ジャーナル
“新しい働き方”にあわせた、クリエイターに寄り添うカフェ
1杯のコーヒーからボトルワイン、懐かしい雰囲気のスイーツ、栄養たっぷりの晩御飯まで。渋谷キャスト1階にある「Åre(オーレ)」は、モーニング、ランチ、ディナー、バーとあらゆる顔を持つ、“クリエイターのためのカフェ”。「Åre」とは北欧にあるスキーリゾート地の名称で、スキーヤーが雪山にスラロームを描くように、クリエイターたちが集い、カフェの軌跡をつくることをイメージしています。
クリエイター向けシェアオフィス「co-lab」に併設されるカフェとして誕生した「Åre」。
渋谷キャストオープンの一ヶ月前、シェアオフィスを手掛けるco-labの田中陽明さんと、「Åre」の運営を担う株式会社プフラのヤマモトタロヲさんに行ったインタビューでは、クリエイターをサポートすることを一番に考え、関わるクリエイターたちの要望に耳を傾けながら、さまざまな色付けができる柔軟な空間づくりをめざしたい、という想いを聞くことができました。
オープンしてまもなく1年。今回は現場をまとめる店長の米澤憲二さんに、クリエイターが集ういつものカフェの風景や、これからの活動について話を聞きました。
※ co-lab・田中陽明さんと株式会社プフラ・ヤマモトタロヲさんのインタビューはこちら。
http://shibuyacast.jp/journal/detail/people-sharedoffice-cafe/
PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA (YUKAI)
TEXT BY Atsumi NAKAZATO
いつでも栄養たっぷりの食事を提供
渋谷キャストに集まるクリエイターを支えるカフェとしてスタートした「Åre」。プロデュースと運営を担うのは、渋谷でビストロやカフェ、雑貨屋など、独自の世界観を凝縮した5つの店舗を持つ株式会社プフラです。米澤憲二さんは、これまでいくつかのカフェで店長として働いてきた経歴を持ち、プフラに入社して2ヶ月後に「Åre」の店長に抜擢されました。あまりの急展開に「これも何かのめぐり合わせですね」と笑顔を見せます。
「Åre」はクリエイターに寄り添うカフェとして、どんなことを大事にしているでしょうか。
「クリエイターさんは働く時間や食事をする時間が人によってまちまちなので、どの時間帯に来店いただいてもしっかりと栄養が摂れるメニューを考え、提供しています。そこが一番大事にしているところですね」
「Åre」の特徴は、系列店のビストロで長く経験を積んだシェフが在籍しているところにあります。そのシェフを中心に、季節の食材にこだわったメニューを考案し、素材の味を生かしたできるだけシンプルな味付けを心がけています。
営業時間は8時から22時。朝・昼・夜、どんなシーンでも満足できるメニューがそろっています。8時から11時のモーニングは、和洋のセットメニューに、コーヒーのほかバナナジュースやスムージーなど朝にぴったりのドリンクも並びます。
そして11時半から始まるランチタイムは17時半までと、クリエイターの不規則な労働時間にあわせて長めにとっています。
「夕方の時間も食べにいらっしゃる方は多いですよ。とことんクリエイターさんのことを考えた営業スタイルを心がけています」
定食、パスタ、グラタン、サバサンドなどバラエティ豊かなメニュー構成で、具材や付け合わせのサラダの内容も日々変化していきます。それは“毎日通っても飽きがこないように”という配慮から。そんな努力と心遣いがあってこそ、訪れる人たちの高い満足度を維持しています。
食事だけでなく、デザートも充実。南部鉄器を使ったホットケーキやフレンチトースト、季節のフルーツたっぷりのプリンアラモードなど、純喫茶のような少し懐かしい雰囲気のメニューは、おいしさはもちろん、ボリュームも満足できるものばかりです。
ランチタイム終了後、すぐに始まるディナータイムも、日替わり定食や牛ステーキ丼、パスタなど、“親しみやすい食事”がメインのラインナップで、メニュー全体からやさしさがにじみ出ています。
「お酒と食事を楽しめるお店はこの周りにもあるんですが、仕事帰りにサクッと食事だけできる落ち着いたカフェというのは、あまり見当たりません。でもそんな使い方を求める方は少なくない。うちのお店の役割としては、“晩御飯”がメインかなと思っています」
とはいえ、夜はビストロとしての顔も持ち、前菜からメインまで、厳選されたワインと一緒に楽しむこともできます。
そのほか、ランチのテイクアウトをはじめ、渋谷キャスト内のシェアオフィス「co-lab」に入居するクリエイターには食事のデリバリーサービスも行うなど、そのスタイルはどこまでも柔軟。日々の接客の中でも、常連客に意見や要望をさりげなくヒアリングし、メニュー開発の参考にしているそうです。こまめなコミュニケーションが、「Åre」を形づくっています。
自然とコミュニケーションが生まれる自由な空間
「Åre」では、普段あまり接点のなかったクリエイター同士のコラボレーションが生まれる場にもなっています。
「シェアオフィス内ではつながりのなかったクリエイターさんたちが、来店された時に席が隣り合わせたことから話をするようになって、新たな展開が生まれたという話はよく耳にしますね」
それはスタッフ全員が、自然とコミュニケーションが生まれるようなリラックスできる雰囲気づくりに気を配っているからこそ。
「お客様にくつろいでいただくために、プロの飲食人として恥ずかしくないサービスをするということが一番です。つかず離れずの距離感を保ち、常にお客様の表情を見ながらサービスを行っています」
その質の高い接客と居心地のよさから、渋谷キャスト内で働くオフィスワーカーやシェアオフィスに入居するクリエイターだけでなく、若い世代から子ども連れの夫婦、近隣の住民など、老若男女が来店しています。
近くに幼稚園や学校があるため、ママ友や保護者同士の交流の場にもなっているのだそう。にぎやかな明治通り沿いとは反対に面している「Åre」は、ゆったりとした時間を過ごせる場所として重宝されているようです。
また、「Åre」を運営するプフラは渋谷エリアにビストロ、カフェ、ベトナム料理店など5つの系列店を持ち、それぞれが協力して、お客さんに楽しんでもらうことを一番に考えています。
「社内の共通認識として、“地域密着型”のお店にしていきたいという思いがあります。街の一部となれるようなお店にしていくためには、近隣の店同士で協力して、お客様に何が喜ばれるかを考え、実践していくことが大切です。時には系列店のメニューを提供したり、満席の際は近隣の系列店を紹介したりと、フォローし合っています」
店舗の枠を飛び越え、渋谷エリアでよりよい食空間を提供し続けています。
クリエイターとのコラボレーションを加速していきたい
米澤さんは「Åre」で働く中で、クリエイターから刺激を受けることも多いそうです。
「渋谷は専門性を持った多くのプレイヤーたちが集まる街。やっぱりおもしろいお客様が多いですし、クリエイターさんの時間に拘束されない働きぶりを間近で見ていると、“新しい時代の働き方”を肌で感じることができます。そんな現場で体感できることを、店づくりに生かしていきたいと思っています」
これから力を入れようとしているのが、ワークショップなどを行いたいクリエイターを募集し、「Åre」の場所を利用してもらうこと。これまでも、ヨガやフラワーアレンジメントのワークショップを開催してきたほか、講演会や就活イベント、企業のパーティー、結婚式の二次会など、カフェ以外にもさまざまな用途で利用され始めています。
「この場所で何かやりたいという方については、できる限りご要望をお聞きして、実現するようにしていきたい。シェアオフィスの『co-lab』さんとも連携しながら、渋谷エリアを盛り上げていけたらと思っています」
白を基調とした北欧テイストの空間は、多様なイベントを受け入れることを想定したもので、「自己主張することなく、どんな色にも染められるように」との思いが込められています。クリエイターと「Åre」のコラボレーションが、これから加速していきそうです。
「渋谷キャストに入居している人に限らず、もっと間口を広げて一般のクリエイターさんにもどんどん利用してもらいたいと思っています。より広い意味で、クリエイティブな活動を支えていきたいですね」
オープンからこれまでを振り返り、特に印象に残っているエピソードとして米澤さんが挙げてくれたのが、「店名の由来でもあるスキーリゾート『Åre』があるスウェーデンのお客さんが想像以上に多い」ということ。
「この辺りは海外の方がたくさんいらっしゃるんですが、その中でもスウェーデンの方はほぼ100%の確率で、店内に入って来てくれるんです。中には『オーレ出身です』という方がいらっしゃることも。そういうことがあるたびに、渋谷の街の多様性を実感しています」
現在はスウェーデン人のリピーター客のために、スウェーデン料理のメニューを開発中で、今後新たなメニューとして加えていく予定もあるそうです。自由な発想で変化を続ける「Åre」という場所。クリエイターを中心に、国内外のさまざまな人々が交差し、渋谷キャストならではの新たなカフェ文化が生まれています。