SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2022/08/29
CAST People#19

つくり手の心を語る存在となり、食材とお客様をむすぶ。
カフェ&グローサリー「Marked」

Marked 杵島 由美さん・宇留島 塁さん
つくり手の心を語る存在となり、食材とお客様をむすぶ。 カフェ&グローサリー「Marked」

2022年4月に渋谷キャストでオープンした「Marked(マークト)」。"Goodies by good ones(よい人のつくる、よいもの)"を届けることをコンセプトにしたカフェと、日常のちょっとしたものを購入できるグローサリーの機能が合わさった店舗です。 2021年に東京都墨田区の本所エリアに1号店がオープン。渋谷店はその2号店となります。

 

「Marked」を手掛けるのは、カフェを通じて地域にコミュニティをつくることを目指す株式会社WAT。その狙いどおり、「Marked」はふらっと訪れる人はもちろん、渋谷キャストの住人や隣接するコワーキングスペース「co-lab」のクリエイター、近所にお住まいの方などに早くも親しまれ始めています。
一方、もともとこの場所には、渋谷キャストの開業時から「Åre(オーレ)」という別のカフェが5年間入居していました。多くのファンに愛されていた場を引き継いで店舗を開くからこそ、陰ながらのプレッシャーもあった「Marked」の立ち上げ。今回はその裏側をブランドマネージャーの杵島由美さんと店長の宇留島塁さんに伺いました。

 

【プロフィール】
宇留島 塁
株式会社WAT Marked渋谷店 店長
2019年2月、株式会社WATに入社。約2年半の店舗勤務を経て、昨年より新店舗開発業務としてMarked渋谷店を担当。開業後はMarked渋谷の店長として店舗業務を担い、お客様にとっても、スタッフにとってもより良いお店づくりを目指し、日々励んでいる。

 

杵島 由美
フリーランス ブランディングディレクター
ブランディング会社にてディレクターとして5年間勤務し、2021年より独立、Marked2店舗の立ち上げ、運営に携わる。Markedでは、店内で提供するメニューのディレクション、グローサリーで販売するMDのバイイング、イベントやワークショップの企画・運営など、多岐にわたる業務を担っている。


PHOTOGRAPHS BY Masanori IKEDA(YUKAI)
TEXT BY Atsumi MIZUNO

仕入れて販売するだけでなく、汗をかいて農作業も経験する


「Marked」は、カフェとグローサリーが一体となった場所。人気ベーカリー「パーラー江古田」監修の自家製パンや、旬の野菜をふんだんに使ったデリ、サラダ、定食メニュー、そして自家製のアイスクリームや焼き菓子などのスイーツを店内で味わえるほか、こだわりの調味料や新鮮な野菜も店舗内で購入できます。

 

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杵島:「Marked」では、カフェだけでなく野菜や加工食品も販売していて、生産者のこだわりがつまった商品を取り揃えています。 野菜は有機のものを使ったり、ベーカリーには国産小麦を使ったり、細部までこだわったおいしいものを届けることを大切にしています。

 

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そもそもMarkedを立ち上げることになったきっかけは、コロナウイルスで多くの飲食店が立ち行かなくなった際に、大量の野菜や果物が余り、生産者が困っている状況をWATの代表である石渡さんが目のあたりにしたこと。

 

余ってしまった野菜や果物をどうにか循環させられないかと考え、保存期間を確保できるアイスクリームとして生まれ変わらせたり、カフェにマーケットを併設するかたちで野菜や果物も販売するといった発想が生まれたそうです。

 

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季節の食材をふんだんに使ったアイスクリームは、濃厚で優しい味わい。

渋谷キャストのオフィス利用者さんが、おやつに買ってくれることも多いのだとか!

 


さらに「Marked」では、社内のスタッフたちにももっとつくり手の想いを汲み取ってほしいという願いがあります。

 

杵島:Markedでは、より生産者さんと近い業態をつくるためにシェアファームを借りて、畑に行けるスタッフが農作業もしています。収穫は全作業のほんの一割くらいで、大半が草むしりなんですけど(笑)

 

そういう体験をすることで、「一つのものを出荷するために、こんなに農家さんって大変なんだ」とスタッフが感じられると、自分たちが仕入れた食材を無駄にすることなく、ちゃんと使い切りたいという思いが芽生える。


スタッフには、そんなふうに食材への思い入れをもってほしいと思っています。

 

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畑で収穫したものは店舗で販売したり、アイスクリームやサラダに使ったり、Marked以外の店舗でも料理に使っているのだそう。

 

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取材日には、前日にスタッフが収穫した新鮮なブラックベリーがレジ横に並べられていました。

 


宇留島:普段は渋谷に毎日いて、急にぽんっと自然なところに行って無心で草むしりをする。夏ということもあって最初は辛かったのですが、終わる頃には達成感もありすっきり!そして、農作業にみんなで取り組むことが楽しかったです。

 

「自分で収穫してきました」とお客様に伝えて購入していただいて、「美味しかったです」と言っていただけるとすごく嬉しくて。私としては、他のスタッフにもそういう体験をぜひしてもらいたいです。

 

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杵島:スタッフにとっても大きな経験になりますし、収穫自体は大変な作業なので、農家さんのお手伝いにもなります。しかも、収穫したものを購入して店舗で販売できればなお良い。
でもこの試みに関しては、まだまだ道半ばだなと思っています。頭と手を動かす活動は、これからもみんなを巻き込みながら積極的にやっていきたいです。

 

 

 

常連さんに愛されたカフェの跡地にお店を開くという挑戦


現在「Marked」が入居している場所には、渋谷キャストの開業以来「Åre」というカフェが入居しており、多くのファンに惜しまれつつ2022年2月に閉店しました。その跡地を引き継ぎ、新たな店舗を立ち上げることには杵島さんも難しさを感じていたそうです。

 

杵島:私は、実は「Åre」さんの営業最終日にもこっそりお邪魔していました。常連さんがすごくたくさん来ていて、手土産をスタッフさんに渡したり、「またどこかで会いましょう」という会話がそこかしこで交わされたりしていて。「こんなに愛されてるのに、なんで閉めちゃうの?」と、私が感極まってしまうくらい(笑)

 

だからこそ、その跡地にお店を開くことを正直プレッシャーに感じていました。今まで「Åre」さんに来られていた常連のお客様が「Marked」のことをどう思うかわからないし、気に入っていただけるか分からないなかで、どうしたらいいんだろうという悩みはありました。

 

宇留島:閉店前に「Åre」さんを訪れたとき、若いお客様の中に常連さんもたくさんいて、幅広い方に愛されていたんだなと私も実感しました。 でもありがたいことに、「Marked」の開店以来、若い方やお仕事をここでされる方、 ほぼ毎日来てくれるご近所にお住まいのおじいちゃんなど、さまざまなお客さまにご利用していただいています。

 

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宇留島:WATが立ち上げている店舗は複数あるんですが、「Marked」のお客様は他店舗と比べて若い世代が多いです。目まぐるしい渋谷という土地柄、忙しい毎日でも安心して食べられる健康志向を重視しつつ、ストイックになりすぎないようにちょっとポップなメニューも充実させています。

 

たとえば、定食には野菜がゴロゴロ入ったお味噌汁を用意する一方で、朝食用にマスカルポーネの藻塩あんバタートーストを開発したり。まだ手探りの部分も多いので、メニューの一部を週替わりにしてお客様の反応を見ながらブラッシュアップを続けています。

 

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旬の食材を活かして見た目にもこだわった、視覚的にもお腹にも嬉しいメニューが楽しめます。

 

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すでに大人気のメニューとなっているマスカルポーネの藻塩あんバタートースト

 


杵島:あとは、私たちのもう1つのテーマでもある“循環”を体現するために、「Marked」の開店にあたって、食器は全て新しいものを買うのではなく、長野にあるReBuilding Centerというリユースショップに買いに行きました。最近はちょっと欠けてきたお皿もあるので、今度みんなで金継ぎをやろうかという話もしています。

 

 

 

ほっと一息つける“つくり手とお客様をつなぐ場”をつくりたい


つくり手の想いや循環を大切にしながら、体に良いものをお客さまに届けることを目指す「Marked」。店内では、若い方や年配の方、仕事で利用する方など、さまざまな方がすでに思い思いに時間を過ごしている様子が見られます。

 

宇留島:朝が結構気持ちいいんです。わざわざテラスに行っていいですかと聞かれるお客様も多くて。

 

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渋谷キャストの広場が面する、賑やかな明治通りの反対側にあるMarkedのテラス席。

渋谷の街でも、緑豊かな空間がたのしめます。

 


杵島:陽の光が当たる朝のテラスはおすすめです。緑が豊かなので、渋谷らしからぬ空間でモーニングが食べられるのはすごく気持ちがよくて。

 

あとはco-labの入居者の方が、仕事終わりに一杯飲んで行っていいですかと、ビールやワインを飲みに寄ってくださったり。昼のランチはもちろんですが、そういう時間の過ごし方も、理想的な使い方ですね。
カフェ以外にも、グローサリーの方はぱっと立ち寄って食パンを買ってくださるワーカーさんや、お弁当を買ってくださる渋谷キャストの住人さんがいます。ランチのついでに、空の容器を持ってきて量り売りの洗剤を買ってくださる方もいたり。そうやって徐々に、「Marked」が渋谷というまちの日常に溶け込んでいってるように感じています。

 

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環境に配慮した食器用洗剤の量り売りも行っています。

 


杵島:ただ、空間の使い方はまだ全然満足していなくて。忙しい中でも一息つけるようなカフェにしたいという気持ちがあるので、テラス席の数を変えたいし、低いソファーがあったり、ちょっと立って飲める場があったり、もう少しいろんな家具があった方が楽しいんじゃないかと考えています。
よりリラックスできる雰囲気をつくっていくために、これから変化させていきたいです。

 

今後、Markedでは野菜やグローサリーの売上をもっと伸ばしていきたいのだとか。そのため、お客様にそれぞれの商品の魅力をスタッフ自身が伝えていける環境を整え、生産者とお客様をより一層つなげていきたいと考えているそうです。

 

杵島:野菜の仕入れ担当者が、商品の情報を他のスタッフにも共有するようにしていますが、今後は個々のスタッフが自分で商品について学んでくれたらうれしいですね。
学校で先生が言ってることって、あんまり覚えてないじゃないですか。それよりも、ちゃんと自分で調べた方が身になる。だからスタッフにも、より自発的につくり手や商品について学んでほしいと思っているんです。

 

どのスタッフもお客様としゃべるのが好きだし、「野菜美味しかったよ」と言われたときは嬉しいと思うはず。「あのお客様にもっとこういうことを伝えたいな」とか「こういうことを知っていたらもっと説明できるな」とか、調べる気持ちや学ぶ意欲が自然と湧いてくるような環境を整えたいですね。
最近は、グローサリーの中から商品を2つ選んで、自分の感想やつくり手の情報を共有するスタッフ同士の交換ノートのような取り組みをはじめて。自発的な学びが生まれる仕掛けづくりも模索しています。

 

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宇留島:自分もまだまだ足りない部分があるなかで、スタッフにどうやって「Marked」として大切にしたいことを伝えていったらいいんだろうとずっと考えてます。
最近はちょっと自信がでてきて、いろんな人と関係性を築けるようになってきたなと思う部分もありますが、チャレンジしたいことはたくさんあるので一歩ずつ進んでいきたいです。

 

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歩み始めたばかりの「Marked」。「職・住・遊」の機能がクリエイティブに交じり合う渋谷キャストで、「Marked」の挑戦がどんな変化を生み出していくのか、これからがとても楽しみです。

 

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