ジャーナル
<EVENT REPORT>
渋谷と世界のクリエイターをつなぐ3夜連続トーク
『シブヤ クリエイティブ トーク』
2020年7月1日から3夜連続で、クリエイティブが日々生み出される渋谷を軸足に活躍するクリエイターと、世界のクリエイターをつなぐ連続トークイベント『シブヤ クリエイティブ トーク』が開催されました。
新型コロナウイルスの影響で国内外への移動が制限されるいま。そんな状況を逆手にとって思い切って渋谷を飛び出し、デザインやサステナビリティの分野で先進的なデンマークで活躍するクリエイターと交流する機会が生まれました。
ゲストスピーカーの方々には、それぞれが関わる最新のプロジェクトを紹介いただきながら、キャリアに対する考え方や、クライアントワーク、創作プロセスにおいて重要視にしていること、企業とサステナビリティの関係性など、さまざまなトピックについて独自の視点から語っていただきました。
スピーカーも参加者も同じように日々クリエイティブと向き合っている立場だからこそ、海を越えても共感・刺激し合えるイベントとなりました。
本レポートでは、その中でも特に印象的だったトークの模様をお届けします。
DAY1:『海外で働く!渋谷とデンマークのクリエイティブな現場から』
【SPEAKER】
・森田美紀(もりた みき)/ MOK Architects 建築家
・蒔田 智則(まきた とものり) / 環境設備エンジニア サイト
・曹 政 (チャオ ゼン)/ Investor, asobu co-founder
【MODERATOR】
・岡村彩(おかむら あや) / ayanomimi 代表
第一夜のテーマは「働き方と働く場所」。ゲストにはコペンハーゲンで建築家として働く森田さん、環境設備エンジニアの蒔田さん、日本でクリエイターを支援するコミュニティを運営する投資家の曹さんを迎え、 皆さんが取り組むプロジェクトや、日本と海外の働き方、考え方の違いについてお話を伺いました。
1人目のトークは森田さん。デンマークの大学院で建築を学びながら、現地のブランディングエージェンシー「Kontrapunkt」のインターンを経験した森田さんは、デザインに対する考え方に刺激を受けたと言います。
「Kontrapunktでは、クライアントの打ち合わせにPMやデザイナー、ストラテジスト、リサーチャー全員が集い、それぞれの視点から『本当に伝わるものをつくるにはどうすればいいか』を議論します。デザインの内容だけでなく、枠組みやプロセスから考えていくことの重要性を学びました」
caption:森田さんが芸術祭のためにデザインしたパビリオン。
日本ではメジャーですが、デンマークではすぐに捨てられてしまいがち間伐材を使用し、
小さなものにも価値があり、集まれば美しいものが作れることを表現しました。
続いて、コペンハーゲン在住の蒔田さん。目には見えない空間の「快適さ」を、空気の温度や風、湿度、気化熱など、さまざまな観点からデザインしていく「環境設備エンジニア」である蒔田さんは、 ビジネスシーンにおいて「気候変動」がいかに注目されているかについて言及しました。
「入居しているコワーキングスペース『BLOX』では『気候変動』が極めて重要なテーマになっていて、関連のワークショップやレクチャーが多数展開されるほどです。 しかしそれは『ロケットを作る』というような大層なことではなく、すでに世の中にある色々な技術をどう接続するか、コラボレーションさせるか。その意識が非常に高いと感じます」
caption:蒔田さんが建築家の隈研吾さんと一緒に取り組むプロジェクト「Paper island」。
コペンハーゲンの運河上に立つ新しい親水施設で、 隈さんが得意とする木漏れ日のように差し込む太陽光の実現方法や、
熱を何度も再利用してから海に流すサステナブルなテクニックを蒔田さんが考えています。
最後のスピーカーは、ベンチャーキャピタルで働きながらゲームクリエイターたちをサポートするコミュニティ「asobu」を運営する曹さん。 外資系の投資銀行やコンサルティング企業など、これまでにグローバルに様々な職場を経験してきた曹さんですが、キャリアの転機について次のように語りました。
「5年ほど前、前職のある案件に関わる中で、クリエイティブな人の仕事の仕方に魅力を感じて。自分はクリエイティブな人間じゃないけれどそういう人をサポートしたいと考えるようになって、自分主体で『asobu』を立ち上げることにしました」
caption:曹さんの運営するコミュニティ「asobu」での様子。
「インディーゲームクリエイター」と呼ばれる、1人や少人数でゲームをつくるクリエイターたちをメインに支援しながら、
「ゲームクリエイター」という職業をよりレベルの高いものにしていくことを目指しています。
DAY2:『社会を動かす!世界に拠点を持つデザイン戦略ファーム』
【SPEAKER】
・Emil Andreas Bruun Sørensen(エミール・ソレンセン) / Kontrapunkt(コントラプンクト)ブランド ストラテジスト
・Hector Noval(ヘクター・ノーヴァル) / Designit (デザインニット)東京支社代表
・渡邉康太郎 (わたなべ こうたろう)/ Takram パートナー・コンテクストデザイナー
【MODERATOR】
・三瓶亮(さんぺい りょう)/ 株式会社メンバーズ LXグループ UX MILKプロデューサー
第二夜は、世界に複数の拠点をもつグローバルなデザインファームで働くメンバーが集結。会社や彼らがどのように未来を見据え、 社会にアプローチをかけているのか、様々なプロジェクトの事例をもとに語っていただきました。
caption:第2夜のメンバー。左上から時計回りに、三瓶さん、ヘクターさん、渡邉さん、エミールさん。
終盤のクロストークでは、「サステナビリティ」が議論のテーマに。モデレーターの三瓶さんによる、 「サステナビリティは今後ブランドのイメージにどのように影響していくのか」という質問にメンバーが答えました。
エミールさん「持続可能性は、企業にとって『資産価値』のようなものになっていくと思います。重要なのは、必ず行動に移さないと意味がないということ。 全ての会社がサステナビリティを意識していくべきです。また、個人的にサステナビリティについてはとにかく『個人』のレベルで行動する、それが何よりも重要だと考えています」
caption:Kontrapunktがリブランディングに取り組んだ、デンマークの洋上風力発電最大手「エルステッド」。
2020年の「世界で最も持続可能な100社」ランキングで首位に選ばれました。
渡邉さん「サステナビリティについて考えるとき、江戸幕府の取り組み(堆肥の利用、伐採する木の量のコントロールなど)が参照されることがありますね。 あれは、幕府が翌年度以降の経済活動が持続的に行えることに配慮していたことの現れです。
循環型社会は、個人の取り組みから幕府の意思決定までを、ひとつの連なりとして捉えるものでした。 現代社会を考えるとき、私たちは個人でも、会社や産業でも、いろいろなレベルで当事者意識を持っていたいものです。 Takramでは今、そういった案件により積極的に関われるような会社としての仕組みを用意しているところです」
caption:co-lab二子玉川の会員である、株式会社cocoroeの渡辺祐亮さん、田中美帆さんが、
当日の様子を素敵なビジュアルノートにまとめてくださいました。
DAY3:『未来をつくる!最先端のテクノロジーとクリエイターの探究力』
【SPEAKER】
・石黒猛 (いしぐろ たけし)/ Takeshi Ishiguro Creative Lab 代表
・Brian Lund Lauridsen(ブライアン・ルンド・ロウリッドセン) / Set Snail (セット スネイル)Creative Director
・Gregor Finger(グレゴール・フィンガー ) / Bakken & Bæck (バッケンアンドベック)XR Specialist
・Alice Shaughnessy (アリス・ショーネシー) / FIELD (フィールド)Producer
【MODERATOR】
・小田嶋 Alex 太輔(おだじま あれっくす たいすけ)/ EDGEof Innovation CEO
ラストとなる第3夜では、VRやARなど、最先端のテクノロジーを駆使して活動するクリエイター達が登壇しました。
MoMAにも作品が収蔵されている石黒さんをはじめ、IKEAのイノベーションラボ「SPACE10」が取り組む最新プロジェクト「Everyday Experiments」 に参画するブライアンさんとグレゴールさんに、近未来的なビジュアルを多数展開するFIELDのアリスさんらが集うまたとない機会。 ものづくりの裏側やそれを支える探究力をテーマに、それぞれ語っていただきました。
caption:左上から時計周りに、アリスさん、小田嶋さん、石黒さん、ブライアンさん、グレゴールさん。
終盤のクロストークでは、モデレーターの小田嶋さんが「皆さんは作品の体験者にどういった感情を持ってもらいたいですか?」と、メンバー全員に質問しました。
最先端のデジタル技術を用いた、複雑なプロジェクトに取り組むことが多いというアリスさんは、その取り組みが人々に理解されるかどうかを重要視するそう。
「目に見えないものを可視化することが、弊社の活動のコアな部分です。可視化されたものに対して、人がどう反応するのか、それが受け入れられるのかどうかはやはり気になりますね」
caption:アリスさんの所属するFIELDでは、いかなるプロジェクトでも
ビジュアルのクオリティを担保することを常に意識しているといいます。
一方、フィジカルにものづくりを進めることがほとんどだという石黒さんは、「言葉にならない感覚」を作り出せるかにこだわりたいと言います。
「直接的に感動を与えることよりも、匂いや雰囲気、佇まいのようなものが間接的に心に動きを与える瞬間、それが起こった時が一番うれしいです。 そういう、言葉にならないような感覚を大事にしたいと思っています」
caption:石黒さんの制作風景。事例として紹介された新しい急須のデザインにおいては、
100以上の試作品を作って、ひたすらお茶の飲み比べをしたそう。
また、創作活動を継続していく上でのアドバイスについて尋ねられたブライアンさんは、「考えすぎずにまずは作ってみること」、「みんなを楽しませる前に、まず自分自身をワクワクさせること」が何よりも大事だと語り、メンバー全員の共感を集めました。
caption:以前はアートディレクターとして働いていたこともあるというブライアンさん。
その過程でデザイン的なことよりも、遊び心があるプロジェクトの面白さに気づいたことが、
Set Snailを立ち上げるモチベーションになったといいます。
3夜連続のオンラインイベントという、渋谷キャストにとっても初めての試みとなった「シブヤ クリエイティブ トーク」。活動拠点はもちろんのこと、得意領域も異なるメンバーが集まったものの、キャリアの築き方やサステナビリティへの考え方、クリエイティブで実現したいことなど、互いに共感し合うトピックが多く、心地よい一体感が醸成された3日間となりました。
感染症の流行や気候変動によって、これまで当たり前とされてきたことが世界的に揺るがされつつある現在。社会や人の意識が大きく変化する中で、今回お話を伺ったクリエイターがここからどのような未来を描いていくのか、今後の取り組みに期待が高まります。