブル、そこここで行われているいろいろな行為によって、自然と一体感が感じられて。まさに「不揃いの調和」でした。こういう光景が、一年中あってもいい広場だと改めて思いました。今回設えたPUBLIC TABLEのようなものがいつもあって、ご飯を食べたり、打ち合わせをしたり、勉強をしたり、ゲームをしたり。周年祭がきっかけで、渋谷キャストの日常が少しでも変わることにつながれば、より嬉しいです。
西田:6月の「おとなりサンデー」で今回使ったロングテーブルを再利用するので、それは継続的にやっていきたいと思っています。
元子:結局のところ、周年祭にとって何が成功かというと、いろんな人が春になったら今年渋谷キャストは何するの? とワクワクしてくれることかもしれないですね。今年何しようかな、というワクワクを作っていけたら私は嬉しいです。
長岡:元子さんの「みんなで祝おう」とか祝福しようというのはLOVEだなと思いましたね。これまでFUNとかPLAYを大事にしてきたけれど、その先にLOVEがあるんだというのがわかりました。
元子:渋谷キャストはでっかいビルだけど、周りの人がお節介を焼いたり何かやってあげたくなっちゃうような存在でいてほしいですよね。
林:クリエイティブチームとしては、企画者のみなさんがやりたいことも、制約もあるなかで、どう実現していくかというところに日々刺激を受けていました。それに感化されるように、もっとよくしたいという気持ちを持って私たちもいいアウトプットができたと思います。
あと、グランドレベルさんや勉さんは、こちらが制作したグラフィックを、ものすごく褒めてくれるんですよね。勉さんの言葉を借りるならLOVEをすごく感じましたし、例年より密にコミュニケーションができて、チーム感が高まったことが嬉しかったです。
手塚:今回のキービジュアルは、ハッピーな雰囲気がテーマというか、人々に「何か楽しそう」ということが伝わるビジュアルがいいねという話でした。私はデザイナーとしてバウムに入社したばかりだったこともあり不安ではあったのですが、「こんなに褒めてもらったことない!」くらいグランドレベルさんも長岡さんもいいねって言ってくださいました。ブティックの方が「これ僕が作ったんですよー」と話しかけてくれたのも嬉しかったですし、アーティストと直接コミュニケーションが取れる美大の芸術祭のような和やかな雰囲気を感じました。
横田:私は編集者として今年からバウムに参加して周年祭に関わらせていただきましたが、雑誌や書籍をつくる仕事は長くやってきたけれど、イベントをつくるという仕事に参加するのがはじめてだったので、企画者の方々がこんなにも思想や哲学を持って取り組まれている姿に驚きましたし、実際に現場でみなさんが来場者と関わりながら楽しそうに過ごされている姿を見て、渋谷キャストってなんてハッピーな場所なんだろうと感じていました。さまざまなツールの手作り感も良かったですし、すべてのコンテンツを楽しんだあとの充実感も心地よくて、今から来年が楽しみになりました。
元子:ブティックのみなさんが即席でダンボールで看板作ったのは秀逸でしたね。伝えたいとか、もっと言いたいとか、直接コミュニケーションしたいということがあふれていました。あと東急さんはデベロッパーという立場ですが、私たちと同じように汗を流して関わって一緒にものづくりをしてくれる。そこを誇ってもらえたら嬉しい。私は哲学とか思想がお金に変わるべきだと思っているし、そういう意味でブレないことをしていきたいと思っています。
渋谷キャストに関わる全員が主人公で、全員が登場人物
篠田:元子さんが仰ってくださったことは現場にいる私たちもすごく実感していて、でもそれを社内で伝えるのって難しくて、毎年アーカイブを残したりレポートしたりとやっているのですが、もっと領域を超えて大事な要素を伝えていく工夫をしていければと思いました。
熊井:手塚さんが「こんなに褒められたことなかった」と言っていましたが、私は今までずっと教育のことに携わってきて、それは何かをどんどんできるようになっていくという意味での教育もあるけれど、歓待(迎え入れる)という意味での教育を考えたかったんです。人間はおそらくずっと異なるものを歓待してきたと思うんです。歓待というのはまさに存在を祝う、どんどん迎え入れていくということ。全員が主人公で、全員が登場人物である。その主人公性をどう祝っていくか、顕在化させていくか。主人が他の主人を受け入れるというのが茶室の空間であったし、旗がたなびく風景は全員が主人公になる風景だったと思います。
元子:みんなが主人公であって欲しいし、誰かに属するな!と言いたいよね。帰属性をいつの間にか取り付けられてしまうことに慣れてほしくない。自分の頭で考えて欲しいんだよね。 ある程度プログラムを決めることは求められがちだけど、今みんないるからこんなことやってみよう!となるのが私の理想です。うっかり偶然体験して、答え合わせのように確認できる仕掛けがあるといい。最初から全部言ってしまうと重くなっちゃうし、軽々しいまま終わっても意味がない。うっかり種明かしまでたどり着ける仕組みは作っていきたいですね。
熊井:目的を状況にどう埋め込んでおくかは大事ですね。最初から「みなさんを主体的にするために〜」とか言われて参加したくないですもんね(笑)。薬膳料理と一緒で、気持ちも身体も自然に動いちゃった、みたいなこと。遊んでいるうちに学んじゃったみたいな要素があるといいですね。
元子:たとえば私は喫茶ランドリーという店をやっていてコミュニティについて気にしていますけど、店先に「コミュニティカフェ」なんて絶対書かないわけです。ガチなテーマを最初から言ってしまうと、テンションが左脳型になってしまう。私は騙したいんです。騙して遊んでもらって、後から「あの遊びにはこんな意味があったんだ、うわー!」ってなってほしい。どこかにアーカイブや動画があって、実はこんなにゴリゴリにガチでやっています、というのがわかればいいのかなと。
熊井:気遣いと一緒ですね。本当の気遣いは気遣っている素振りさえ見せないですもんね。グランドレベルさんがつくる空間にはそれがいつも散りばめられている。
元子:「カルチャー作るぞー!」なんて言って作られるカルチャーはないんです。
熊井:杉田くんたちのブランドも一国一城の主だから、こだわりも強いだろうし、乗りたいプラットフォームと乗りたくないプラットフォームがあったと思うんです。そういう方々が遊んでみたくなるようなプラットフォームでありたいです、周年祭は。
杉田:勉さんが仰っていたFUNやPLAYはニューブティックでも起こっていたなとすごく感じます。「この服着たら?」とか、「風船持って〜!」とか、撮影しながらみんなが楽しそうで、現場では「FUN=遊び」が起こっていたんですよね。そして、そこには同時にLOVEも生まれていて。今回ワークショップのために野外テーブル用のテーブルクロスをつくってくれた10代が、1人で来てくれていた別の10代のお客さんととても仲良くなったみたいなんです。それがとても嬉しかったです。もちろん参加ブランドのみなさんも、キャストで展示をすることで、今まで交わることのない人たちと交じわれたことを喜んでいましたし、遊びながら広がっていくという体験をさせていただきました。
元子:Instagramも楽しげな様子をリアルタイムで発信してくれていましたもんね。今後、カウントダウンとかSNSでもしていくようだったら、現地の前夜祭も広場にドリンク持ち寄ってやってもいいかも。
熊井:ドリンクも想いも、みんなで持ち寄れたら最高です。
元子:私たちも含めて今回のスタッフ全員さ、頼まれてもないことをやってるじゃない。頼まれてもいないことを一生懸命やるのって大事なんだよね。愛とか遊びとかってさ、一生懸命やってないことには感じられないじゃない? そういうことを束にできたらなって思います。
熊井:放っておいても全力でやってしまう人たちの祭典にするのは?
横田:そんな周年祭、最高です。企画の始まりから終わりまで、まるで一本の映画を見ているかのようで、感動的です。
吉澤:嬉しいです。今年初めて関わってくださった方にそういってもらえるのは何よりです。次回以降も続けていきたいのでこれからもぜひ関わっていただければ!
今年の3月からマスク緩和となり、GW明けから新型コロナウイルス感染症は5類となりました。そんな狭間の4月末、「不揃いの調和」というコンセプトを掲げて、渋谷キャストの6回目の誕生を祝う周年祭が行われ、トラブルなどもなく無事に終えることができました。また、久しぶりにマスクをはずした多くの方のあふれる笑顔をたくさん見て、たくさん会話することもできました。
異なる表現方法や思想を持ったクリエイターたちが一同に会し、PUBLIC TABLEで緩やかにつながった時に生まれたのは心地よいハーモニー。渋谷の街で、美しい音楽のようにお互いのクリエイティビティが響き合い、調和したとき、そこからまた新たな出会いや気づきが生まれる。渋谷キャストの誕生を祝うにふさわしい一番のギフトは、“不揃いなものが響き合う”ことなのだと、改めて実感した2日間でした。
「次こそはもっと地域の方と一緒に渋谷キャストの誕生を祝う会にしたい」と座談会でも話がありましたが、渋谷に住む人、働く人、遊びに来る人が日常的に渋谷キャストで交流し、愛着のある場として育っていけるような工夫はこれからの課題でもあります。
年間を通して企画されるさまざまな取り組みや日常のなかで、たくさんの人にFANとPLAY、そしてLOVEを感じてもらえる場となるように、渋谷キャストはまだまだみなさんと実験を繰り返していきますので、ぜひご期待ください!