ジャーナル
渋谷キャストの“憩い”を支える3店。軒をわけ合う店長たちの緩やかな共創

オフィスやカフェ、レストランはもちろん、クリエイター向けシェアオフィスやさまざまなバックグラウンドを持つ人々がともに暮らす拡張家族「cift」など、周辺地域のクリエイションの拠点として、渋谷の街にも類を見ないユニークなテナントを多く擁する渋谷キャスト。
今回の記事では、そんな渋谷キャストに集うクリエイターやワーカー、周辺で暮らす地元の人々の食や生活を支える「東急ストアフードステーション」「CITYSHOP」「Marked」という3店舗の店長と副店長にお集まりいただきました。ゆるやかに連携しながら渋谷キャストを支える3店舗の関係性や広場で開かれているイベントとの関わりについて、そしてみなさんがこの場所が持つ心地良い一体感を築き上げているのか。それぞれのお店を巡りながら、店長のみなさんならではの視点で語ってもらいました。
月に一度は全員集合!ご近所同士のおだやかな助け合い
――本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます! 今日はみなさんのお店をまわりながらお話をお伺いできればと思います。みなさん普段から、こうして店長さん同士で顔をあわせることはあるんでしょうか?
CITYSHOP店長・沼尻廉さん
CITYSHOP・沼尻(以下、沼尻):キャストでは月に一度、店長会があるのでそこでお会いしますね。業務連絡が多いですが、そんな中でも「こんなキャンペーンを実施したら、思いのほかいい結果になりました!」とか「こんなことで困っているのですがみなさんどうですか?」と情報共有することで、お互いに何かしらのヒントになったり、刺激になっています。
東急ストアフードステーション店長・田苗正俊さん
東急ストアフードステーション・田苗(以下、田苗):店長会以外で顔を合わせることもありますよね。私はお店(東急ストアフードステーション)のメンバーと1対1で話をするときにCITYSHOPさんを利用させていただいていて、沼尻さんとはそのときにも。
沼尻:いつもありがとうございます! それで言うと僕も、同じ感じでMarkedさんを利用させてもらってました(笑)。
Marked渋谷マネージャー・宇留島塁さん(右)と店長・高橋菜緒さん(左)
Marked・宇留島(以下、宇留島):みなさんもだと思うんですが、東急ストアさんには私もちょくちょくランチや買い出しなどでお世話になってます! CITY SHOPさんにももちろんお邪魔したことはあるんですが、メニューがたくさんでどれもおいしそうですよね。メインはやはり麺類だと思いますが、最近ライスも加わったとうわさを聞いて、ちょうど気になっていたんです。
服もごはんも自分好みを味わう「CITYSHOP」
沼尻:私たちが創業時から変わらず大切にしているのは、おいしいだけでなく選ぶ楽しさを提供すること。そのためにCITYSHOPでは、常時デリを11種類、麺類を5種類用意しているんです。自分好みにカスタムできる分、カウンターでデリを眺めながら迷われる方も多いですね。そういう時間も含めて楽しんでいただけたらうれしいです。
ありがたいことに常連のお客さまも多いので、月に一度はデリ11種類を総入れ替えしています。飽きがないようにというのはもちろんのこと、常に新鮮な体験を提供できるお店でありたいと思っています。
Marked・高橋(以下、高橋):月に一度、これだけの量を……。
田苗:沼尻さんは当たり前のようにおっしゃってますけど、すごいことですよね。それと行くたびに思うのが、お野菜が新鮮ですよね。
沼尻:ありがとうございます! 東急ストアの田苗さんにそうおっしゃっていただけると、とても励みになります。新鮮なお野菜であったり、栄養価の高い食事をもっと身近に、デイリーに味わっていただきたいですね。
宇留島:CITYSHOPさんは2階がアパレルショップになっていますよね。飲食とは別物のように思いますが、何か共通してることとかってあるんですか?
沼尻:ファッションとフードって、日々の生活に溶け込むものという点で、遠いようで密接に関わっていると思うんです。この2つが中心となって、さまざまなカルチャーをジャンルレスに集めることができたらおもしろいのでは? という発想のもとこのような形式のお店が誕生したと聞いています。
ベイクルーズというとファッションのイメージも強いと思うんですが、「ライフスタイル全体を通してブランドの世界観を提示できないか」ということではじまって、飲食事業としても実はもう25年の歴史があるんですよ。
宇留島:なるほど〜! そうだったんですね。はじめて知りました。
話もひと区切りついたところで、そろそろ次の場所にまいりましょう。奥に進むと見えてくるのは、東急ストアフードステーションさんです。
みんなの救世主「東急ストアフードステーション」
――そもそも、「東急ストア」さんと「東急フードステーション」さんって何か違いがあるのでしょうか?
田苗:東急フードステーションは、東急ストアに比べて利便性や買い物の楽しさにフォーカスした業態です。すぐそこにコンビニもありますが、コンビニでは手に入りづらいような生鮮食品やお惣菜、ほかではあまり取り扱っていないような体によいドリンクなんかも取り揃えています。
宇留島:個人的にはお弁当だけではなくお惣菜も販売してくださっているのがうれしいです。生鮮食品も新鮮なものばかりで、もちろん地域の方々にとっては渋谷・原宿エリアでも数少ないスーパーですし、私たちも営業中に予期せぬ出来事が起きると駆け込みます! 日々の救世主ですね。
田苗:いつもありがとうございます! 店内の商品とは別に、店先に置いてある野菜や果物は全国の農家さんから直接仕入れています。その分安く提供させていただけるんですよ。
沼尻:見てください、産直のほうれん草がこんなに入ってこのお値段です! この立地で信じられません(笑)。
お店の前には新鮮な果物・野菜が並ぶコーナーが。取材中、気になって足を止める人も多々
高橋:Markedでも同じようにお野菜を販売していた時期もありましたが、やはり鮮度を保つのが難しくて……。
田苗:うちもそこは課題で、鮮度を保つために1日で売り切るようなイメージでいますね。最近は地域住民の方やキャストに住んでいる方にも産地直送の野菜コーナーを知ってもらえるようになって、出勤前の方とかも知るのかな、朝いちの時間帯にこのコーナーをめがけてきてくださる方もたくさんいらっしゃいます。
続いて向かうのはMarkedさん。広場から大階段を抜けて左に入ると、道路に面した日当たりのよいテラス席が見えてきます。
よいものを通して旬を届ける「Marked」
宇留島:Markedのコンセプトは"Goodies by good ones(よい人のつくる、よいもの)"で、メニューはパンやアイスなども含めてどれも自分たちの手づくりなんです! ほかにも蔵前の本店同様、加工食品や調味料などつくり手のこだわりが詰まった商品をセレクトして、店頭販売も行っています。
渋谷キャストという場所柄、ここで働いている方や住んでいる方をはじめとした常連さんも多いので、CITYSHOPさんと同じく来てくれる方が飽きないようにいつも試行錯誤していて。メインでお出ししている定食は週替わりですし、シーズンものにも力を入れています。
高橋:たとえば、アイスクリーム。春になるといちご、夏にはチョコミントのようなさわやかなものといったように、いつも旬の食材や季節にあったフレーバーを考案しています。
田苗:Markedさんといえばアイスのイメージありますね! いつも楽しみにしています。でもそれ本当に大事ですよね〜。うちもスーパーですが実は生鮮食品以外でも、季節に合わせて打ち出す商品をけっこう変えています。
宇留島:「この季節になったらこれを食べる」と決めている方もいらっしゃるようで、「SNSで始まったのを見てきました!」と教えてくださる方もいたりします。中にはコーヒーのサブスクリプションで毎日利用してくださる方もいらっしゃって、うれしい限りです。
みなさんのお店もひと通り巡ったところで、今度は4人から見た「渋谷キャスト」について伺います。Markedさんのテラス席をお借りしてゆったりお話をすることに。
非日常と日常のあわいにある、渋谷キャストの循環
ーー渋谷キャストは店舗も少数精鋭で、1つのビルの中にオフィスや住環境まで揃っている点が、一般的な「商業施設」のイメージからすこし離れるかと思うのですが、みなさんから見てこの場所にはどんな特徴がありますか?
沼尻:複合施設だからこそだと思いますが、日々幅広い年齢層の方に来ていただいています
ね。平日と土日、時間帯によっても、客層がガラッと変わるんです。それから通常営業に加えて、イベントが多いのも特徴ですよね。イベントをきっかけにうちのことを知ってくださる方もいらっしゃいますし、うちに食事にきたついでにイベントを見ていく方もいる。そういった相乗効果が建物全体の循環にもつながっているのではないかと思います。
田苗:私もそう思います。これまでに15店舗ほど現場を経験してきましたが、渋谷キャストのように曜日や時間帯でわかりやすく客層が変わるお店は珍しいです。イベントとの連動も普通の店舗にはありませんしね。
2023年に渋谷キャスト店に着任してから、イベントに合わせた店舗運営やクリエイティブな活動をされている方にも受け入れてもらえるような商品選定など、この店舗ならではの動きがたくさんあって、どれもが貴重な経験です。
2017年の渋谷キャスト開業時から定期的に開催している「渋谷デザイナーズマーケット」
宇留島:個人的には渋谷デザイナーズマーケットが好きで、毎回覗かせていただいています。すてきなクリエイターさんや作品に出会うことができるんですよ。あと、忘れもしないのが某アイドルグループのポップアップイベント。広場から大階段のいちばん上までお客さまがずらーっと並んで、すごかったですね……。お店もMarkedはじまって以来の大盛況でしたね(笑)。
沼尻:僕もあの日のことは鮮明に覚えています! すごかった……。 でもやっぱりイベントのときは、あたらしいお客さんがいらしてくださるのでありがたいですよね。
田苗:日常と同じくらい、非日常もたいせつにしたいですね。きっとみなさんもそうだと思いますが、うちではイベントに合わせて発注するものや売り場を変えることもあります。たとえば「いちごフェス」というイベントの周辺時期には、ふだんは仕入れないすこし高級ないちごやいちごを使ったスイーツを店頭に並べたり。渋谷キャストの動きにあわせた工夫も日々続けています。
ーーみなさんにとってもイベントは、いろんなアイデアやお店を変えていくきっかけにもなっているんですね。今後の催しの際も楽しみです。キャストは渋谷、原宿、青山の交差点的なエリアにありますが、街に対してはどんな印象を持たれていますか?
高橋 :渋谷と言えどいろんな人がいて、駅前のあたりとはぜんぜん雰囲気が違いますよね。
宇留島:明治通りはやっぱり人通り多いですけど、中心からはすこし離れているので、渋谷なのに都会の喧騒を感じない落ち着いた雰囲気がいいんですよね。
田苗:でも駅からもそこまで遠くない。この立地で開放的な広場があって、こんなふうに気持ちのいいテラス席も用意できる場所って、なかなかないと思うんです。
沼尻:僕もそのひとりですが、雰囲気が好きで働いてくれているスタッフや来てくださるお客さまも多い印象です。休憩時間に広場でぼーっとできちゃうなんてぜいたくすぎます(笑)。
日々の隙間に宿る「WORK, LIVE, PLAY」
ーーそれぞれの視点から、渋谷キャストの魅力が伝わってきました。それでは最後に、みなさんが日々のお仕事の中で渋谷キャストのコンセプトである「WORK, LIVE, PLAY」を感じる瞬間とは、どんなときですか?
沼尻:うちは広場に面しているので仕事中も広場の様子がわかるのですが、見ていると本当にさまざまな方々がいらしてるんですよね。犬の散歩の道すがら広場で休んでいる方や旅行中なのか海外のお客さま、スーツ姿のサラリーマンや親子連れなど、それぞれが思い思いに渋谷キャストでの時間を楽しんでいるのを見ると、どんな過ごし方も歓迎してくれるキャストの「WORK, LIVE, PLAY」を感じますね。
それと実は、渋谷キャストにはベイクルーズの本社がありまして。ふつうの店舗ではなかなか顔を合わせることも少ないファッション事業のみなさんが昼どきに来てくださったり、スナップ撮影をしていたりして、いつも刺激をもらっています。
田苗:ベイクルーズのみなさんはおしゃれでかっこいいので、すぐ分かりますよ(笑)。東急フードステーションには働く方だけでなくて、13〜16Fにある住宅フロアの方々もよく来てくださいます。仕事の休憩時間にご飯を買う方、日々の暮らしのために日用品を買う方、イベントの合間に飲み物を買う方と、さまざまなお客さまを見ていると、この場所が「住む」「働く」「遊ぶ」という3つの機能を持っていることをあらためて感じますね。
宇留島:Markedの隣には「co-lab」というクリエイター向けのシェアオフィスがあって、そこで働くデザイナーやコンサルタント、アートディレクターの方々など、クリエイティブな活動をされている方もたくさんいらっしゃいます。中には毎日顔を出してくださる方もいて、私はみなさんとお話しているときにいちばん「WORK, LIVE, PLAY」を感じますね。
最近だとco-lab会員さんによるトークイベントや、それこそベイクルーズさんの忘年会、住宅フロアのランチ会をうちでやってくださることも多くて。同じビルに入っていたとしてもふつうは、日常でみなさんの働き方や日々の生活をそこまで深く聞くことができないので、そういった機会があることに感謝しています。
ーーさまざまな人が行き交うキャストならではの体験ですよね。イベントだけでなく普段のお仕事の中でも、多くの人との交流や出会いがあるのがうらやましいです。今回取材に協力いただいた3店舗が、実際には隣り合わせではなくとも「おとなりさん」のようにお互いを受け入れて、いっしょに憩いの場をつくっていこうとするあたたかい一体感を感じました。これからもキャストに集うお店やお客さま、住む人や働く人みんなでつくる渋谷キャストがどんな場所に成長していくのか楽しみです。今日はみなさん、ありがとうございました!
CREDIT
執筆:Re!na(Camp Inc.)
撮影:須藤翔(Camp Inc.)
編集:横田大、須藤翔(Camp Inc.)
デザイン:山下舞、植木駿(Camp Inc.)