SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2018/11/13
CAST People#8_渋谷 と 365日インスタレーションする人

一過性ではない、その場所に根付く作品で人と空間をつなぐ

有國恵介さん 株式会社ライゾマティクス クリエイティブディレクター、プロデューサー
一過性ではない、その場所に根付く作品で人と空間をつなぐ

渋谷キャストの象徴とも言える、渋谷から青山方面へ抜ける貫通通路。ここに常設されたインスタレーション「Axyz(アクシズ)」は、時刻・天気・季節などに合わせて変幻自在に表情が移り変わり、通りゆく人々の五感を楽しませています。
これは世界が注目する「ライゾマティクス」による、さまざまなリアルタイムデータを取り込んだオーディオビジュアル作品。一過性の広告ではなく、長くそこに残るような表現をつくり、人と空間の関わりを生み出していきたいーーそんな思いでこの作品を手がけたという有國恵介さんに、「Axyz」の成り立ちや表現に込められた意図など、制作の舞台裏について話を聞きました。


PHOTOGRAPHS BY Kazue KAWASE (YUKAI)
TEXT BY Atsumi NAKAZATO

「空間がどうあるべきか」という問いから導き出した一つの答え

 

多くの人々が行き交う渋谷キャストの貫通通路に常設されたインスタレーション「Axyz」。3本の柱からなる建築構造に溶け込むかのように設置された大小18台のディスプレイと、27台のマルチサウンドシステムから流れる映像・音像はリアルタイム情報を取り込みながら3次元的に移り変わり、通るたびに表情の異なる空間を体感できます。
この作品は、「貫通通路の空間がどうあるべきか」という問いから導き出された一つの表現を具現化したもの。企画プロデュースを手がけた有國恵介さんはこう振り返ります。

 

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「貫通通路を通り抜けることがちょっと特別になったり、通ることで天気や季節を感じられたり。この空間を通る人たちが気づきや発見を得るきっかけをつくりたいという思いがありました」

 

もともと大手広告代理店で働いていた有國さん。日本のクリエイティブシーンを牽引するアーティストやエンジニアが集う「ライゾマティクス」に入社したのは8年前。発注先として一緒に仕事をしたことがきっかけでした。


「当時、広告業界は表現が飽和していてやり尽くされている感じがあったんですが、新しい表現を自分たちで生み出してきたライゾマティクスは『僕らが全部やります』と言って、すべて作ってしまうみたいな勢いがあったんです。代理店と制作会社のヒエラルキーをひっくり返すみたいな。ストリートなノリがあって、アウトプットもおもしろくて。広告代理店には憧れていたものの、もっと自分らしい表現をつくりたいと思っていた時期で、代表の齋藤に『入りたいです』とメールを送ってみたのがきっかけで入社することになりました」

 

有國さんがライゾマティクスに入社して、はじめてゼロベースからつくりあげた仕事が「渋谷ヒカリエ」内に設置された3本のリングからなるデジタルサイネージでした。その後も「QFRONT」の大型ビジョンの映像を手がけるなど、渋谷とは縁が続いています。仕事だけでなく住まいも渋谷だそうで、「渋谷の街が好きで、特別な思い入れがある」と話します。

 

 

広告よりも、自由に表現できるキャンバスをつくりたい

 

有國さんが仕事をする上で大事にしているのは、「すぐに壊されるものはなるべくつくらない」ということ。長くその場に残るものをつくることを常に意識しています。

 

「関わったものがずっとそこにあってほしいという気持ちは大きいですね。代理店にいた頃はイベントごとに新しいものをつくっては壊され、というのが当たり前でした。それよりも、その場にしっかりと根付いていくものをつくりたいと思ってやっています」

 

「長く残るものをつくりたい」という思いはあっても、コンテンツ制作において、そういう機会を得るのは難しいのも事実。有國さんにとって、渋谷キャストの常設インスタレーションは“ずっとその場に残るものを実現できた”はじめての仕事だったそうです。

 

依頼から完成に至るまで、どのように考え、実現していったのでしょうか。

 

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「僕たちへの依頼は、『貫通通路の柱に1枚の大きなサイネージが設置されるのでコンテンツを考えてください』というものでした。今街なかにはディスプレイがあふれていて、広告を出していてもそれを情報として見ている人はどれだけいるのか、疑問に思っていて。渋谷キャストのお話を聞いた時も、ここに情報がどんどん流れていくイメージが持てなかったんです。映像を入れるにしても、まずはこの空間がどういうものなのかを考えた上で表現をつくるべきだと思ったので、『このサイネージ、ほんとに必要ですか?』という提案をしました」

 

サイネージという枠を開放して、そこにあり続けることで場の価値が高まるような、この空間だからできることをやるべきではないか。“文化発信基地”を掲げる渋谷キャストだからこそできることがある。有國さんの提案は、当初の依頼内容を覆すものでした。

 

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「貫通通路を通るたびに、『うん?』『これって何だろう?』と新しい気づきが得られるような状況をつくりたいと考えました。そこで象徴的な3本の柱に映像と音像を加えることで、この空間を拡張し、通る人たちの感性を広げられるとおもしろいなと思ったんです」

 

それを実現するために、時刻、天気、気温、風光、風速、太陽電力の発電量など、その場のリアルタイム情報を取り込みながら3次元的に移り変わる映像と音像を制作しました。映像は建築のデザインをベースにした表現と、自然現象をモチーフとした表現を掛け合わせ、音像は人の話し声や雑踏のざわめき、水の音など、渋谷の街でフィールドレコーディングした素材を使用。それらがリアルタイムデータと連動して3D空間上に漂いながら変化していきます。映像、音像が建築構造と溶け込むように一体となるような表現を目指しました。

 

「空間自体を作品として体験できるものにしたいので、サイネージと呼ぶのではなく、「Axyz」と名付けました。「A+XYZ」という意味を持ち、XYZの3軸からなる空間軸に、人間が感知できる“A軸”を加えることで空間と人との関わりをつくりたいという思いを込めています」

 

 

 

人が主役になれる場所であり続けるために

 

「空間を生かすことを考えると、過剰な表現よりも、違和感なく自然とそこにあることが大切」という有國さん。実際に複数のディスプレイとスピーカーを建築デザインとの調和を図りながら分散させたレイアウトにすることで、表現がその場に馴染んでいます。

 

「僕らは最先端とかテクノロジーというワードで括られがちなのですが、それらはあまり本質を捉えていない場合が多いと思います。新しい表現を切り開くことはもちろん大事だと思いますが、それを365日稼働する常設のものに落とし込むときに重要なのは、新しさよりもその場にあり続ける表現の強さだと思うんです」

 

表情を変えながら流れていく映像と音像には、どこか空気のような存在感があります。これこそ「Axyz」のめざすところでもあるのです。

 

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「ここを通った時に、『音が昨日とは別のところから聞こえる』『映像の流れるスピードがいつもと違う』と鋭く変化を感じ取ることができる“感覚”ってとても大事だなと思っていて。これってデジタルとは真逆のような気がするんです。つまり、目に見えるものですべてを伝えるのではなく、気温や風向といった“常にそこに在るけれども、見えないもの”を感じさせることで感性が開かれていく。そんな表現の方が場作りとしてはおもしろいんじゃないかなと思って形にしていきました」

 

リアルタイム情報を用いた作品を常設することは、有國さんにとって新たな挑戦でした。建築とコンテンツを融合させる過程では、苦労も多かったそうです。

 

「僕らのようなコンテンツ領域は、すでにできあがった建築のこの部分に入れるコンテンツを考えてほしいという依頼がほとんど。それだと枠の中でしか表現ができません。コンテンツ側の人間も建築領域にもっと入り込んでいくべきだと常々思っています。今回も建築チームが動いているところにあとから入っていったので、このインスタレーションを実現するために建築のデザインを調整してもらうのには苦労しました。みなさん、いいものをつくろうという意識が強くて、異業種のぶつかり合いがおもしろかったですね。受け入れてくださったことに感謝しています」

 

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今年も12月になると、インスタレーション「Axyz」はクリスマスカラーに彩られます。とはいえ、長くそこにあり続けるために、あえて派手な演出はせず、渋谷キャストらしい手づくり感とぬくもりのある雰囲気を大事にしていきます。

 

「僕が思う渋谷キャストの一番の魅力は、人が主役になれるところ。だから、表現が主役になる必要はありません。新しいものより、“毎年恒例”になるような仕掛けをつくるお手伝いをしていきたいと思っています」

 

 

渋谷ヒカリエからはじまり、渋谷キャスト、そして今は渋谷駅前の再開発中のプロジェクトにも関わっているという有國さん。これから渋谷の街で挑戦したいことを聞いてみました。

 

「渋谷では再開発がどんどん進んでいますが、だからこそハードではなくソフト発信でもっと街を楽しくしていきたい。クリエイターがもっと自由に表現できるキャンバスを街にたくさんつくっていきたいですね。渋谷ってそういうのが受け入れられる街だと思うんです」

 

渋谷で働き、遊び、住んでいる有國さんが関われば、街と人をつなぐ新しい表現がどんどん生まれていきそうです。

 

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