SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

JOURNAL

ジャーナル

EVENT
2019/06/14

<EVENT REPORT>
「働き方」から「働く観」を考える『THINK THE WORK』

<EVENT REPORT> 「働き方」から「働く観」を考える『THINK THE WORK』

今年4月から働き方改革法の施行が開始し、様々な企業で副業の容認が進んでいる現在は、これまででもっとも多くの人が「働き方」に関心を持っている時代と言えるのではないでしょうか。


渋谷キャストでは5月22日に、世界のワークプレイス、働き方の潮流から自分らしい働き方を考えるトークイベント『THINK THE WORK』が開催されました。
ゲストに日本を代表するオフィス&ワークスタイルシンカーである「WORKSIGHT」編集長の山下正太郎氏と「WORK MILL」編集長の山田雄介氏を招き、オフィス空間の変化や多様性、先進的な働き方に触れ「自分らしい働き方とは何か」のヒントとなるトークが展開されました。

 

画像


まず、働くしくみと空間をつくるマガジン『WORKSIGHT』で編集長を務める山下氏から、「Be Smarter: スマートワークプレイスの未来」と題したトークを展開されました。


スマートに働くことへの意識が高まっている現代では、データを活用し、作業効率や生産性を高めるワークプレイス=「スマートワークプレイス」への注目が高まっているとし、世界でどういった実践がなされているのか解説。
例えば、アメリカの不動産会社・eXp Realityではバーチャル上にオフィスをつくり、アバターを使ってバーチャルオフィスにログインすることを「出社」扱いにしています。これによって、通勤時間の短縮やパジャマ姿での出勤などによる精神的なリラックスをもたらす効果が得られているそう。オランダの共同オフィス・EDGE Olympicでは、誰がどこにいるかをデータ化し、人と人の出会いやすさなど、空間をデータでコントロールする試みがなされていると話します。

 

画像


また、個々人のワークスタイル、それを包含するオフィス、さらにオフィスを超えた都市レベルでもデータを使用した最適化していく、という動きがワークプレイス界隈で起きており、リモートワークやフリーランスなどの広がりによってワークプレイスがオフィスだけではなく公共空間まで広がっていると話し、社会規模でデータを活用し、空間の最適化をする必要があると訴えました。

 

画像


続いて、経営戦略の視点から新たな価値を生み出す「働き方」や「働く場」を発信するビジネス誌『WORK MILL』で編集長を務める山田氏は、アメリカ、デンマーク、日本のオフィス空間を分析し、「XXX WORK 日本の働き方を探る」というテーマでトークを行いました。

 


もともと、オフィスの歴史はまだ150年程と浅く、生産管理の工場からオフィスレイアウトというものが誕生したと言います。管理者が目を配り、そのもとで作業員が働くという形のもので、そこからオフィスがどのように変化してきたのか紹介しました。

 


アメリカ西海岸のLinkedInでは、カフェや屋外スペースなどの共用空間でのびのびと仕事をしている一方で、デンマークの設計事務所・3XNでは、「オフィスでクリエイティビティは生まれない」という信条の元、背面対向式にデスクが配置され、ひたすら集中して自らの仕事に向かうための空間になっていると対照的な例を説明しました。
「アメリカは遊びをクリエイティブにつなげる“PLAY WORK”、デンマークは効率の良い働きを追求する“SMART WORK”、日本は“HARD WORK”の印象が強い。しかしながらアメリカは徹底した成果主義に基づく“HARD WORK”の面がーーデンマークも限られた時間でいかに集中して自分の業務を終わらせるかを追求した“HARD WORK”な面があります。つまりこの中でどれが良いかは国や文化の背景もありますが個人の感覚でもあり、これから日本は“HARD WORK”を何か新しい“XXX WORK”に変えていかなければいけないと考えています」

 

画像


そして、オフィスの存在について、どこでも働けるようになった今、企業が一つの働く場を持つことの意味が問われていると話し、 「“どういった働き方がしたい”の前に、“その場が個人・組織にとってどのような意味を持つのか”から考える必要があると考えています。その意味を考えたうえで、その場でどのように働くかをデザインしていくべきだと感じています」と締めました。

 


続いて、スノーピーク・ビジネスソリューションズの岡部祥司氏、モデレーターを務めるアーキネティクスの吹田良平氏を混じえた4名によるトークセッションが行われました。

 

画像


トークセッションに先立ち、岡部氏が、毎週火曜日に渋谷キャストガーデンにて展開しているCamping Office Shibuyaを例に、スノーピークの働き方について説明を行いました。
Camping Office Shibuya(詳細はこちら)とは、キャンプ用テントを活用したアウトドアでの開放的なオフィス空間で、人の五感を刺激する非日常な執務環境を提供することで、今までにない新しいアイデアやビジネスを誘発するための取り組みです。

 


スノーピークの使命は、キャンプを通じて「人間性を回復させること」とし、オフィスという領域についても人間性を回復させられるような働き方ができる環境づくりを目指しています。
また、生産性の向上よりも社員の関係性の質をどう高めるかを重要視し、キャンプ道具で設えられた会議室や焚き火を囲みながらの会話など、感覚としての「楽しさ」を大切にした取り組みを紹介しました。

 

画像


岡部氏によるプレゼンテーションの後は、いよいよトークセッションへ。吹田氏をモデレーターに、鋭い意見が行き交ったトピックの中から、いくつかご紹介します。

 

画像


Q1. ワーク・ライフ・バランスについて、仕事と遊びは分かち難いものであるという考え方の方が幸せなのではと考えているが、それぞれどのように解釈していますか?


山下:個人的にはワーク・ライフ・バランスは難しいと感じています。「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、インターネットが発達してきた時代に生まれました。オフィスを出ても仕事が追っかけてくるという環境が生まれたときに、ワークとライフのバランスを取らなければいけない、とざわざわし始めたわけです。では今どのような時代かというと、もはやオフィスを出てもどこでもメールが来るような状況は通り越していて、バランスうんぬんのレベルではない、お手上げ状態になってきていると思います。


山田:さきほどデンマークの3XNの話をしましたが、彼らは社会としてワークとライフをわけて暮らす文化が根付いているので成り立っています。
では日本はどうかというと、ライフとワークは融合して考えざるをえないかなと思います。昔はオフィスでしか仕事ができなかったので、ワークとライフが分別されていましたが、現在は電車や家で仕事のことを考えない、ということはないと思います。個人的には、電車の中やお風呂に入っている時に新しいアイデアが浮かぶことが多いのですが、ではライフの時間に浮かんでいるアイデアはワークなのか、ライフなのかを考えると不毛な気がしてきます。私は一緒になって考えた方が生産的で創造的だと思いますが、分けたい人もいますし、正解はないと思うので、個人が決めるというのがこれからの働き方なのかなと思います。


岡部:前職で休日に仕事の付き合いでゴルフや会食を行くことになった際に、奥さんから「それは仕事か遊びか」と問われたことがあり、遊びの気もするし、仕事のような気もするという曖昧なものがたくさんあると思いました。これを会社が定義してくれると楽ですが、家族には自分で説明しなくてはなりません。となったときに、ライフもワークも、オンオフもなく、個人として決めざるをえないのだなと感じました。経営者の立場としても、タイムカードを切ることで区別することは楽ですが、その仕組みでしばることは難しいと感じています。

 

画像


Q2.1に関連して、オフィスの中にライフスタイルにあった空間をつくる潮流がありますが、それによって仕事の能率は上がるのでしょうか。


山田:個人のパフォーマンスをいかに高めるかがオフィスの役割としてある中で、人が自然な状態でいられる環境のひとつとして、家やレジデンシャルの要素が取り入れられているのではないでしょうか。一方で北欧のオフィスを見ると、リビングテイストにつくられていますが、家の要素としているのでなく、上質な空間としているイメージがあります。本物志向で上質な空間に身を置くことでパフォーマンスを上げる、という考え方もあると思います。


岡部:流行にとらわれずに、目的や意味を持つことは大事ですね。我々も、オフィスに“テント置いたら素敵!”というだけでは意味がありません。オフィスにキャンプ道具いれることで、各企業においてどういった効果をもたらすのか、意味を考えなければ能率は上がらないと考えています。

 

画像

 

Q3.働く環境について、当面のゴールとは何でしょうか。


山下:特に日本についてですが、欧米のトレンドを鵜呑みにして真似るだけではなく、とにかく自分の頭で考えたオフィスをつくることが当面のゴールだと思います。自分たちが何を欲しているかを考えずに、外から来たものをやってみて、よかった、ダメだったというのではなく、「快適なオフィスは何なのか」、「働き方とは何なのか」を自分の頭で、個人が、企業が考えることができて、はじめて働く場づくりができると思っています。


山田:私も同じ考えです。今日はおしゃれなオフィスを色々お見せしましたが、あれが良いかというと、個人と組織次第。昔のオフィスの形でも生産性が高まり、創造性を持って、個人が生き生きと働き、満足するのであれば、それはそれで正解だと思います。
今までは組織のために個があった時代でしたが、これからは個のために組織がどうあるべきかが問われる時代です。個人は組織にどんどんわがまま言って良いと思います。その中で、オフィスの環境や働き方について考えをぶつけて、組織と一緒にオフィスを作っていくというプロセスに変えていくべきなのではないでしょうか。

 

画像


トークセッションで3者は共通してしきりに「個人がどう考えるか」と口にしていました。
また、山下氏は働き方改革について、「今まで、職場で朝から晩まで頑張って働いていれば、楽しい人生であったのが、いきなり“柔軟に働きましょう”と言われてしまい、早く帰っても“何もやることがない”という人が多くいます。つまり、柔軟に働く、余暇の時間が増えるなど、選択肢が増えるということは、働くこと以外の価値観を持たなければいけないということ。改めて、人間として、何を人生の目的とするのかを考えておかないと、路頭に迷ってしまう点が、働き方改革の難しいところだと思います」と話しました。


働き方をめぐってはさまざまな法整備が行われて始めている現在。「働き方」の過渡期においてどう働くかを考えるために、まずは「働く」をどう捉えるのか、すなわち「働く観」を考えてみることが良いのかもしれません。