SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2019/02/20
CAST People#9_渋谷 と 冬をとことん温める人たち

日常の延長線上にある「本物」と出会う場をつくる

熊井晃史さん プロデューサー/クリエイティブディレクター 中村元気さん CATs リーダー 水口貴尋さん・岩本拓磨さん 東京急行電鉄株式会社
日常の延長線上にある「本物」と出会う場をつくる

おだやかな光で周囲を灯す“ほどよい”イルミネーションに、アルパカ、サウナ、ガレージセール、こたつ、ボードゲーム……。クリスマスならではの華やかな演出とは一線を画した、温もりに満ちたユニークな企画の数々。これが今年で2回目となる、渋谷キャストの冬のイベントシリーズ「WINTER CAST.」です。
今年のテーマは「HELLO」。渋谷キャストで生まれた、これまでとこれからの「出会い」を大切にしたいという思いを込めて、渋谷キャストにゆかりのあるクリエイターたちとともに、訪れる人を温かい気持ちにする企画を展開しました。

このイベントをつくり上げた中心メンバーは、プロデューサーの熊井晃史さん、地域団体「CATs」代表の中村元気さん、渋谷キャストの運営母体である東急電鉄の水口貴尋さんと岩本拓磨さん。渋谷キャストらしい冬のイベントの形を模索する中で、自分たちが本当にやりたいことを雑談の中から拾い集め、近隣で働くワーカーや地域の人たちと協力し合いながら、一つひとつ実現していったそうです。今回はこの4人が集まり、そもそも渋谷キャストがめざすところから、企画を実現するまでの苦労話、今後の展望までをざっくばらんに語ってもらいました。
真面目な話にもかかわらず、終始笑いの絶えない、“小学生男子”の放課後のような雰囲気そのままに、お伝えします。

 

PHOTOGRAPHS BY Masanori IKEDA (YUKAI)
TEXT BY Atsumi NAKAZATO

華やかな演出とは一線を画す、渋谷キャストらしい冬のイベントとは?

 


水口:イベントの話に入る前に、まず渋谷キャスト全体の話をしておこうかな。

 

熊井:学級委員長、もとい、支配人、お願いします(笑)。

 

水口:渋谷キャストは渋谷と原宿を結ぶキャットストリート(旧渋谷川遊歩道)の起点に位置していて、渋谷と原宿、表参道をつないでいく施設になりたいという思いがあって。そこで、建物の前面に大きな広場を設けているんですが、実際にどうやって街の人と関わりながら、「街の結節点」の機能を果たしていけるのかというのは、運営しながらずっと考えていました。

 

という中で、誰もがなじみのあるクリスマスは、地域とつながりが持てるような取り組みを実践するには、いいタイミングだなと。渋谷キャストで、街の人たちに何らかのアクションを形にしてもらうことで、地域の拠点になっていきたいという思いが、今回の企画の入り口です。

 

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岩本:そこから企画を進める中で、渋谷キャストならではのクリスマスって何だろうと考えた時に、いわゆる商業施設に見られるようなキラキラ系ではなく、つながり、温もり、手づくりといった温かさが伝わるようなものにしたいねと。そこで、渋谷キャストでこれまでお世話になった人やつながりのある人に関わってもらいたいと思ったんです。

 

今回熊井さんに企画をお願いしたのも、以前から子どもと大人が一緒に楽しめるワークショップやイベントを手がけてくださって、渋谷キャストのことをよくわかってくれているから。トータルプロデューサー的な役割ですね。

 

熊井:はい。キャストでは、昨年「まちあそび」というイベントをやらせてもらって。そこから、今回「WINTER CAST.」のお話をいただいて、うれしかったです。というのも、僕は子どもの学びや遊びをテーマに活動してるんですが、子どもの教育のことを考えると、最終的には街に行き着くんです。街で子どもが学び、遊ぶという大事な視点を実現できる機会として、とってもいいなと思って。

 

水口さんが「街の結節点」とおっしゃいましたが、渋谷キャストに遊びに来る中で、つながりが生まれる場所というのは肌で感じてたんですよ。あんなにたくさんの人が座れるベンチがある広場って都心にはなかなかないし、夕方に遊びに来ると、近所の子どもたちがワーキャー走り回っていて、なんなら宿題やってたりするんです。近隣で働くワーカーさんたちの間を子どもが走り抜けている光景を見ると、キャストの合言葉である「WORK, LIVE, PLAY」が事実としてあるなと。いろんなことにチャレンジできる場所だなと、可能性を感じていました。

 

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水口:今回のイベントは、「地域の人たちとつながること」が大事な目的としてあるので、キャットストリートのショップ店員さんたちで構成される地域団体CATsの代表を務める中村元気さんにもお声がけしました。地域で活動する人たちとつながりながら、このイベントを“街の活動”として位置付けられたらいいなという思いもありましたね。

 

岩本:月に一度清掃活動をしていたりと、自分たちの街を自分ごととして捉えて、アクションを起こそうとしているCATsの姿勢にすごく共感していたので、元気さんが重要なプレイヤーの一人というのはハナから思ってたんです。

 

中村:僕もお話をいただいて、すごくうれしかったですね。CATsの活動の中で行っている街の清掃活動に、水口さんと岩本さんに参加していただき、それをきっかけに飲み会にも来ていただいたりと、まさにキャットストリートの一員として活動に参加していただけるようになっていて。

CATsの中でも、地域とのつながりの中から何か新しい活動をつくっていきたいよね、という話があがっていた時に、このイベントのお話をいただいたんです。CATsのメンバーは、それぞれ所属もバックグラウンドも違うんですが、同じ一つの目標に向かって何かできるチャンスだなと思いました。

 

岩本:最初から、熊井さんと元気さんはコアでマストなメンバーだと思っていたので、まさにキャストがそろったなと。熊井さんも「元気さんやCATsのみんなとやりたい!」とおっしゃっていて。

 

熊井:元気さんの存在は、僕の中ですごく大きくて。というのも、元気さんは、若い頃から渋谷で遊んでいて、今も渋谷で働き、渋谷に住んでいる人なんですよ。イベントというのは、日常生活の延長線上のアウトプットとしてあることが重要だと思っていて。なので、今回のイベントも、本当に渋谷で遊んできた人たちが、その人たちの人間関係の中でアウトプットしていくという感覚なんです。打ち上げ花火的にやるんじゃなくて、元気さんの友人関係を絞り出す、みたいな(笑)。

 

岩本:本当にそうでしたね(笑)。

 


情報過多な都市の可能性をそのままに表現


熊井:今回は、渋谷キャストの開業から2年弱の間にストックされた本物の人間関係や活動を表現しようというのが出発点なので、渋谷で昔から、そして今も本気で遊んでいる元気さんがいたからこそ、成り立ったというか。そこで考えた「HELLO」というコンセプトには、「街の結節点でありたい」という渋谷キャストのまちづくりの姿勢を改めて伝える「街へのごあいさつ」、渋谷キャストに関わっているおもしろい人たちとともにつくる「冬との出会い方の新たなご提案」という二つの意味を込めました。

 

岩本:熊井さんは、よく「都市とは出会いだ」って言ってますもんね。

 

熊井:はい、出会い系ですね。

 

一同:(笑)

 

熊井:出会い系って言葉が、90年代後半からあまり良くない意味になっちゃって、すごく使いづらいんですけど(笑)。でも、僕らは出会いたくて都市に出かけるというか。これを買いに行きます、で終わりじゃなくて、途中で起こる予期せぬ出会いってあるじゃないですか。そのランダムさが都市の本当にいいところだし、情報量の多さが都市の可能性だと思うんです。その辺りは、今回のイベントで表現できたかなと。

 

岩本:そういう意味では、今回の企画はアルパカ、サウナ、ガレージセール、ボードゲームと、めちゃくちゃランダムでしたよね。情報量が多かった(笑)。

 

 

熊井:お客さんも困惑する、みたいな。たぶん普通の商業施設なら、こんな企画通らないですよね(笑)。

 

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岩本:手づくり、温もりを表現しようと今回実現した企画のアイデアは、どれも雑談で出てきたものばかりで。それおもしろいね、やってみようかというノリで決まっていきましたよね。

 

熊井:ははは、確かに。全部雑談ですよね。

 

岩本:あったかいと言えば、サウナでしょう、みたいな。アルパカについては、熊井さんが「あったかくてかわいいんだよ、目があったらニコって絶対笑っちゃうんですよ」って訴えてくれて(笑)。

 

熊井:どうしたら呼べるんだろうって(笑)。自分が体験したい、友達に胸を張ってオススメしたいものを追求した感じですね。それが、いい意味のランダムさにつながっていきました。

 

水口:そういう意味では、渋谷キャストのどのイベントでも、僕らはみんなに楽しんでもらう立場でありながら、結果的に自分たちが一番楽しんでいるっていうのは、あるかもしれないですね。

 


渋谷に住み、働き、遊んでいるからこそ、街の人たちを本気にできた

 


岩本:このエリアらしさで言うと、元気さんに出店者集めをお願いしたガレージセールですね。これは、熊井さんが「昔のキャットストリート感を出していこうよ」と言ってくれたところから始まりましたよね。

 

熊井:そうでした。90年代って明治通りとかそこら中で、みんな自分のものを並べてガンガン売ってたじゃないですか。すごく緊張しながら渋谷に来て、おしゃれな人がいっぱいいるのを横目に見ながら、ドキドキしていた、あの感覚って必要なんじゃないかなと思っていて。

 

今回はガレージセールを元気さんのつながりで呼んでもらって、すごいショップの店長さんがめっちゃいいものをバーンと並べてたり。

 

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中村:いやあ、うれしかったですね。僕も出店のお声がけをするのに、「この人の格好真似してきました」という憧れの方を誘うときには結構緊張しました(笑)。「とにかくあなたが選んだ服が大好きなんです」という人たちに参加してほしかったんです。

 

岩本:元気さんには、出店者をそろえたり、CATsのメンバーに気持ちよく参加していただいたりするために、奔走していただきましたよね。

 

中村:出店者を集めるお声がけについては、ショップスタッフの方々が多いので、土日に休みを申請するのが大変だったみたいで、苦労した面はありましたね。とはいえ、出店はできないけど、休憩時間に遊びに来てくれる人たちがたくさんいたり、CATsのみんながいろんな形で参加してくれたりしたのは、よかったと思っています。

 

水口:改めてすごい大変だったんだろうなって思いますね。だって土日休めることなんてほとんどないショップスタッフさんがお休みを取って、ここに関わってもらうって、相当なマインドとモチベーションがないと無理ですよね。それが実現できる日常の関係性をつくっている元気さんがすごいなと。

 

岩本:元気さんなしでは実現しなかったです、絶対。

 

熊井:そう、間違いない。元気さんのおかげで、すごくいいものが集まってて、なんならイベントの運営スタッフも結構買ってる、みたいな。

 

水口:僕、めちゃめちゃ買ってた。ははは。

 

岩本:「買っちゃったー」って見せてくれたもん。

 

水口:事務所に戻って、みんなに自慢して。しかも、買った靴、その場で履き替えたし。

 

熊井:そういう自由なノリがよかったです(笑)。もちろん仕事はちゃんとするわけですし、いらっしゃる方々へのホスピタリティも欠かさないわけですからね。

 

中村:僕もそれってすごくいいなと思っていて。自分の気持ちに素直に、やりたいことをやりたいようにやるというマインドは、街との関わり方の面でも大事だなと。

 

水口:そういう意味では、やっぱりマインドは小学6年生なのかもしれない(笑)。

一同:(笑)

 


不揃いな企画を調和させていく、建物の余白感と自由度

 

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中村:お客さんの反応もおもしろかったですね。「なんで今日ここに来たんですか?」と聞いてみたら、「ふらっと来ました」と答える人が多くて。来れば何かやっていて誰かと会えるかも、という偶然性をみんな期待していて、そこがキャストの特徴かなと。

 

熊井:それはありましたね。お客さんの層も、海外の観光客から地元のファミリーまでかなり幅広かった。ふらっと来た割には滞留時間も長くて、3、4時間ずっといる人もいたりして、すごいことだなと。

 

水口:そうそう。「ボードゲームとこたつ」のコーナーで、ゲームをやっている子たちが、途中で飲み物買ってまた戻って来て、ずっとまったりしてたり。

 

岩本:いろんな人に参加してほしいという思いが根底にあったので、ファミリーだったり、女子高生グループだったり、予定調和じゃない集客がすごくあったのは、うれしかったですね。

 

熊井:サウナでガンガン焚いてるし、楽器の音はボンボン鳴ってるし、アルパカは来るし。ここまで自由なイベントができる空間って渋谷にほとんどないですよね。渋谷キャストにとっても、これからの渋谷の街を考える上でも、今回のイベントはやってよかったなと思ってます。

 

水口:もともと渋谷キャストをつくる時に、クリエイティブなマインドを持った施設をめざしたいと思っていて。それってつくり込まれ過ぎていない余白感があって、自由度が残されていることがすごく大事だなと。まさに今回のイベントで、みなさんが思い思いに時間を過ごしてくれたことで、余白感がちゃんとあるのを再確認できて、思いが形になっていることを感じました。そういう意味では、すごくうまくいったんじゃないかな。

 

熊井:学級委員長、さすが(笑)。

 

岩本:ちゃんとまとめてくれる。

 

熊井:そういえば、渋谷キャストの建物のコンセプトは「不揃いの調和」でしたよね。

 

水口:そうそう。

 

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熊井:今回のイベントのコンテンツも、“完全なる不揃い”ですけど、やっていくうちに何となく調和していきましたよね。実現するために、東急さんが裏側で必死で動いてくださったのも大きい。

 

岩本:やっぱりキャストの運営の関わるメンバーには、おもしろいことをやるために、できる方法を徹底的に考えるという姿勢がすごくあるなと。たまに渋谷区に真正面からぶつかって、パーンと突き返されることもありますが(笑)。

 

中村:東急さんは主催者側でありながら、自分たちもプレイヤーであるという立ち位置でいるところもいいなあと。なんか一緒にやらせてもらっていて、壁がないんですよね。

 

水口:さすが元気さん、いいこと言うなあ(笑)。僕らとしても、フラットな関係性じゃないといいものができないと思っているので、関わってくれる人たちと同じ目線に立って一緒に考える、というスタンスが大事なんじゃないかなと意識してたんです。それがちゃんと伝わってたことがすごいな。

 

中村:それはやっぱり別の場所よりも強く感じるし、逆に渋谷キャストのみなさんもCATsの一員として関わってほしいなと思っていて。僕たちもコンテンツを提供する側ではなく、同じ立場で関わりたいし、それができないならやりたくないなと。今回みなさんと一緒に“チーム”としてできたことは、すごくよかったです。

これからも、CATsのメンバーが本当にやりたいことを表現できる場所として、キャストをどんどん活用していきたいですね。みんながやりたいことを実現できる“空き地”みたいな……。

 

熊井:都心でそういう場所って貴重ですからね。僕も、渋谷キャストが、さらには渋谷の街がワクワクすることを、これからもやっていきたいな。

 

岩本:まずは花見しましょうよ、花見!

 

中村:それはぜひ!

 

水口:今回のイベントは、ゴールじゃなく、まさにはじめの一歩。熊井さんも言われてましたが、都市には予定不調和なことが多々あるからこそ、新しい体験や出会いにつながっていて。街にはやっぱり「出会いの場」が必要だと思うし、都市の実験の場としても、キャストの広場をどんどん使っていきたい。そして、これからも元気さんはじめ、地域の人たちが関われる場をたくさんつくって、一緒にアクションを起こしていきたいですね。

 

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