ジャーナル
渋谷キャスト×渋渋|中高生によるガチンコイベント企画「レイワキチ」。
大人と肩を並べる社会経験から生まれる学びと変化とは?
さまざまなクリエイティビティが交差する、地域にひらかれた場を目指す渋谷キャスト。これまでに、コミュニティ・社会で育児することの未来について考える「子連れ100人カイギ」や、子どもと大人の遊びをつくるワークショップ「渋谷まちあそび」、おとなりの渋谷教育学園渋谷中学高等学校の学生を巻き込んだ音楽プロジェクトなど、大人はもちろん、子どもも街に参加できるきっかけを提供し続けてきました。
大都市の真ん中にあって、地域にひらかれた「民間施設」が、子どもや学生を巻き込んでいくことにどんな意味があるのか。はたまた、どんな可能性を秘めているのか。連載シリーズ「CAST People まちとこどもの結節点」では、子どもに関わる活動やイベントの仕掛け人、学生を支える先生たちの思いをお届けします。
第3回目で取り上げるのは、「渋谷教育学園渋谷中学高等学校」の生徒が企画から当日の運営までを担当した「レイワキチ」。イベント当日の模様を振り返りながら、イベントの企画から開催当日まで生徒に併走し続けた東急株式会社の岩本拓磨さん(現サッポロ不動産開発株式会社)、田行礼奈さん、渋谷教育学園教員の真仁田智先生、 鈴木健祐先生に、イベントの手応えや生徒たちの姿、そしてこれからの展望について話を伺いました。
【プロフィール】
岩本 拓磨
サッポロ不動産開発株式会社 恵比寿事業本部 AM統括部 担当部長
2007年サッポロビール㈱入社。2011年よりサッポロ不動産開発㈱に出向し、2018年より東急㈱に出向。主に渋谷キャストの広場・多目的スペースの企画・運営を担当。2021年よりサッポロ不動産開発㈱に復職。恵比寿のまちづくりや恵比寿ガーデンプレイス広場の企画・運用を手掛ける。
田行 礼奈
東急株式会社 ビル運営事業部 事業推進グループ SC担当 兼 一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ
2017年東急㈱入社。2018年より渋谷ヒカリエのイベントスペース運営を担当。2021年には渋谷キャストの広場・多目的スペースの企画・運営担当に着任。2022年より一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツに所属し、二子玉川の公共空間におけるまちづくりを手掛ける。
真仁田 智
渋谷教育学園渋谷中学高等学校 中学教頭補佐
1987年より渋谷教育学園に勤務。社会科担当で主に公民科目の現代社会、倫理・政治経済の教科を受け持つ。社会科研究会・討論同好会の活動に携わり、対話的議論を生徒と共に探求するほか、生徒と地域の方々が協働作業やワークショップで連携する機会作りに励む。
鈴木 健祐
渋谷教育学園渋谷中学高等学校 教員
2012年㈱ワークスアプリケーションズ入社。営業職・人事職を経て、2018年にかねてからの夢だった教師に転職。渋谷教育学園渋谷中学高等学校にて英語科を担当。生徒がやりたいことをプロジェクトとして実現する同好会「Biz部」の顧問も務める。
PHOTOGRAPHS BY
Koji TADA(YUKAI)
TEXT BY
Atsumi MIZUNO
昭和レトロ×令和の秘密基地「レイワキチ」
以前から互いのイベントの協力などを通して交流が生まれていた渋谷キャストと渋谷教育学園渋谷中学高等学校(通称、渋渋)。そんな関係性を背景に、生徒たちに社会経験の機会を提供しつつ、大人の常識外のアイデアからつくるイベントを渋谷キャストで開催できないか?と、去年2月に岩本さんが真仁田先生に相談したのが企画の始まりでした。
その後、「地域交流・地域還元」をお題とした学内の企画コンペが行われ、参加者同士の投票で採択するアイデアが決定しました。 選ばれたのは、新型コロナウイルスの影響で行事が減り、地域に関わる機会が失われ続けている小学生に、渋谷の街や街の人との交流を楽しんでもらえる1日をつくりたいと掲げていたチームの企画。令和のいま、子どもにとっては新しく、大人にとっては懐かしい昭和レトロな雰囲気漂う秘密基地のような空間で、子どもも大人も一緒になって懐かしの遊びが楽しめる縁日、通称「レイワキチ」を実施するというものでした。
イベント当日は、これまでにないほどたくさんの子どもたちの笑顔であふれた渋谷キャストの広場。けん玉パフォーマーや紙芝居屋さんなど、昭和レトロ×令和の秘密基地という「レイワキチ」のコンセプトどおり、どこか懐かしいながら、新しさも垣間見えるコンテンツが揃い、会場は大いに盛り上がりました。
音楽×ダンス×けん玉で魅せる新感覚のパフォーマンスを繰り広げた01HEADS
けん玉や輪投げ体験でスタンプを貯めると、駄菓子と交換できる仕掛けも。
昭和レトロな装飾が取り入れられたテントの秘密基地は、子どもたちの人気スポットでした。
企画が始動してから、緊急事態宣言による延期を経て今年4月に無事開催された「レイワキチ」。渋谷キャストを舞台に限られた予算内でイベントを形にしていくのは、渋渋の生徒と先生、渋谷キャストのスタッフ全員にとって大きなチャレンジだったようです。
イベント終了後、東急株式会社の岩本拓磨さん(現サッポロ不動産開発株式会社)、田行礼奈さん、渋谷教育学園教員の真仁田智先生、 鈴木健祐先生の4名にイベントまでの経緯も振り返りながらお話を伺いました。
実践的な社会経験の場にしてもらいたかった
岩本:渋谷キャストと渋渋さんの交流は、渋谷に地域交流を生み出すイベント「おとなりサンデー」をきっかけに、「何か一緒にできませんか?」と真仁田先生からお声がけいただいたところから始まりました。民間と学校が連携することで新たに生まれるシナジーがきっとあるし、大人の常識外のことを生徒さんからインプットしてもらえるチャンスがあるんじゃないかと思い、渋渋さんと一緒に何かやりたいとずっと考えていたので、こちらとしても渡りに船というタイミングでした。
岩本:その後、生徒さんには、渋谷キャスト恒例の冬イベント『WINTER CAST.』や、ゴミ拾いプロジェクトに参加いただいたりしていて、渋渋さんとはいい関係ができているなと勝手に感じていました。
真仁田:レイワキチは、そうやっていろいろご一緒した中でも、一番大きい企画でしたね。
岩本:今のところハイライトですよね。2019年の末ぐらいから勝手にふつふつと考えていたのが、渋谷キャストで毎年開催している盆踊りイベント「BON CAST. 」の企画を生徒さんに考えてもらえないかということでした。
「BON CAST. 」自体は、地域の人たちがすごく楽しみにしてくれているイベントなので毎年開催しているんですが、マンネリ化しつつある上にコロナの感染対策も考慮しないといけないから、盆踊りをそのまま開催するのは難しい。だから、生徒さんに僕では考えつかないようなことを教えてもらいたかったんです。
キャスト恒例の夏イベントとなっていた「BON CAST. 」。
やぐらと提灯が設置されたお祭りムードの広場には、クリエイターや住人、オフィスワーカー、地域の人が大集合。
2020年、21年はコロナウイルス感染症の影響で開催中止に。
岩本:もう一つ、渋谷キャストはエリアマネジメントに取り組んでいるので、街の人とつながっていく仕事を生徒さんにも学んでもらいたいと思っていました。結果、街に対してのロイヤリティや、仕事への興味を高めてもらいたいというのが頭にあって、真仁田先生に相談しました。
真仁田:地域貢献・地域還元がテーマだという話でしたよね。 鈴木先生は最初はどんなイメージでしたか?
鈴木:ビジネスコンテストのようなイベントは生徒たちもいくつか経験していましたが、今回の話は実際に「何かを誰かに届けられる取り組み」。それが学生のイベントや行事とは一線を画していたので、生徒にとってすごくいい経験のチャンスになるだろうなと思っていました。
岩本:大人たちが普段どういう仕事をしているのかを見せられた方が、生徒さんのためになるんじゃないかと考えました。だから、企画をコンペ形式にして、説明会も単なる説明ではなく「こういう企画をお願いします」と、私が資料をつくって生徒さんの前でプレゼンしたんです。
岩本さんによるプロジェクト説明会には多くの学生が駆けつけました。
岩本:その後、個人ベースの企画出しとグルーピングを経て、コンペに向けてチームで1ヶ月くらいかけて企画を考えてもらって。僕を交えた企画会議も一度は必ずしてもらい、チームごとに一つひとつアドバイスもしました。
プロジェクションマッピングなど、企画が通っても予算的に実現できないものは少しづつ方向修正をしながら、現実路線に落とし込む作業をしましたね。
グループに分かれて思い思いの企画を練る学生たち。
アイデアの面白さに加え、実現性や目的に沿ったコンセプトなどを話し合います。
真仁田:ランタンを飛ばすお祭りを取り入れたいと考えたチームもありました。それを渋谷キャストでやったら「山手線が止まるよ」と言われたりしていましたね。
岩本:そういうのも社会勉強の一つだと思うんですよね。僕が以前恵比寿ガーデンプレイスで仕事をしていたときに、恵比寿駅で風船が原因で山手線が止まった事象があり、JRさんから電話がかかってきたことがありました。それはガーデンプレイスが原因じゃなかったからよかったんだけど、実際に電車を止めたら億の損害になるんだぜと(笑)。
鈴木:「何が地域貢献なんだろう?」「誰に何を届けるんだろう?」というところからしっかり考えさせてくれたのは、生徒たちにとって非常によかったと思います。
あとは、ビジネスコンテストと違って良いアイデアが出ることがゴールではなく、現実的な予算とステークホルダーがいる中で、実際にお仕事している人と一緒にイベントとして実現できることは何かを考えられたのも、非常にありがたかったですね。
真仁田:ガチンコで対等にやりますよと、ずっと言っていただいていたので。
岩本:チームごとに人数が違うので、何%の票を自分たちのチーム以外から集められたかという得票率で比較しようと、ちゃんと集計方法も考えましたね。
グループコンペ当日。さまざまな視点から考えられた、今の渋谷にこそ求められる企画が各チームから発表されました。
採択チームのプレゼン内容。コンセプトに沿ったネーミングの説明に会場も聴き入ります。
多くの質問が飛び交う熱気の入った企画プレゼン。
当日は講評の時間が足りなくなってしまったので、後日、岩本さんから各チームへの講評が文章で届きました。
生徒だけでなく、大人にとっても貴重な学びの場だった
岩本:その後、企画途中ではありますが、僕が出向元に戻らないといけなくなってしまい、僕に代わって田行さんがイベント当日まで生徒さんと一緒に走ってくれました。
田行さんは僕より歳も学生に近いですし、彼女自身もイベントづくりの経験が多くあったわけではないので、よりフラットな目線で生徒さんと一緒に取り組む立場をとってくれました。みんなにとっても、それはやりやすかったんだろうなと傍目に見ていて感じました。
田行:まさにちょうど異動になったタイミングで企画コンペに参加して、こんなすごいのやるの?というところから始まりました。初めてキャストを担当することになり、施設主催のイベントを頑張るぞと思ったら、それが渋渋の企画。まさに自分がつくらないといけないイベントでした。
田行:自分と渋渋生でやりきることが勉強になりましたし、困ったときは生徒のみんなに助けてもらってばかりで。生徒たちの間に入って、輪の中心に入れてもらいながら一緒に走ったのが今回の企画だったと思うので、やり抜いた達成感も多分みんなと同じくらいに持ってます(笑)。
岩本:ひとつヒントを出すと、そこから無限にわーっと意見を出してくれるような感じだったので、イベントのゲストを探すのも、交渉も、生徒さんにお任せしたんです。
鈴木:そこまでやらせてくれていたんですね!
岩本:そこまでやってこそだと思っていたので。紙芝居師の三ツ沢グッチさんへの交渉も、何かあったら僕らがフォローに入れるような体制は取ってましたが、僕らが日々やっていることを経験してもらおうと思って、基本的には全部生徒さんにお願いしました。だから田行さんも僕も、どこまで生徒さんに手を差し伸べたらいいんだろうというのは裏で悩んでいて。地域貢献はイベントを成し遂げれば達成できる。でもそれだけではなく、我々民間企業のことを知ってもらい、社会経験をしてもらいたかったから、僕らがどこまでやるかというのは何度も話し合いました。
渋渋生の依頼と交渉を経て出演が決まった紙芝居芸人の三ツ沢グッチさん。
子どもたちも大盛り上がりでした。
鈴木:どこまで生徒を助けるかって、教員の永遠のテーマと言ってもいいくらいなんです。それを同じような目線で悩んでくれているのが、教員仲間なのかな?と思うくらい(笑)
鈴木:外部の方とのやりとりや管理まで任せてくださっていたのは知らなかったので、とてもありがたいです。すごくいいバランスで、助け舟を出すところと任せるところを考えてくださったのかなと思います。
岩本:田行さんが当日まで生徒さんと細かくコミュニケーションをとってくれました。生徒のみんなも、僕らも怠りがちな「報告」のところまでちゃんとしてくれて。
田行:企画メンバーの生徒さん、あえてチームにリーダーを設けていなかったんですよね。
岩本:みんなでそれぞれやっていくのを理解して選んだ上で、チームとして進めてくれたから、誰かがいなかったから話が進まないというのがなかった。
田行:最後の最後まで彼らの力でイベントをつくり上げてくれたなと思います。景品と引き換えるためのスタンプを、各コンテンツで何個ゲットできるようにするのかといった細かい運営ルールを考えたり、 アイデアを詰めきらなかった現場の装飾を、当日に企画メンバーがボランティアスタッフの生徒さんと一緒につくってくれたり。
生徒たちのアイデアのおかげで結果的にうまく収まりしました。
岩本:当日現場に行った時にどうやったら自分が楽しめるか、どうやったら運営として上手くいくか、お客様がどうしたら楽しいかというのをすごく考えてくれていましたね。
最初のコンペの時に、「一番大事なことは実現させることじゃなく、みんなが楽しくないと意味がない」というのは口すっぱく言っていました。僕も仕事をやる上で大事に思っていることなんですけど、東急のメンバーもそれが体現できているんだよと生徒さんにも伝えていて、それを当日ボランティアで参加してくれた生徒さんも含め、みんなが実践してくれていたなと思います。
当日は企画チームにより丁寧に作り込まれた運営マニュアルをもとに、チームワークでイベントを成功に導きました。
田行:私の立場だと、実際やる時に困らないか、運営が回るかという視点で企画を固めていくことが多かったんですが、生徒たちはコンペのタイミングから「小学生に地域との交流を楽しんでもらう」という目標をしっかり持っていて、そこをブラさずに毎回提案をしてくれるんですよね。
「小学生は、こうだと思います」「交流を生むんだったら、こっちの方がいいと思う」ということを言ってくれて、自分が集中しすぎて抜けちゃうような観点を思い出させてくれるので、常に気づきがありました。それが形になって、小学生たちがイベントをとても楽しんでくれていたのが印象的でした。
民間と学校、渋谷を舞台に同じ目線でチャレンジし続けたい
真仁田:レイワキチ企画メンバーの生徒の中には、学園祭の実行委員会のリーダーをやったり、生徒会長の選挙に出たり、学校の広報誌に体験談を寄稿している子もいて、今回の経験を通して何かスイッチが入ったのかなと感じています。生徒からは、できればまたレイワキチのような企画をやりたいという希望も出ていて、岩本さんと田行さんに今後のための振り返りのアンケートもしたいと話していました。
岩本:ありがたいですね。次なるステップへのアクションを自分たちで起こしてくれていたり、後輩にもチャンスを持ってもらいたいと思っている。今回の挑戦は、僕らとしてはすごく成功だったと感じています。
渋谷をより良い街にしていくために、渋渋さんと渋谷キャストが同じ目線で今後も一緒にチャレンジしてほしいと思いますし、もっと街のためにこんなことしましょうよ!といってもらえたらすごく嬉しいですね。
鈴木:いろんなことをやってみたいという気持ちはあった生徒たちですけど、イベントを形にしていく過程でいろんなことを学んだはずです。それを誰かに還元したいという気持ちも活動を通じて芽生えて育ってきたと思うので、ありがたいです。イベントを企画した学年の先生たちも、生徒たちの楽しそうな姿を見て、良い機会だったと言ってました。
田行:私たちもめちゃくちゃ楽しかったですよね!
岩本:生徒さんたちに言っておきながら、自分たちがめちゃくちゃ楽しかった(笑)
真仁田:今後も、こういったコラボはぜひ続けていきたいですね。
鈴木:生徒にとってまたとない学びの場になるので、この記事を読んでコラボしたい企業さんがいれば、ぜひお声がけください(笑)。
渋谷キャストと渋渋がつながることで生まれた新たな挑戦。地域に貢献するというお題のもと企画に正面から挑んだ子どもたち、そして彼らの姿勢やアイデアから学びを得る大人たち。イベントの軌跡を辿りながら終始笑顔の絶えなかった本取材からも、これからのコラボへの期待が感じられました。