SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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2019/04/15

都市のビジョンは、どのようにつくられていくべきか。
「クリエイティブ思考で未来の都市を考える(仮)」公開企画会議・後編

都市のビジョンは、どのようにつくられていくべきか。 「クリエイティブ思考で未来の都市を考える(仮)」公開企画会議・後編

2019年3月25日に渋谷キャスト ステージにて行われた、トークディスカッション「クリエイティブ思考で未来の都市を考える(仮)」の公開企画会議。前編では、クリエイター、編集者、ディベロッパーそれぞれがどのように都市を見ているか、各人の取り組みと共に紹介されました。後編は、ディベロッパー間での連携を実現すべく、提起されたある概念からスタートします。

 

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PHOTOGRAPHS BY カトウカズヤ
TEXT BY 加藤純

ゼロから発想する「アート思考」で街を考える

 

田中氏から改めて示されたのは、先の提言「日本の都市開発はもっとディベロッパー間で議論したほうがいい」でした。これまでの話で示されたように、以前は行政がマスタープランを描き、民間がそれに沿って開発を進めていました。しかし再生特別措置法以降は個別のプロジェクト型に変わり、自分たちの敷地を自分たちで考えて開発することをよしとしたために、全体をどうするかという視点が不鮮明になりました。「再生特別措置法から20年近くが経ち、いまや連携しようにもできない状況にあるとはいえ、やはり全体を見通したときに何かしらのビジョンは必要で、それを共有しながら進めることが大切なのではないでしょうか」と田中氏。


硬直した状況を打開するため、田中氏は「アート思考」という概念を紹介します。「ゼロから発想してものを生み出せる人をアーティストと呼ぶとすると、ゼロイチで都市を考え、ビジョンを提案することが今の時代には重要なのではないでしょうか」と投げかけました。アートが問題提起をして、デザインが問題を解決する。その後ビジネスで社会的に認知普及し、政策が人間にとって不可欠な文化芸術として定着させ、再びアートに結ぶことで循環する、という姿を示しました。「既成の領域を横断しながら物事を考える齋藤さんや豊田さんには、4月26日のトークセッションでも提案を投げてもらえないかと考えています。セッションではディベロッパーや行政の方もお呼びし、建設的な話し合いの場にできればと思います」としました。

 

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齋藤氏は、トークセッションまでには『東京大改造マップ』で作成されたExcelデータを山本氏から預かり、ビジュアライズすること考えていると発表。「自分の妄想で、都心部はこういうふうに発展してほしいというマスタープランを描きたいと思っています。今はどの街でも集客を考えているようですが、昼間人口が多い街では、夜は暗くてバーやパブがいくつかあるだけでよいかもしれません。『この街はこんな発展の仕方がある』と示してみたいのです。そこから『ウチは違うんだよ』という意見が出てくることを期待しています」。


豊田氏は、渋谷キャストで外装のデザインを担当した際、すべての構想を実現できたわけではないことに言及。「仮に法律などの規制がない前提で夢想した『HYPER SHIBUYA CAST.』の案を、周年祭の展示で見せることができればと考えています。スマートシティのプランニングでも、ひと昔前の都市計画に比べると圧倒的に高次元な状況にあります。異なる場面では相互に矛盾することが出てきて、なかなか一つのかたちに落とし込むことはできません。そうした状況を、キャストを通して可視化できればと思います」と語った。

 

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「アート思考」には、捉え方に違いがあることにも触れられました。齋藤氏は、アートとビジネスとの間には違和感があるとしつつ、「デザイン・シンキングの時代は終わり、クリエイティブ・アクションの時代が来ています。とりあえず1回やってみよう、失敗したら変えるなり引っ込めたりすればいいという考え方です。街でも、どんどんアクションを起こすことが大切ではないでしょうか。


一方で不動産事業や東京のまちづくりの構想はビジネス色がとても強いので、事業計画の前提を論破して覆すこともできるような、マーケティングとアート思考の両方を持つ人が求められています」としました。田中氏も「経済原理がわかったうえでのアート思考はあると思います」と加えました。


豊田氏は「アートという言葉を、理屈でないものでジャンプする、曖昧さがより大きな価値を生み出すという可能性を指して用いているのであれば、今テクノロジーやビジネスとしてロジックがある先に、『コントロールできず曖昧さを許容するときに複雑系が生み出しうる何か』が可能性だと思っています。巨匠アーティストがかたちを出すというより、もっと集合的なものが生み出す知や価値を探すという意味では、アート思考なのではないでしょうか」と別の観点を提示。同時に「でも水口さん、そうした動きに『乗ります』とは言えないですよね?」と振りました。水口氏は「どのような形に現れるかが見えてこないと、どうしたらいいのかとなってしまうでしょうね」と、開発側の意見を代表します。

 


似通った街の開発にならないために

 

ここで齋藤氏は山本氏に「東京大改造マップ」で見られた今年の傾向を尋ねました。山本氏は「都心3区のうち、大丸有の整備が進んだ千代田区の開発は少し落ち着いたようで、進行中の大規模プロジェクトの総延べ面積は江東区に抜かれています。一方、地下鉄新駅のできる虎ノ門や、JR新駅のできる品川の巨大開発が進行中の港区は、総延べ面積の面では突出した数字になっています」


「江東区の大規模プロジェクトには五輪関連が多く、渋谷区の各所の大規模プロジェクトも五輪開催までにかなり完成するので、以後はボリュームとしては少し落ち着くのかもしれません。これも座談会の際の議論ですが、開発のインセンティブの面での『ポスト容積率』の話を含め、『都市としての成熟』というフェーズを意識する必要があるのではないか、と感じます」と変化の節目にあることを振り返りました。

 

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齋藤氏は海外の行政の方々と話すと、彼らは東京の都市開発では地震に対する耐震化や上下水道の整備など、建設技術の高さを口々に語ることを紹介。「一方で、現状のまま都市開発が進めば、容積率を目一杯とってカーテンウォールで仕上げた、CADとCGの産物のような建物が並んでしまう」と危惧します。


齋藤氏が最近注目しているのは、若手建築家の地方での活躍です。「数年をかけて開発を進めてきた地域独自の成果が出ているのですが、その波が東京にも来るときには、民間がブロックチェーンで情報共有する仕組みは適していると思います。また何千億円という大きな規模の開発であっても、企業のなかで誰が関わっているかが明記されれば、途方にくれることなく方向性が見えてくるのかもしれません」と可能性を示しました。


水口氏も、開発主体の顔が見えにくいことに同意して「コンサルタントの総体も見えません。大手組織設計事務所の都市部門の方々や専門の都市コンサルタントが入っていても、可視化されないためです。ここに、全体ビジョンが見えにくい開発の原因の一端があるかもしれません」と指摘しました。


齋藤氏は、コンサルタントからの提案に安易に倣うと、地域が違っていても似たような街ができてしまうことを危惧。これからの開発では「人間らしさ」が重要な視点ではないか、と投げかけます。


豊田氏は「人が働く拠点を選べるようになると、それらしくつくられたフェイクのような場所がたくさんできていくでしょう。そうなればなるほど、もともとその場所にあった歴史の蓄積や価値が、劇的に向上するはずです。今の再開発では壊したほうが経済的なリターンを得やすいとみなされますが、長いスパンで見たときには残していくほうが価値をつくり、差異は大きくなるでしょう」と予測しました。


水口氏はそれに対し、仕組みづくりがやはり必要ではないか、という見解を示します。「行政サイドも特区で容積ボーナスを与えるというとき、類似の事例を求めると新しいものはできません。例えば歴史的なものを残すというガイドラインをつくり、代わりに隣の敷地では経済活動をサポートするボーナスを付与するような仕組みが考えられます」と具体例を示しました。

 

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齋藤氏は「まさに、そこをキュレーションする人が必要です」としつつ、「今の時代、すべての人が従うべき法律を施行するよりは、一人ひとりのための分散化されたルールがオプティマイズされてもいいわけです。街では文化を積み上げてきた場所があっても、再開発にかかるとリセットされがちです。耐震基準やハザードマップに則って、良い建築も簡単に壊されてしまう。それを再現しようとしても、舞台のセットにしか見えません。地域の建築課や東京都、国交省などがマスタープランをつくらないと、何も残らないでしょう」と再び警鐘を鳴らしました。


豊田氏がここで引き合いに出したのは、容積率の移譲についてです。「ニューヨークでは、街並みを保存するために容積率を隣に移譲できる仕組みがあり、都市の1つの活性剤となっています。私がSHoP時代、ニューヨークのThe Porter Houseというプロジェクトの設計にかかわった時には、隣地の歴史的建造物の指定を受けて容積を使いきれない敷地の容積を買い取り、同時に6フィートまで隣地の空中にはみ出してよい権利も買い取り、19世紀の倉庫ビルを保存することに対する補助、アベニューとストリートそれぞれからのセットバック距離、などの要件をそのまま形にしてデザインしました。それがデザインバリューとなり、貸出の坪単価も上がったのです。日本では古いものを残しても、対価が入ってこないことは問題です」と実際的な施策の例を挙げました。

 


街のデータをまちづくりに活かすには

 

ここで水口氏は、会場の聴衆者に意見を仰ぎます。一人は「歳を取っているおじいさんは偉い、という価値でいったん街を見ることができたらいいなと思っています。東京のありとあらゆる建物、木や石も、年齢をデータ化してみます。スクラップアンドビルドのなかで生き残っているお年寄りは偉いと価値付けし、まずは残してみる。擬人化してみると、個性があるほうが楽しいですよね」と投げかけました。


齋藤氏は「年齢も1つのパラメータだとは思いますが、文化度のスコアリングは必要でしょうね。街の価値を決めるのは求心性を持つ文化度ですから」としました。

 

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豊田氏も「税率用に誰かが決めるものではなく、ユーザーの使い方によって、流動的で動的なスコアリングのポイントとして出てくる『にぎわい度』のようなものをAIにかませることができると面白いです。にぎわい度の蓄積をしていけば、文化度や社会貢献度がエリアや建物に指標として取り入れられるでしょう。それが高く維持できていれば税制優遇されるような仕組みは、できそうな気がします」と予見しました。


齋藤氏は水口氏に「東急では今、人流解析やICT化などを進めようとしていますよね。場所による価値を見出そうとされているのでしょうか?」と質問します。水口氏は「そうです。データを評価し、次のまちづくりに生かすとなると『いい建物が残っている』といったことが指標になるのではないかと思います」と。答えました。


豊田氏は「去年のトークセッションでも話題に出ましたが、行政の指標を待つよりも、東急が先行してやったほうがいいのではないかと思います。そのほうが、話が早いですし、実効性をもてば周りも追随するでしょう。普段とは違うバリューのところに流れる仕組みを、価値モデルとしてつくっていただきたいと思います」と要望を出しました。


齋藤氏も「綺麗なものも汚いものも含めて、街に蓄積された文化が流れてしまったことは残念です。日本では文化を司る国の機関がなく、文化を背負う大臣もいません。だからこそ大阪万博では日本の文化をもう一度構築し、再スタートを切る格好の機会だと思います。『こういう街にします』ということは、行政の合図を待っていても時間がかかるので、民間で始めたほうがいいでしょう」と同調しました。

 

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ある聴衆は「Ingressなどのデータを生かして、シミュレーションでどこまでできるのかに興味があります。点群データを取った街では、パラメータの操作で『ここはファッションの街にしたらどうなるのか』などと試すことができるかもしれません。資金についても連携できれば、すごく面白いのではないかと思います」と期待を表しました。


齋藤氏もその可能性に理解を示します。「街にはパラメータが膨大にあります。ハードウェアだけでなく人の流れ、PASMOのデータ、通行データも気象データも…と、取れるなら全部ほしい。その複雑なパラメータから、最終的にアルゴリズミックに、SimCityの実践版のようなものができるかもしれません。自分は最終的に判断するのは人間ではないかと思っていますが、いろいろなデータを一気に集めて閲覧して評価することにはすごく興味があります」。


ただし齋藤氏は、データの共有化にはハードルがあることを示します。「POSデータの端末をつくる会社と話すと、自社ではデータを閲覧できても、データそのものは自社のものではないので留めておくことはできないというのです。その情報自体が外に出ると、自社のマーケティング情報が外に出てしまう、というのが理由です。結局、みんなが同じ器に保つことができない。POSのデータは誰かが見ても、どこかで維持されもせずに捨てられている状態です。経済産業省が物流の最適化を進めるというのであれば、国が集めて1カ所にデータを貯めるほうがいいですし、建設のBIMや点群データの情報なども集めるべきだと思います」。

 

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豊田氏は、統計的な解析の結果から属性や動向を読み取ることの難しさを指摘します。「解析の結果からは、意外なほどに比較可能なパラメータを必要な量、継続的に確保することは難しい。また、それを解析する評価関数も、時代とともに変わっていきます。現状の開発では統計を取るには規模が小さく、研究者やプレイヤーがほぼいない状態ですから、そこに投資をする感覚をディベロッパーにはもっていただきたいですね」と期待を込めて語りました。


続けて豊田氏は「スマートシティの話で可能性を感じるのは、例えば東急ではプラットフォームを持つと、都内だけでなく沿線の離散的なつながりがわかることです。全体の流通を考えるなかで、例えばヒカリエ単体での収益が落ちても構わない、というような判断ができるでしょう。もしディベロッパーが協働できなくても、それぞれのディベロッパーが異なるプラットフォームを立てて違いを出すと、会員カードのように住むプラットフォームや働くプラットフォームを選べるようになり、その時に初めて統計的な選択や要素化ができるようになるのではないでしょうか。ディベロッパーのフィールドが、土地縛り、建物縛りではない状況に移行していくのが必然な中で、非物質的なプラットフォームという特性を活かすことは今後とても重要な可能性だと思います」と述べました。


これに「今しなければ手遅れになる」と齋藤氏。「『100年に1度』と言われる再開発で、ロジスティクスの最適解を生むためのインフラやエネルギーについては、今だからこそ実装すべきでしょう。これから建築の確認申請を出すのであれば、10年後に必要なインフラを入れておいたほうがいい。連合が難しければ、各社が考えるものでもいいので今のうちに入れておかなければ、似たような施設がたくさんできていくなかで価値が下がってしまうでしょう。せっかく同じお金を出すのであれば、最適解を見出すべきだと思うのです。情報開示にしても、競争原理のなかでは難しいのかもしれませんが、ディベロッパー同士で話し合うことはできるでしょう。『そちらがつくる1万㎡のマイスは、どのようなものを想定しているのでしょうか? モーターショーをするのであれば、ウチは小さめにしておくのでサテライトで使ってください」というような、簡単なやり取りでいいのです。今度、私が東京のビジョン的なものをつくって見せたいというのは、『こういうデータが集まれば、こんなビジョンが出てくるかもしれない』ということをわかってもらいたいからです」。

 

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事業者間の連携が難しいとはいっても、どのような方向に行けばよいか議論するための材料がないわけではないと山本氏は指摘しました。「国家戦略特区のプロジェクト提案に関しては、首相官邸ホームページに公開されるので、その一分野である都市再生に関しても、どんな動きが起こっているかは把握できます。それぞれの事業者が、都市に対する貢献をどのように考えているかも分かります。私たち自身がユーザーであり得るわけですから、『あちらでこういう動きがあるなら、こちらはこうすればいいのではないか』という関心を持つ人が、もっと増えてもよいのかもしれません」。


まだまだ話は尽きませんが、所定の時間が過ぎてしまいました。田中氏は「4月26日には『202X URBAN VISIONARY』というタイトルで、さらに深掘りしたいと思っています。そのトークセッションでは今日のメンバーに加えて、大手ディベロッパーの方々や行政の方にも参加いただく予定です。また、齋藤さんと豊田さんのインスタレーションや展示をこの会場で行う予定です」と予告して締められました。


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終始、中身の濃い内容が続いたトークセッションは、数々の課題を浮き彫りにしながらも、未来へとつながる街づくりに対して強くインパクトを与えるものでした。2回目となる今回は、会場の聴衆の意見も交えてさらに広がりが出たことも印象的です。近く、4月26日でのトークセッションと展示にも期待が膨らむ公開会議となりました。

 

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