SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2019/07/12
CAST People#10_渋谷 と ごみゼロマインドで繋がる人たち

キャットストリートから始まる、ゼロウェイストをめざした等身大の街づくり

オオヤマタカコさん 530week共同代表・コンセプトデザイナー / 竹前隆浩さん 株式会社TRUNK レストラン&ストア部 TRUNK(STORE) マネージャー / 岩本拓磨さん 東京急行電鉄株式会社
キャットストリートから始まる、ゼロウェイストをめざした等身大の街づくり

今渋谷キャストから続くキャットストリートを中心に、“ゴミを出さない経済循環”をめざしたプロジェクト「530week」が進められています。これは、この街に住み、働く人たちが中心となって、街全体でゼロウェイスト(=ゴミ・無駄のないこと)を達成しようという都内初の試み。キャットストリートで2014年4月より行われている清掃活動「CAT street clean up」から生まれました。
530weekでは、2018年から地球上の問題をテーマに勉強会やイベントを行ってきましたが、今年の5月30日(ごみゼロの日)には、環境とビジネスの新しい関係を考えるカンファレンスイベント「530 conference 2019」を、TRUNK(HOTEL) 、渋谷キャストの2会場で開催。「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」をテーマに、トークセッションとワークショップを実施し、立ち見が出るほどの大盛況を遂げました。

そして、この日から、ゼロウェイストの実現をさらに一歩進めるような新たなローカルアクションをスタート。530weekをきっかけに、キャットストリートでは新たなコミュニティも生まれ始めています。
プロジェクトの共同代表で、コンセプトデザイナーのオオヤマタカコさんは、渋谷キャスト13階にあるクリエイターの住居スペース「Cift(シフト)」のメンバーでもあります。今回は530weekの活動に賛同し、イベントのサポート役を担った、渋谷キャストの運営母体である東急電鉄の岩本拓磨さん、TRUNK(HOTEL) 内にあるTRUNK(STORE) マネージャーの竹前隆浩さんとともに、イベントでの手応えや530weekのこれからの展開について、語ってもらいました。

 

PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA(YUKAI)
TEXT BY Atsumi NAKAZATO

田舎の小さなコミューンではなく、東京のど真ん中でやることに意味がある


オオヤマ:キャットストリートで働く人たちで構成される地域団体「CATs」は、2014年4月から月に一度の清掃活動を続けてきた自発的な“ゴミ拾い集団”なんですが、「530week」はそこから生まれた兄弟のようなプロジェクトです。

 

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まずは、今回のイベントを企画した背景を説明しておきますね。現在、プラスチック問題やゴミ問題への対策は、ヨーロッパやアメリカではかなり進んでいますが、日本はまだまだ遅れています。2050年には海の中のプラスチックの量が魚よりも多くなると言われていたり、気候変動も年々悪い方向へと進んでいたり。最近では、オーストラリアのシンクタンクが、気候変動の影響によって2050年までに現在の文明が崩壊すると予測していました。一人ひとりが本気で意識すべき問題なんですが、個人が意識しても結局は意味がなくて、やっぱり経済を動かしている企業の人たちが、この問題に取り組み、それがビジネスになるという意識を持ってやっていかないと、もう間に合わないんじゃないかという危機感が常にあります。

 

そこで、昨年に続き2回目となる今年のイベントは、企業をターゲットにして、サーキュラーエコノミーという概念をテーマに内容を組み立てることにしました。サーキュラーエコノミーとは日本語で「循環型経済」と訳されますが、無駄を出さないように再生し続ける経済環境を意味します。循環型ビジネスを実践するヒントと、それを具体化するための手法を学び、参加者一人ひとりの意識を変えることを目指しました。

 

また今回は、昨年よりも大きな規模で外に開かれたイベントをやってみたい、という思いも大きかったです。というのも、これまでの環境系のイベントって、運営側は意識を持ってやっているけど、思いが強すぎて外の人がついていけない、というのが多かったなと感じていて。これからは外に開かれていることが大事で、田舎の小さなコミューンではなく、東京のど真ん中でやることに大きな意味を感じていました。そこで、キャストさんとTRUNKさんに駄々をこねて(笑)、ご協力をお願いしました。

 

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岩本:いえいえ(笑)。530weekのイベントは、昨年もおとなりサンデー(2018年6月3日開催)のときに一緒にやったりしていたし、CATsで定期的に行っている清掃活動にも渋谷キャストとして参加しているので、そうした街の活動には当然共感していました。そこに、(オオヤマ)タカコさんから、「こういう内容のイベントをやりたい」という相談があって、「今回はTRUNKさんと共催で、二会場で同時にやってみたい」と。それは、うちとしても願ったり叶ったりのことでした。というのも、キャストとしては地域連携をどんどん行っていきたいという思いはずっと持っているんですが、TRUNKさんとはご近所なのに今までイベントを一緒にやったりする機会はなかったんです。そこを彼女がハブとなって「二会場でやりたい」と言ってくれて。非常にチャレンジングだし、キャストとしてもまさにやりたかったことだったので、「やってみようよ」と二つ返事でしたね。
でも、なんで今回、二会場でやろうと思ったの?

 

オオヤマ:そこは大事なところですね。とにかく外に開かれたイベントにしたかったので、そう考えると一ヶ所ではなく二ヶ所で開催することで相乗効果が生まれるんじゃないかと考えたんです。それによって、“街づくりの一環としての景色”が生まれるといいなという狙いもありましたね。

 

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竹前:うちのホテルとキャストさんは、オープンしたのがちょうど同じ時期でしたよね。TRUNK(HOTEL)では、「ソーシャライジング」というコンセプトを掲げていて、「自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」と定義しています。「ソーシャライジング」を体現するカテゴリーの一つが、「ローカルファースト」なんですが、キャストさんとはご近所ですし、何か一緒にできればと思って接点を持とうとしていたんです。なので、タカコさんに声をかけていただいて、この街での活動にキャストさんと一緒に関われることがうれしかったですし、これからどんなことが起こるんだろうと個人的にもワクワクしました。

 

オオヤマ:TRUNK(HOTEL)という東京で一番おしゃれなホテルと、渋谷キャストという渋谷のまちづくりを牽引する東急さんが運営する施設。この二つが興味を持っているものは、次のトレンドになり得る、というふうに外からは見えると思うんです。今回はこの見え方の部分をすごく大事にしたかったんです。

 

岩本:うちとしてもありがたいですね。イベント当日は、キャストの広場に出ているキッチンカーにお願いをして、環境対応の容器を使ってもらったり、お弁当箱を持参するとそこに料理を詰めてもらえるようにしたり。キャスト全体としても、イベントを盛り上げられるように工夫しました。

 

オオヤマ:TRUNKさんには、花の装飾を担うフラワーチームの方々に、両方の会場を装飾していただき、場の雰囲気を大いに盛り上げていただきました。なるべくゴミを出さないように、イベントや撮影で使用した生花を再利用してもらい、そこに流木やドライフラワーをうまく組み合わせていただいて。

 

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竹前:僕らとしては、今回のイベントに参加できたこと、この先も530weekという活動が続いていくことに意義があると思っています。なので、イベントで会場を貸して、はい終わり、とは当然思ってなくて、これからも活動に参加し続けることが大事だなと。イベントはあくまで今後に続く活動を盛り上げるためのきっかけに過ぎないというか。

 

オオヤマ:そうそう、今回はイベントという場を利用して、わかりやすく外側に向けて花火を上げた感じですね。530weekはまだ一般の方に知られていないので、これから活動を活発化していく上でもどんどんメディアに出して、名前を売り出すことが大事だと思っていたので。

 

岩本:外の人に知ってもらう、いいきっかけになったよね。イベント直前までは「集客がヤバイ」って焦っていたけど、実際に蓋を開けてみたらすごかったじゃない。

 

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オオヤマ:そう、蓋を開けてみたら、参加者の方で二会場ともパンパンで、関係者のニヤニヤが止まらなかったっていう(笑)。席が足りなくなって、立ち見も出るほどでした。

 

竹前:僕も反響の大きさに驚きました。ストアで接客していると何度も「今日の530conference、どこでやってますか?」って聞かれたんです。学生さんが多かったですね。

 

オオヤマ:そうでしたね。参加された企業の方からは、「こんなに若い人たちが環境問題に興味があるなんて、驚きました」という感想もありました。

 

竹前:でも全体を見ると、スーツを着た人も一定数いて、参加者の年代は幅広かったなと。僕も集客の面で不安もあったんですが、この結果を見て、環境問題への関心がすごく高まっていることを改めて感じました。

 

岩本:うん、今すごく関心が高まっているんだと思う。とは言っても、飲料メーカーがペットボトルの原料を植物由来のものにするだとか、企業としての活動は表に出てくるけど、個人のマインドがどこまで変わっているのかは、実際のところわからないですよね。でも個人個人がブレないで、周りに流されることなく、マインドセットを持ち続けることが大事なんじゃないかなと思いますね。

 

オオヤマ:その上で、環境問題に関心が低い人たちのマインドをどう変えようか、という方向に動いていきたいですよね。

 

竹前:関心が低い人たちの巻き込み方っていろいろありますよね。僕らもストアで水筒の販売を始めたら、スタッフが自ら買って使うようになっていって。やらなきゃダメだよ、と無理強いはしていなくて、みんなが自主的に水筒を持参しているのを見て、いい流れだなと思いました。そういう方がいいんじゃないですかね。

 

岩本:いいですね、理想的ですね。

 

竹前:こうしなきゃダメというのは、やっぱり等身大ではない感じがしますよね。あくまで等身大で、それぞれが納得感を持って参加する方がいいのかなと。

 

オオヤマ:そうですね。等身大というのは、かなりキーワードかもしれないですね。

 

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キャットストリートで新たに始まる街づくりとは


オオヤマ:今回のイベントは、530weekを知ってもらうきっかけとしてだけでなく、これからキャットストリートで始める新たな街づくりの計画を発表する場としても捉えていました。というのも、次に続く動きとして「Cat Street Circular Hack Project」というローカルアクションをひそかに計画してきたんです。今回のイベントの準備と並行して、プロジェクトに賛同してくださったキャットストリートのお店の方々に、二週間に一度、朝8時に集まってもらい、みんなで朝ごはんを食べながら、この街の未来のためにできることを話し合ってきました。あくまで大事なのは、イベントと並行して走っていた街での活動なんですよね。

 

岩本:そうそう。初めてミーティングをやったのは3月の中旬くらいでしたね。朝だけど出席率はよくて、いつも10人くらいは集まっていました。タカコさんが朝食をつくってくれたのも大きかった(笑)。

 

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オオヤマ:7時くらいに起きて、朝食をつくって、みんなで食べながら話をして。コミュニティってそういうカジュアルな部分から始まるものだと思うんです。何か目的意識もありつつ、朝ごはんも食べられるし、くらいの感覚で来てもらえればいいのかなというのがあって。これは、ご近所さんが集まって次の街づくりをどうしていこうかと話し合う「ネイバーフッドアソシエイション」というポートランドの取り組みをモデルにしています。街が行政より市民に委ねられているんです。

 

岩本:みんな意識が高かったよね。CATsの活動の素地があったからというのもあると思うんだけど、街のゴミを減らすことに対しての意識がすごく高くて、お店で何ができるかをみんな真剣に考えていて。

 

オオヤマ:その中で、今大きな目標としてあがっているのが、「顔の見えるコミュニティをつくろう」ということですね。昔の村社会のように、みんながお互いの顔を知っていれば、悪いことはできないじゃないですか。

 

岩本:絶対できない(笑)。

 

オオヤマ:あの人、ゴミ捨ててたよ、みたいな(笑)。キャットストリートをみんなが愛せるような街にするために、顔を見て挨拶することから始まって、日常的に顔が見えるようなコミュニティをつくり、みんなでゴミのない未来に向かっていけるようにしたいよね、という思いがあります。あと、今回プロジェクト名に“Hack”と付けたのは、いろんなお店が立ち並ぶキャットストリートで働く人たち全員にプロジェクトメンバーになってもらって、店先の半公共空間をまさにHackして自由に活用しながら、行政に頼らない公共プロジェクトとして環境のことを考えていけたらいいな、という思いからなんです。
今回のイベントの最後に、「Cat Street Circular Hack Project」でやっていきたいことを、参加者のみなさんの前で発表しました。そして5月30日から、ご協力いただけるキャットストリートのブランドや企業のお店にプロジェクトを紹介するPOPを掲示してもらっています。環境を前面に出すよりも、みんなが住んでいたり、働いていたり、遊んでいたりする街をきれいにしていきましょう、というアプローチで、お店に置いてもらったPOPを通して、活動を広げていきたいなと思っています。

 

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岩本:このPOPがお客さんとのコミュニケーションツールになればいいよね、という話も出ていて。これを見たお客さんが、「これ何ですか?」と聞いてくれて、スタッフの人と話をすることで、「ここってそういうお店なんだ」とか「この街ってこういうことに取り組んでるのね」という気持ちを持って帰ってもらいたい。それによって、お客さん自身のマインドセットも少しずつ変わっていけばいいな、という思いはあったよね。

 

オオヤマ:そうそう。

 

岩本:押し付けではなく、こういうマインドになってくれるとうれしいなっていう感覚ですよね。今いろんなお店で、プラスチック問題を伝えるPOPを目にするんですが、そうじゃないなと思っていて。見ている人たちが楽しそうだなと思えたり、コミュニティに入ることに価値を感じたり、好きなブランドやお店が賛同しているこの活動に参加してみたいという気持ちになってもらうことが大事なのかなと。

 

オオヤマ:そうですね。「このPOP、どこでも見るな」と感じてもらうことも重要ですよね。

 

岩本:うん、街で面的に広がっていくことが大事だよね。キャストでは、東急ストアや活動に賛同してくれたキッチンカーにも置いてもらっています。本当にそういう気持ちがあるところにはどんどん置いてもらって、街の活動だよ、と認知されるところまで持っていきたい。
朝のミーティングで、キャットストリートを“530特区”にしようよ、みたいな話が出てたじゃない。あの考え方、すごい好きなんだよね。

 

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オオヤマ:そう。結果として、キャットストリートを「ゼロウェイストタウン」にしていきたい、という野望はあって。ただそれを最初からやろうとすると、話が大きすぎるので、こういう形で小さいところから始めようということですね。カジュアルに、コーヒーを飲みながら、街の人たちがどういう未来を描いているのかを確認するような感覚で、集まって話をして活動に落とし込むというのを、これからもやっていきたいですね。

 

竹前:こうして一つのエリアとして、横のつながりを大事にしながら同じテーマに取り組み、意思表示ができることはおもしろいなと思いますし、環境意識が高い人たちが集まるこの街って、すごくいいなあ、と改めて感じますね。

 

オオヤマ:次の動きとしては、マイボトルを持ってお店に寄れば、お水を入れてもらえる“給水地”を示したマップをつくろうという話が出ていましたよね。どのお店が530weekの活動に賛同してくれていて、どのお店に行けばマイボトルに給水してもらえるのか、そういうことを可視化するマップですね。それは外向けというより、活動している自分たちが知ることがまず大事だという思いもあって。

 

岩本:同じマインドセットを持ってる店ってどこだっけ?というところから、見える化してみようよっていう。

 

オオヤマ:そう、コミュニティづくりの一環でもありますね。

 


一人ひとりの環境意識を、街が受け皿となって支えていく

 


竹前:今回のイベントに限らず、継続的な取り組みができる方法も考えていければと思います。うちの社内では、イベントごとにコミュニケーションツールでグループをつくっていて、通常は終了したら削除されるんですが、「530 conference」だけは、イベント名を「every day 530」と変更して、今も残ってるんです。

 

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オオヤマ、岩本:Every day 530!カッコいい!

 

竹前:今までやりたいことがあっても発信する場がなかった、という若手スタッフが、そのグループでは「こういうことしてみたいです」とコメントしてくれたりして。すごくいいことだなと思っています。

 

岩本:それ、すごいですね。すばらしい。

 

オオヤマ:ここまで目に見える変化というのは、想像以上ですね。でも、イベント前に設定したゴールに、同世代の共感コミュニティをつくるというのがあって。そういう意味では、想定内というか、ゴールに近づけたかなと思っています。これからも共感してくれるブランドやお店を増やしていきたいですよね。

 

岩本:どんどん増やしていって、街全体の意識を変えていきたいよね。ゴミ問題やプラスチック問題って、よくないことだというのは、みんな絶対わかっているんです。その気持ちを後押しするためには、街が受け皿になることが大事だと思うんだよね。

 

オオヤマ:まさしくその通りで、企業や学校が受け皿だとそこで完結してしまうんです。開かれた場所として、街が受け入れるような体制をとっていくことが大切だと思います。

 

岩本:やっぱり大企業単体では、こういう取り組みをするのは難しいかもしれない。なんか押し付けがましくなっちゃうし。地域に根ざした施設になることがキャストの目標の一つですが、街の中にこうした活動の受け皿があって、そこに共感して微力ながら参加させてもらえる環境があるのは、ありがたいですし、他のお店にとっても大きなことなんじゃないかなと思いますよ。

 

オオヤマ:その言葉、励みになります!ゆくゆくは、渋谷のキャットストリートが持続可能な街づくりの先駆けになって、全国の市町村が視察に来たり、サスティナブルな意識のある人たちが遊びに来たりするようになればいいなと思っています。そのためにも、偉ぶることなく、等身大の環境循環をめざした街づくりを続けていきたいですね。

 

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