SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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2024/05/24

“街の中の見えない繋がりや価値を再発見していく”。
「Invisible Connections  街の味ってどんな味?」を振り返る。

“街の中の見えない繋がりや価値を再発見していく”。 「Invisible Connections 街の味ってどんな味?」を振り返る。

2024年3月30日、31日の二日間、渋谷キャストのガーデンで開催されたイベント「Invisible Connections  街の味ってどんな味?」。こちらは昨年同時期に開催された「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」に続く第二弾として企画されたもので、「まちの中の見えないつながりを可視化する」ことをテーマに、原宿の街の歴史や草木について触れ、学べるさまざまなワークショップが開催されました。


ここでは、主催者である地域活動団体「CATs」代表の中村元気さんと米田彩加さんに、イベントの概要や企画に込めた想いを伺うとともに、二日間、渋谷キャストがどのような場となったのかを振り返っていただきました。

 

PHOTOGRAPHS BY  Eri Masuda(Lucent)、Daisuke Murakami
TEXT BY BAUM

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ー改めて、「Invisible Connections  街の味ってどんな味?」はどんな意図で企画されたのでしょうか?

 

中村:昨年、渋谷キャストで「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」というイベントを開催させていただいたのですが、それが好評だったこともあって次も何かやりたいねと話していたなかで、新たに米田さんと組んで半年くらいかけてテーマを考えました。“街の中の見えない繋がりや価値を再発見していく”いうことが僕らの活動の根底にあって、そこには大きな資本もないし、やっても儲かるようなテーマではないのですが、それでも街の中には私達の生活や日々を豊かにしてくれる構成要素としてあると思っているんです。そういったものをあえてピックアップして、みんなでその気持ちや価値を共有したいというのがこのイベントの軸なので、その軸に当てはまるテーマとして「街の味を食べてみる」という案が浮かんできたんです。今回は彩加さんのヨーロッパで体験してきた食のイベントの世界観が面白そうだったので、彼女のアイデアをかなり取り入れながらコンテンツを固めていきました。

 

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米田:私は去年の春に大学を卒業して、ヨーロッパをはじめとする世界中の食のイベントや屋外フェスのボランティアスタッフとして参加してきました。今回のイベントでは、そこで得た知見や世界観を表現させてもらえたらいいなという想いがありました。もともと学生時代から食や農業の分野にすごく興味を持っていて、養蜂や畑作業を体験したことで、私たちが都会で暮らしていく上で、土に触れる生活ってどうすればできるんだろうというのを探っていく中で、都市型屋上農業を実践されている元気さんに出会い、関わらせていただいたのがきっかけです。

 

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ー具体的に海外で体験された食のイベントはどういうものだったのですか?


米田:世界中で有機農業をされている方が登録しているWWOOF(ウーフ)という団体があるのですが、一般の人も年間5000円払えば、ホストである農家さんとお金のやりとりなしで、「食事・宿泊場所」と「知識・経験」を交換できるというサービスがあるんです。それを活用してイタリアに行ったのですが、ちょうどスイスのヴヴェイという街で食のイベント「Food Culturedays」を開催していて、そのボランティアに参加したんです。そこでは街のいたるところでワークショップを開催していて、食にまつわる問題提起をするためのワークショップが行われていました。例えば大豆の発酵食品である「テンペ」をネックレスにして自分の体温で温めて育てるというワークショップがあって、毎日参加者同士でそれを回しあって、「今日どんな感じ?」みたいな会話をしながらテンペを中心にコミュニケーションが生まれるというユニークなものでした。ほかにも湖のほとりに大きなキッチンがあって、そこでパンやワインなどのご飯を囲んで語り合うイベントがあったり、そんな風景を見て、何か日本でもこういうことができたらいいなと思ったんです。

 

 

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中村:彼女にイベントの写真を見せてもらったり、話を聞いて共感したこともあり、渋谷キャストでどんなことができるかを一緒に話し合いました。イベント自体は二日間ですが、実は半年くらい前からリサーチやフィールドワークを進めてきているんです。原宿にはたくさん食べられる草木があることから、山梨にあるHERBSTANDの平野さんのご協力のもと、フィールドワークを通して街を探索するというコンテンツ『キャットストリート 街の植物を味わう』をまず考えました。

 

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Daisuke Murakami

(Photo: Daisuke Murakami上記3点)


<HERBSTAND>

富士山の北麓を拠点に自家栽培したハーブと山の天然の草木を取り扱う生産者。その他にもハーブ製品の製造、ハーブティーの監修、ガーデンの監修など多岐にわたる活動を行う。シェフやパティシエ、バーテンダー、調香師、など専門家からも香り高く力強いハーブと専門知識に定評あり。暮らしに根付くハーブ文化の提案と新たなハーブの可能性を探究するべく活動を行う。

 


米田:平野さんのフィールドワークは私たちや出店者さんたちも一緒に回った日があったのですが、本当に平野さんの知識が豊富で、一緒に街を歩くだけで植物の見方や街の見え方がすごく変わるんです。植物の味や匂いをたくさん教えてくださって、最終的にカツラとヨーロッパゴールドの2種類の葉っぱをワークショップやジェラートに使用してもらうことになりました。イベントで実際に『キャットストリート 街の植物を味わう』に参加してくださった方々も「原宿にこんな草木あったんだ」とか「こんな道あったんだ」「天ぷらにしたらおいしいかも」なんて話が盛り上がったり、濃密な時間になりました。

 

 

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ーソウダルアさんの『街と繋がる原宿クレープ』に参加させていただきましたが、すごく楽しかったです。まるでテーブルがキャンバスかのようにドレッシングでペインティングされていました。


中村:楽しかったですよね。ソウダルアさんはもともと僕の知り合いでもあったのですが、全国各地でその土地の素材のみを扱って、風土と歴史が交差する料理を和紙の上に表現するという取り組みをされているアーティストさんです。芸術祭でのレストランプロデュースや食による地方創生なんかもされている方なのですが、今回はクレープに挑戦してくださいました。


米田:たまねぎの根っことか、原宿のハーブとか、今までみんなが食べたことのないものをクレープで包むという行為のことをソウダルアさんが「未知を既知のもので包む」という表現をされていて面白いなと思いました。「街とわたしたちがひとつになる。そんなやさしい未来のクレープをこの街で みんなとつつみたい」というメッセージも素敵ですよね。

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ーアートのようにテーブルに散りばめられた食材をそれぞれが好きなように包むというなんとも新鮮な体験でした。

 

米田:ソウダルアさんと同じ空間で開催した春と百(はるともも)によるワークショップ『Plants-Wagashi 』は、原宿キャットストリートに自生するエディブルプランツを食べるというものでした。彼女たちは私の友人で、食べることを愉しむフードユニットとして活動されているのですが、今回は和に着想を得たエディブル和菓子を作ってくれて、植物の味や香り、お茶とのペアリングをお客さんに楽しんでもらいました。

 

 

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中村:ワークショップの設計も良かったよね。個室的なんだけど、オープンな空間だから外からも楽しんでいる様子がわかるし、中にいる人は参加者同士ぐっと距離が近くなる感じで。空間デザインは建築家集団の勝又なつほ+AMP by HandiHouse projectさんにお願いしました。再利用できる市販のビニールハウスを応用したダイニングスペースをつくってくださって、木の香りがして居心地が良かったという声もたくさんいただきました。


米田:一方で、テントではなく地べたに座って低い木のテーブルでワークショップを開催してくれたのが三木田さとみさん。東京・調布のレストラン「Maruta」で、植物の価値を引き出すお菓子や発酵ドリンクなどを担当されている方です。今回は「つながるかおり」をテーマに、お香作りを通して植物と自分自身の距離を近づけ、繋がっていくことを目指すというものでした。いわゆるしっかりと香りのある「お香」ではなくて、身近な植物を使用するので、より五感が研ぎ澄まされるような場となったと思います。

 

 

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ーVERDE(ヴェルデ)さんのジェラートもおいしかったですし、宝探しゲームとセットになっていることで子どもたちもキャットストリート探検を楽しんでいました。

 


中村:ジェラート、おいしかったですよね。VERDEさんは、植物をさまざまな切り口で探究・表現するコレクティブで、デザイナーや編集者さんなどさまざまな業種の方がいらっしゃいます。〈Plantreasure Hunting! by VERDE〉と名付け、キャットストリートに生えているカツラとヨーロッパゴールドの2種類の植物をアイスにして提供してくださいました。ヨーロッパゴールドはなんといちごミルクの味で、ハート型の葉っぱがかわいいカツラは、落ち葉になるとキャラメルの味になるんです。びっくりですよね。アイスが食べられるのは、キャットストリートでそれらの植物を見つけた人だけというトレジャーハンティング感のあるコンテンツで、とても好評でした。

 

 

 

 

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米田:平野さんのワークショップもそうなんですけど、このハーブ食べられますよ、ジェラートにしましたよ、といってブースだけで完結することもできるし、売り上げだってそのスタイルの方があったと思うんです。でもそれだと「街と繋がる」ということにはならないから、時間はかかるけど、あえて散策してもらうというアクションを取り入れてもらえたのはそれぞれの出店者さんに本当に感謝ですね。街や草木に興味を持てるきっかけをちゃんとデザインしてくださったことが嬉しかったです。


中村:参加者はもちろんだけど、なにより出店者のみなさんが一日中楽しんでくれていたのが印象的だったよね。街の植物をミックスした「ケバブライス」を提供してくれた スズキミキさんとか、イベント後もずっとガーデンでお酒を飲みながら盛り上がっていて。街の食材をメニューに使うということ自体も新鮮だし、なんというか全体的に「植物」がテーマであることがみんなの雰囲気が柔らかくなるというか、優しさにあふれた時間になったと思うんです。

 

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あとは、昨年一緒に主催してくれた石川由佳子さんがFabCafe Tokyoの金岡大輝さんと立ち上げた都市体験のデザインスタジオ「N/A(Neighborhood Addiciton)」が都市型どろんこパーク『Tiny Mud Park』を設置してくれたのも良かったですね。「食」がテーマだから、その循環のすべてを見せたいのだけど、どうしても食卓と土はすごく距離がある。土で育ったものを私たちは食べているのに、その実感が日常では薄れていて、泥や土を触ったのっていつだっけ?という人ってたくさんいるんです。今回畑のふわふわの土を持ってきてもらったのですが、触ると気持ちいいんですよね。子どもたちが遊ぶだけでなく、まるで焚き火を囲むかのように土を囲んで会話を楽しんいる人たちの姿があってほほえましかったですし、実はそういった体験をしてもらうことが今回のイベントで一番大切なポイントでした。土に触れることで人間がどんな気持ちになるのか、微生物の話なんかも掘り下げたかったのですが時間切れ(笑)。それはまたどこかでやれたらいいなと思っています。

 

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<Exhibition『Tiny Mud Park』>

都市のスキマ空間や遊休空間に出現する、小さな小さなどろんこパーク。子どもから大人まで、都市生活の中で離れてしまった大地とのつながり取り戻し、五感を豊かに育んでいくことををミッションに、マイクロサイズの都市型どろんこパークを展開。

 

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ーInvisible Connections リサーチチームによるブースもありましたね。渋谷のまちについてのインタビューをされたのでしょうか?


米田:渋谷の歴史とか、どうしてキャットストリートという名前がついたのかとか、街と関わるイベントをするなら自分たちがまずちゃんと街のことを知らないといけないので、街の人へのインタビューを行ったり、図書館にこもったり、半年間リサーチを続けました。これもスイスのイベントで、ポテトストーリーというジャガイモを起点に研究をされてる方の取り組みにヒントを得たのですが、原種や歴史など、ジャガイモにまつわるさまざまなエピソードを新聞にまとめて配っていたんです。ジャガイモは世界中みんなにとってなじみのある食べ物なので、それぞれに思い出があるんですよね。ワークショップの参加者に「ジャガイモの思い出は?」という問いを投げかけて対話を行っていくというものだったんです。今回は対話まではできなかったのですが、「あなたの街はどんな街ですか?」という問いを投げかけることによって、自分たちが住んでいる街についても少し考える時間を持ってもらえたらと思いました。

 

 

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中村:ここだってもちろん渋谷キャストじゃない時代があって、街の歴史や文脈を知った上で今どんな面白いことがここにあるのか。大きな時間の流れと現在と、何か立体感をもって街を見ていくという行為がすごく大事だと思っているんです。あと、街の人と仲良くなるためには話を聞くことなんですよね。そういった時間もイベントを作り上げる大事なプロセスになります。昨年も何回かフィールドワークを行いましたが、やっぱりイベント自体は二日間ですが、実際は半年間動いている訳で、その濃厚なプロセスをシェアしたいという気持ちがみんなにありました。

 

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ー半年間のプロセス、そして二日間のイベントを振り返って、当初思い描いた世界観が表現できたという実感はありますか?


中村:昨年より進化できて良かったと終わってから感じました。ひとつひとつのコンテンツの満足度もあるのですが、もっと複合的というか、出店者やスタッフ全員がひとつのコンセプトに向かってかたちづくっていくプロセスが良かった。フィールドワークを通して事前に濃いコミュニケーションができたことで、普段さまざまな活動をされている方が、今回のイベントのためにオリジナルで企画開発してくれて、僕たちもすごく勉強になりましたし、良い体験でした。あと、このイベントが田舎でもなく、代々木公園でもない、渋谷キャストでやることに意味があると思っていて、自然に触れるために田舎に行く人もいるかもしれないけれど、そうじゃなくて日常の中で、仕事の合間で、土や植物に触れることの心地よさに気づくことこそがリアルだと思うんです。同じことを森の中でやるのも楽しいとは思うけれど、僕としては渋谷という街の固定概念とギャップがあればあるほど、価値があると思います。

 

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米田:参加者の方々も自らアクションを起こさないと体験できないワークショップばかりの中で、それでも多くの人が参加してくれたのがすごく嬉しかったです。リサーチを含めると長期のイベントだったので、私の中でもいろんな学びがありましたし、成長を感じています。今回は私がやってみたいと思ったことを表現する場をいただきましたが、同じようにこの地域でなにかやりたいと思っている人たちとどんどん場をシェアしたり、街に愛着を持って活動してくれる人が増えたらいいなと思っていて、今後もその橋渡しみたいなことができればいいなと感じました。

 

ーおいしくて、たのしくて、いろんな発見がある、本当に心に残るイベントでした。すべてのワークショップに参加したかったと悔やまれます!またぜひ第三弾に期待しています。ありがとうございました!

 

 

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開催日:2024年3月30、31日

時間:11:30~17:30

場所:渋谷キャスト ガーデン