ジャーナル
渋谷キャスト周年祭「ニューブティック」の仕掛け人、杉田聖司の視座。
GAKUとapartmentと。
渋谷キャスト周年祭で盛況を博した、8ブランドの合同展示会「ニューブティック」。このイベントのホストとして名を連ねている「GAKU」と「apartment」とを紐解くと、一人の人物が浮かび上がります。それが杉田聖司さん。ある時はGAKUのスタッフであり、ある時はapartmentの主宰者であり、ある時はファッションエディター……。いくつものレイヤーを持ちながら、活動の根っこにはファッションへの強いこだわりが貫かれています。周年祭について振り返りながら、24歳のエッジィな感性が見つめる過去と未来を取材しました。
【プロフィール】
杉田 聖司
1999年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業。10代のためのクリエイティブ教育を展開する『GAKU』の事務局スタッフであり、『ガクジン』の企画・編集を担当している。学生時代からファッションマガジン『apartment』を主宰し、ファッションを中心としたエディター、フォトグラファーとしても活動している。
GAKU https://gaku.school/
Apartment https://www.instagram.com/apartment_magazine/
PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA(YUKAI)、Koji TADA(YUKAI)
TEXT BY Miyuki Takahashi
すべての活動の根底にはファッション業界への問題意識がある
ーまず、杉田さんのご経歴について教えてください。渋谷パルコ内にある10代のためのクリエイティブスクール“GAKU”で働かれているんですよね?
杉田:正確に言うと、GAKUを運営するログズ株式会社の社員で、GAKUを担当しています。大学時代インターンとしてGAKUのスタッフをしていて、そのまま入社させてもらいました。
ーインターンされていたのですね。募集があったのですか?
杉田:いいえ、どうにかして潜り込もうと思って、大学4年の時に人づてにログズの社長である武田悠太さんにたどり着き、入れてもらったんです。当時はファッション業界に対して問題意識を抱えていて、新しいファッションとの関わり方はないかと考えているうちにGAKUの存在を知りました。というのも、GAKUに入る前はファッション関係のWEBメディアで働いていたのですが、そこで取り上げるファッションがあまり魅力的には感じられなかったんですよね。新しい価値観や人間のあり方を提案するような、ぼく自身がすごく好きなファッションを次の世代に繋げていくという点では機能してないと感じていて。そういうファッションへの問題意識を抱えていた時に、安易ではありますが、次の世代と関わることのできる教育の分野に初めて興味が湧いたんです。
ーなるほど。今回の「ニューブティック」にGAKUと一緒に関わっていた“apartment”について教えてください。
杉田:apartmentは僕が個人的に大学時代から作り続けているファッションマガジンです。2019年に1号目を出して、今8号目。ログズは副業OKですし、社長の武田さんも老舗衣料品問屋の4代目でありながら、ビジネスホテル(DDD HOTEL)やアートギャラリー(PARCEL)、レストラン(nôl)など、GAKU以外にもさまざまなライフスタイル事業を手掛けているユニークな人なんです。apartmentに関してもと背中を押してくれています。
ーapartmentを最初にやろうと思われたのはどういうキッカケだったんですか?
杉田:もともと僕はファッション写真を撮っていて、雑誌で使ってもらうこともあったんです。だけど、1枚のかっこいい写真は撮れても、服と人の関係が映るファッションストーリーがどうしても撮れなかったんです。そこで、ファッションストーリーってなんだろうって考えていたら、普段僕たちが服を着ながらいろんな感情の起伏があったり、服を着ることで感情の起伏が生まれたり、感情に合わせて服を着たり、そのこと自体がすごく物語的だなって思ったんですよ。それで、佐藤麻優子さんという、セルフポートレートの作品を撮られていて、個人的にファンでもある写真家さんに2週間、着ている服とともに見たもの聴いたもの、会った人などを撮影するようにお願いしました。それを誌面に載せれば2週間のリアルなファッションストーリーを見せることができるんじゃないかなと思ったんです。それが、1号目を作ったキッカケでした。
ー服と人の関係を表現したかったんですね。
杉田:僕自身は当時からいわゆるファッション業界のマッチョな雰囲気が少し苦手で、同世代のいるクラブに遊びに行ったり、ギャラリーに遊びに行ったり、ファッション業界から少し離れた場所からファッションを観測するように過ごしていて、そんな僕とファッションの距離感について考えながら作っていたのが1号、2号、3号です。この3冊はZINEとして無料でいろんな人に配っていました。そして4号目がちょうど大学卒業くらいのタイミングで、apartmentは続けなくちゃ意味がないと思っていたこともあり、お金という価値にどう紐づけられるかを模索して方向転換しました。
ー自費で作っていたのですか?
杉田:そうなんですよ。1号目は渋谷PARCOの「シブカル祭り。」に合わせて作ったので予算があったのですが、他は自費です。それで、4号目以降もコンセプトは同様なのですが、instagramと絡めて作るようになりました。関わってくれているクリエイターやアーティストの方にapartmentのinstagramにログインしてもらい、セルフポートレートとその日見たものなどをストーリーにアップしてもらうんです。それをベースに雑誌的なファッションストーリーを紙に落とし込むというやり方にしました。
最近はさらにリアルイベントと絡めて、その記録をアーカイブ的に紙にまとめるというような手法をとっています。なんというか、コロナを経て、同じ時間、空間を共有できることの安心感みたいなものを僕自身求めていると思うんですよ。それは他のみんなもそうかもしれないなとも思います。例えば、以前Five year oldというブランドとダメージデニムを作るワークショップを共同で開催しました。参加者がいらないデニムを持ってきて、会場で配られる石で穴を広げて、そこにFive year oldのテキスタイルをくっつけてオリジナルアイテムを作るというもので、僕自身が保育園生の頃に隠れてデニムの穴を広げていたという原体験をベースに企画しました。
イベントでは、お互いに穴を開けるコツを教えたり、縫製を手助けしたり、似合っていると讃えあったり、原体験を語り合ったり、いいコミュニケーションが生まれていて。それはこれまでの雑誌づくりでは感じることのできなかったものでした。
それを記録するために、参加者それぞれが作ったダメージデニムのセルフポートレートとそれぞれのファッションの原体験をインタビューして一冊にまとめました。最新号の8号での試みです。
ーどのくらいの頻度で制作しているんですか?
杉田:特に決めていなくて、昔は半年に1冊程度で作っていましたが、最近はじっくり制作したかったり、他のことで忙しかったりで、1年に1冊程度の頻度です。判型や紙も都度変えていて、これ(7号)なんかはミシンでざーっと紙を縫って、その上から蝋を垂らして固めて製本していたりして、だいぶ大変なので30部くらいしか作っていません。多い時は500部くらい刷る時もありますから、刷り部数もさまざまです。同じものをつくり続けていると飽きちゃいそうなので。
ーどこで買えるのですか?
杉田:オンラインやポップアップで販売しているほか、本屋さんでも少し取り扱いがあって、東京・代田橋にある「flotsambooks」ほか、大阪に1店舗、韓国に2店舗置いてもらっています。
ー1号目の佐藤麻優子さん以降はどんな方が参加しているのですか?
杉田:キュレーターやミュージシャン、スタイリスト、アイドル……いろいろな方に参加してもらいました。そういう方々と手を組んで、新しいファッションの表現を作っていこうと企んでいる感覚があります。
双子の片割れと自分がどう違うかを表現するのにファッションが必要だった
ー杉田さんがファッションに目覚めたキッカケってなんですか?
杉田:実は僕、双子なんですよ。似た顔がもう1人いて、どっちかというと双子の片割れの方が頭もいいし、足もちょっと速かったりしたので、なんかどう勝とうかっていうか、どう違う存在であることをアピールしようかって考えながら過ごしてきたんですけど、その時にファッションが手っ取り早かったんですよね。変なTシャツを着ていれば「(双子の)おしゃれな方」ってなったので。でも当時は切実だったと思います。小学生の頃から誕生日にアメリカのプロレス団体の悪役の弱いチームのTシャツを探して買ってもらうみたいなことをしていました(笑)。ファッションに明確な目的意識があったし、僕にとってはファッションが必要だったという感覚がすごくあります。だから今も、「どうしてこの人はこういう格好をするのか」ということに興味があるんですよね。
ーなるほど。アイデンティティとしてのファッションなんですね。
杉田:あと中高時代はポップカルチャーが好きだったので、ファッション好きのアイドルのブログとかを見ていて、KEISUKE YOSHIDAとか、それこそGAKUのディレクターでもある山縣義和さんのWRITTENAFTERWARDSとか知って「あ〜これもありか、めっちゃいいな〜」って。そこからいろいろ調べるようになりました。
最高のロケーション。同世代のブランドが日の目を見る機会にしたかった
ー渋谷キャストの周年祭についてもお話を聞かせてください。GAKUの事務局長でもある熊井晃史さんから「やってみないか?」とお話があったと思うのですが、当初はどう思いましたか?
杉田:こんな渋谷のど真ん中で何かできるチャンスはそうないと思って「ぜひやりたいです」と言いました。それで、何をするべきかを考えた時に、一番に頭に浮かんだのは今までapartmentで一緒にやってきた同世代のブランドのこと。インディペンデントな彼ら/彼女らの作るアイテムも、提案するスタイルも、自分にとっては自分のファッション観を拡張してくれる大きな存在です。だからもっとたくさんの人に見てほしいと思って、8ブランドに声をかけて合同展示会という形式にしました。
ーそれが、周年祭で話題になった「ニューブティック」ですね。GAKUはどんな風に関わっていたのですか?
杉田:メイクアップクラスの受講生に、メイクアップアーティストとして撮影に参加してもらいました。これまでGAKUで学んできたことをアウトプットできる場にもなり、GAKUとしても意義を感じています。あとは渋谷キャストとGAKUは近いので、フラッと遊びにきてくれる生徒たちもいたのが嬉しかったですね。
「ニューブティック」では、来場したお客さんにアイテムを試着してもらってそれを特設ブースで撮影するという仕掛けがあったのですが、この着想は、もともとGAKUのこのクラスの授業でメイクをして撮影会をやった時にすごく盛り上がったところから来ているんです。イベント当日も、とてもピースフルな空気でしたよ。服を試着してくれた方皆さんとても似合っていて、つい「とっても似合ってるので撮影しませんか?」と言うと、お客さんも「せっかくだから」と協力してくれ、最終的には約100人の方々が撮影に協力してくれました。
ー撮影会、本当に楽しかったですもんね。特に、子どもたちはノリノリで「じゃあ次はこんなポーズどう?」なんて撮影によってクリエイティビティが引き出されて、楽しそうにセッションしている様子が印象的でした。参加してくれたブランドのみなさんはどうでしたか?
杉田:それぞれに手応えを感じてもらえたと思っています。例えば、イベントを機にサトウアサヒくんは初めてオーダーが入ったそうで、営業にも積極的に出るようになりそこから取り扱いが決まるかも!? と報告を受けました。多くの人との出会いもありましたし、周年祭のポスターや撮影会を通して露出が一気に増えたこともいい効果につながりました。タイミング的に、各ブランドが2023年秋冬の展示会などを行った直後だったので、フォロー展として活用してもらえたのも良かったと思います。
BIOTOPEに関しては、ヨーロッパ最大のファッション・コンペティションITS(International Talent Support)のアートワーク部門でグランプリを受賞するなど実績のあるブランドなのですが、アートピース的なアイテムなので、「すごいね〜」と、ただ鑑賞されちゃうことが多いんです。でも実際に着てみると気づくことのできる魅力もBIOTOPEにはあるんです。今回はそれをお客さんにお届けできて嬉しかったです。
ーお客さんの反応はどうでしたか?
杉田:ファッションをきっかけに生まれるコミュニケーションを楽しんでもらえたと思います。新しい自分にドキドキしたり、似合っているとほめられて嬉しかったり。
あと、服というものの価値がアップデートされる機会にもなったと思います。僕もびっくりしたのですが、その場でアイテムを買ってくれるお客さんも結構いました。安くて2、3万円という決して安くはない価格帯の服ですが、作り手自身とコミュニケーションが取れたというのが大きかったのかもしれません。服の価値について正しい方向に修正される1つのキッカケになったとしたら嬉しいです。
ー杉田さん的にもここまでの規模をとりまとめるのは初めてとのことでしたけれど、いかがでしたか?
杉田:取りまとめが大変ということは特になかったです。8ブランドそれぞれに、作りあげてきたブランドイメージがあって、やりたいことが明確だったので、自由に動いてくれました。イベント中もちゃんとそれがプレゼンテーションとして成立していて、あの空間を自分の場所として使ってくれたという感覚がありました。
あんなピースフルなファッションの現場はなかなかない!
ー周年祭を振り返って、いかがですか?
杉田:今回のイベントをやり終えて、僕の中で1つやりたいことが明確になりました。すでに確立されたファッション業界のシステムから距離をとりつつ活動しているデザイナーやクリエイターが集える新しい場所を作ることです。既存のシステムに違和感を持ったとしても、そこから距離を置いているだけ、ではない何かをしていきたいんです。周年祭を体験して、あんな風にピースフルなファッションの現場をもっと作りたいなと思うようになりました。どんな形になるのかは考え中ですが、イメージ的にはまさにアパートにそれぞれが住んでいて、僕は管理人みたいなポジションで、お互いが必要な時に手を取り合えるような、権威的な構造にならない場所を作りたいなって思っています。
ー最後に、杉田さんのような若い世代の人にとって「渋谷」はどんな街ですか?
杉田:若い人が集える場所が年々減ってきていることは肌感覚で感じています。だからこそ、新しい場所をつくること(それは言葉通りの場所だけではないかもしれませんが)、またそこで丁寧に若い人を迎えいれることで、渋谷はもっと面白くなるんじゃないかなと思います。