ジャーナル
乾杯は「金曜日 17時に」。オリジナルビールがつなぐ“渋谷キャストらしさ”とは
2025年4月から6月にかけて開催した「SHIBUYA CAST. SCHOOL 第1期クラフトビールゼミ」。クラフトビール醸造所「里武士 馬車道」の里口空さんや、渋谷を拠点に活動する「N.E.W.S project Director」の中村元気さん、数々のビールラベルを手がけるイラストレーターのイソガイヒトヒサさんを講師にお迎えし、渋谷キャストに関わる大勢の参加メンバーとともにビール造りに初挑戦しました。
全4回の講座を経て、それぞれが「渋谷キャストらしさ」を考え、一人ひとりのクリエイティビティを発揮する機会となった本プロジェクト。年齢も性別も職種も異なる渋谷キャストで遊び、働き、暮らすメンバーが生み出したビールは、どのようなアウトプットとして完成したのでしょうか。 今回の記事では、ビールができるまでの過程やお披露目イベントの様子、実際に飲んでみたみなさんの当日の声まで一挙にお届けしたいと思います。
<開催概要>
2025年4月8日(火)〜6月18日(水)
「第1期クラフトビールゼミ」
2025年9月5日(金)
お披露目イベント
主催:渋谷キャスト(東急)
企画・運営:横浜ファンカンパニー株式会社
横浜ファンカンパニー株式会社について……
横浜ファンカンパニーは、ファンづくりを軸としたPR・企画会社です。
オリジナルビールのプロデュースも含めて「ビールを介して人がつながる」という経験をもとに、企業・地域・コミュニティの間に“ファン=ワクワクする関係性”を育むプロジェクトを手がけています。
再びつくり手が大集結! 乾杯は“金曜日”に


9月5日(金)、渋谷キャストオリジナル缶ビールのお披露目イベントが開催されました。この日を待ってましたと言わんばかりに、これまでプロジェクトに参加してくださったつくり手のみなさんがスペースに大集合。乾杯後も歓声がなりやみません……!
アンケートの声をかたちに。オリジナルビール誕生秘話
お披露目イベント開始前に、本企画の発起人である東急株式会社 不動産運用事業部 価値創造グループの白井亜弥さんと、ラベルデザインを担当したデザイナーの岡田玄也さんにインタビュー。本プロジェクトについて振り返っていただきました。

──そもそもなぜ、渋谷キャストのオリジナルビールをつくることになったのでしょうか?
白井:コロナ禍を経て、渋谷キャストのみなさん同士でコミュニケーションを取る機会が少なくなってしまったように思っていて。そこで、去年の夏には広場で開催されていたHoegaarden BEER GAARDENを楽しむ会、年末には大忘年会を開催すると、、年末には忘年会を開催すると、アンケートに「キャストに関わるみんなで何かをいっしょにつくりたい」という声があがったんです。この声をかたちにしようと運営メンバーで議論した結果、「SHIBUYA CAST. SCHOOL 第1期クラフトビールゼミ」が生まれました。
でもなぜビールなのか。いくつか理由はありますが、まずはパッケージデザインやコピーを考えるといった工程の中で、ビールが飲めない人もいっしょになって楽しめるから。そして何より、ビールはデザインやコンセプトの自由度も高くて、クリエイティビティが発揮できるものになりうる。つまり、コンセプトに「Share The Creative Life」を掲げる渋谷キャストを体現するにはうってつけだと考えたんです。つくる工程をみんなで「学ぶ」ことに重きをおきたい、という意味でもビールにして大正解でしたね。

──たしかに、クラフトビールってどれもデザインやコンセプトが尖っているイメージがあります。「ビールをつくる」ってなかなか経験できることではないと思うのですが、渋谷キャストのみんなでビールづくりに向き合う中で、どんな気づきや変化を感じましたか?
白井 :わたしたちが考えていた渋谷キャストらしさと、実際にこの場所に関わってくれている人たちの思う渋谷キャストらしさは、案外近いんだなと感じました。それと同時に、みなさんから、この施設に対する熱量の高さをひしひしと感じることができ、すごくいい機会になりました。
ワークショップを通じて、渋谷キャストの2階にあるシェアオフィス「co-lab」で働いている方が、13階の住居スペース「cift」を見学しに行ったり、その逆もあったりと、これまでなかったあらたな交流が生まれているとも聞いています。今までだったら、たとえばエレベーターで会ってもどこの誰なのかがわからなかったようですが、ワークショップで知り合ったメンバー同士、互いにあいさつを交わすようになったという話も聞けてこの企画をやってよかったと思っています。「職・住・遊」の機能が三位一体となった渋谷キャストに新しいコミュニティが生まれたようで、なんだかとてもうれしいです。

──これまで交流がそれほど多くはなかったということを考えると、大きな変化ですよね!ビールの名称もなかなかユニークなものだと思ったのですが、これもメンバーみんなで決めたのでしょうか?
白井:ビールの名前は、ワークショップの最終回で「渋谷キャストで9月に乾杯するビール」をテーマに2つのチームで考えていただいたものなんです。ワークショップでは最終的に「C3B2」「金曜日 17時に」という2つの案が出ましたが、後日渋谷キャストの皆さんに投票いただき、一番投票数が多かったものを採用しています。
今回採用された「金曜日17時に」は、ワークショップの中でチームのみなさんから出た、
「どんな時間帯でも飲めるライトなテイストがいい」
「渋谷キャストならではの景色として広場の良さがある」
「一週間の締めくくりや仕事終わりに飲むイメージ」
といったフレーズが、最終的に「金曜日 17時に」というネーミングに形作られていった印象でした。
ちなみに、2つのネーミング案の投票結果は非常に僅差でしたので、どちらも渋谷キャストらしさが表現されている、かつ、渋谷キャストのみなさんからもそう受け取ってもらえるとてもすてきな名前だと思っています。
——なるほど、渋谷の喧騒からすこし離れている渋谷キャストらしい名前ですよね。完成した9月にもイメージがピッタリです。デザインについても、岡田さんがデザインする前にみんなで考えたのでしょうか?
白井:このあと発表があるかと思いますが、参加者から出たコンセプトをヒントに、岡田さんが数案考えてくれました。そのときの案がどれもすばらしかったので、どの案にしようかかなり悩みましたね。実は、岡田さんとお仕事でごいっしょするのは初めてなんですが、共通の知り合いの多さにも不思議と安心感があって(笑)。デザインもイメージにピッタリですし、本当にお願いしてよかったと思っています。

岡田:そう言っていただけてうれしいです。今回東急さんにお声がけいただいて、このプロジェクトに参加させていただきましたが、僕がゼミに参加したのって実は終盤からだったんです。だからデザインを制作するうえでいちばん気を配ったのは、最初から参加されている方に「なんか違う」と思われることがないようにすること。僕が参加していなかったころのゼミの内容もできる限り把握して、なるべく意見を盛り込もうと心がけました。

完成した「金曜日 17時に」のデザイン
パッケージデザイン:添えるデザイン 岡田玄也
イメージ写真撮影:映像・写真撮影/ディレクター 古屋和臣
——たくさんの人の意見や想いを詰めないといけないのはたいへんですね。
岡田:ただ、全部が全部メンバーの意見だけでつくったというわけではないかもしれないです。講座で交わされた意見や趣旨を表現したいという思いがいちばんにありつつも、僕自身も参加者ではあるので、渋谷キャストがどういう場所なのかを自分なりにも考え、表現することに注力しました。とはいえみなさんが違和感を覚えてしまったら元も子もないですし、実は参加者の中にふだんパッケージデザインをされているデザイナーの方もいらっしゃったみたいで、なかなか緊張感のあるお仕事でしたが、最終的に良いものができて本当によかったです。
白井さん、岡田さん、ありがとうございました。二人の言葉や目線から、このビールをいっしょにつくってきたメンバーがクラフトビールゼミにどれだけ熱量を注いできたかが伝わってきます。ここからは、ゼミの内容をすこしだけおさらいします。
仲間といっしょに、学び、つながり、体験する講座
完成まで、全部で四回重ねられてきた「SHIBUYA CAST. SCHOOL 第1期クラフトビールゼミ」。ビール造りの基礎を学ぶだけでなく、クラフトビールと街のつながり、ラベルデザインの考え方など、多角的な視点で講座やワークショップが繰り広げられました。
2025年4月8日に開催された第1回目の講座では、「里武士 馬車道」よりビール醸造家の里口空さんをゲストとしてご招待。「モルト(麦芽)」の試食や「ホップ」の香り体験、クラフトビールの試飲を通じて、ビールの種類や醸造工程、原材料について学びを深めました。

パンの耳をアップサイクルしてつくられたビール『bread』で乾杯するところからスタートした第2回目の講座テーマは、「クラフトビールを通じた街や人との繋がり方」。長野・野沢温泉を拠点とするAJB(Anglo Japanese Brewing Co.)で『bread』の開発に携わった中村元気さんを講師としてお招きしました。この日のワークショップで向き合った問いは「あなたが飲みたいビールは、どんなビール?」というもの。「そのとき、その場所にいる人たちがつくりあげるものこそが、地域らしさ」という中村さんの言葉をヒントに、「渋谷キャストらしいビール」をみんなで考えます。

「水のようにスイスイ飲める度数の低いビール。仕事帰りに公園で飲める“渋谷区公認”のビール」
「カラフルで苦味控えめ。出会いの場を明るくする、乾杯のきっかけになるビール」
「湖や森の香りが漂う、都会で自然を感じるビール。路地裏でそっと飲みたい」
議論が深まるうちに、これから自分たちがつくるべき「渋谷キャストのビール(= いま、この場所にいる人たちが描くビールのかたち)」が、少しずつかたちになってきました。

いよいよコンセプトが見えてきたところで、第三回目のテーマは「ラベルデザイン」。クラフトビールラベルを数多く手がけるイラストレーター・イソガイヒトヒサさんをゲストに、ビールのラベルが持つ力やつくり方について学びました。

これまでのビールラベルの事例と、それに込められた背景や制作の工夫を見ていった前半に続いて、後半では実際に参加者でラベルのラフを描いてみるワークショップを実施。「広場のベンチを上から見たかたちを取り入れたい」「不揃いの調和をテーマにしたい」「渋谷の地図を表現したい」など、それぞれのクリエイティビティが存分に発揮されたデザイン案は、岡田さんが制作したデザインやこのあとの構想にもつながる大きなヒントになりました。

最後となる第4回目で取り組んだのは「ビールそのものをつくる」ためのコンセプトワーク。2つのチームにわかれ「完成タイミングである9月にみんなで乾杯したいビール」テーマに、味・シーン・名称までを含めたアイデアを議論しました。

ワークの最後には、それぞれのチームが考えたビールをプレゼン形式で発表。1つ目のチームが発表したビールの名前はCAST・CRAFT・CREATIVE・BEER・BONDの頭文字を取った『C3B2』。「つながり」「創造性」を大切にした、キャストらしいコンセプトに、感嘆の声が上がります。
そしてもうひとつのグループが発表したのが『金曜日 17時に』。忙しない渋谷の街中でも、夕涼みしながら一週間の終わりに乾杯できる爽やかでビターな味わい。居住者やこの場所で働くメンバーのリアルな感情が反映されたビールです。

どちらもメンバーからたくさんの共感を集めた“渋谷キャストらしい”1本でしたが、講座終了後、渋谷キャストのみなさんに投票いただいた結果、僅差で「金曜日 17時に」。味わい、シーン、名称はみなで考えたものの通りに、第1回目の講師をつとめた「里武士 馬車道」の里口空さんが実際の醸造を担当してくれました。
全4回の講座が終わり、希望メンバーで仕込み体験や醸造見学にも行きながら、あとは9月の完成を待つのみ。このあとのお披露目会でいよいよメンバーの想いが詰まったビールの封開けです。

「里武士 馬車道」が手がけたIPA。気になるその味は?
お披露目会では、まずはじめに実際にビールの製造を手がけた「里武士 馬車道」の里口空さんに「金曜日 17時に」の味わいについてお話しいただきました。

「みなさんきっと早く飲みたいと思うので、すこしだけ。今回のビールですが、ブリュットIPAという、白ワインのようなニュアンスがあると言われるスタイルにしてみました。そちらをベースに、一週間の終わりに爽やかに乾杯できるジューシーでフルーティーな味わいに仕上がっております! 苦味が少ない分飲みやすい。すっきりとした後味が特徴。きっとおいしくできたと思っているので、このあとの乾杯、僕自身も楽しみにしています!」
ワークショップの参加メンバーも含め、まだ誰も飲んだことがない「金曜日 17時に」。里口さんの説明を聞きながら、みんなで期待に胸を膨らませます。
デザインへの道のりをすべて公開!
続いて、先ほども登場したデザイナーの岡田さんによるラベルデザインの発表タイム。採用案に至るまでのデザインも振り返りながら、決定したデザインに込めた思いを聞かせていただきました。

「まずはこちらの、にぎやかなデザインです。みなさんは今年の4月に渋谷キャストの周年祭があったこと、覚えていますか? あのときのビジュアルも、実は僕と同じくco-labで仕事をしているデザイナーの武田さんが手がけているんです。このデザインは周年祭の賑やかさを取り入れたくて、その方の了承を得たうえでモチーフにさせていただきました」

「次はこのアンビエントなデザイン。『金曜 17時に』のコンセプトを読んだときに、情緒的で詩的な印象を受けたんですよね。その印象に全振りしたデザインがこちら」

「これがいちばん採用案に近いですね。『金曜日 17時に』ということで、昼と夜の間を色で表現することにチャレンジしました。渋谷キャストには多様な方がいらっしゃるので、その多様性を表現するために背景はそういった意味合いでグラデーションにしています」

「最後はロゴマークを全面に出した案ですね。もう既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、発表した順にいうと、2、3、4の3案を組み合わせたものが完成デザインです。シャンパンのような飲み口とも聞いていたので、泡っぽい感じや透明感を意識して総仕上げしています」
参加者もこの場ではじめて見るデザインの軌跡。手元に配られた完成品と見比べながら、会場からはスライドが変わるたびに感嘆の声が上がります。半年間向き合い続けたビールが手元にある状況にそわそわしながらも、みんな岡田さんの話に聞き入っていました。
ビールが飲める人も、あまり飲めない人も大満足

講師陣の話を聞いて「金曜日 17時に」のイメージを膨らませた参加者からは緊張感とワクワク、どちらもが伝わってきました。いよいよお待ちかねの試飲タイムです。

発起人である白井さんも、完成形のビールを飲むのは初めてなんだとか。「香りはフルーティーで飲みやすい。ビールなのにジュースみたい」

講師もつとめたイラストレーター・イソガイヒトヒサさん(左)とゼミの企画を担当した横浜ファンカンパニーの株式会社の工藤葵さん(右)
講師のひとりであるイラストレーターのイソガイさんは「『金曜日 17時に』という名前から連想されるイメージがそのまま表現できていますね。ブリュットにしては色があって、テーマにもすごく合っているなと思います」と一言。

皆勤賞を獲得されたお二人。渋谷で飲食店を経営する目良慶太さん(左)と、co-labに入居する西留悠斗さん(右)
ワークショップ皆勤賞を受賞した方にもお話を伺いました。
「ここの16階に住んでいて、キャストのイベントにはできるだけ顔を出すようにしています。自分自身も渋谷で飲食店をやっていて、ビール造りに興味があったので参加しました。このビールも自分の店で取扱いさせていただく予定です。講座を通してつながった方と今いっしょにお仕事をさせてもらっていますのもうれしいですね」

デザインを担当した岡田玄也さん(左)とコピーライターの薮内一真さん(右)といっしょに試飲を楽しむのは、今回はじめて参加したという林真理乃さん(中央)。三人はco-labでふだん働く仲間だそう
co-labに在籍しているけれど、お披露目イベントが初参加だという方もいらっしゃいました。「どちらかというとワインが好きで、それで講座には参加できていなかったんです。でも、今飲んだらすごく飲みやすくておいしいですね。ビールっぽくないかも。次回、クラフトワインの講座を希望します! 」(写真中央)
渋谷キャストで遊び、働き、暮らすたくさんの人々が同じ目標を持って集まった今回のプロジェクト。会場のみなさんからお話を聞く中で、お披露目会で流れていた和やかな空気やたくさんの笑顔は、参加者が渋谷キャストに対して抱いていた想いを全員で共有することで生まれたのだと感じました。
以前、別の取材で「『渋谷キャストに帰ってきたい』『この場所に居続けたい』と思ってもらえるような場所を目指したい」と語っていた白井さん。そのときの言葉が、だんだんとかたちになっていることが実感できるような空間でした。
次回のSHIBUYA CAST. SCHOOLの内容はまだ未定だそうですが、これからも渋谷キャストのみなさんで何かをつくるような企画は開催する予定だそう。今回つくったビールも在庫があるかぎり渋谷の各所で購入も可能です。見かけた際にはぜひお試しください!

CREDIT
執筆:Re!na(Camp Inc.)
撮影:Re!na、須藤翔(Camp Inc.)
編集:横田大、須藤翔(Camp Inc.)
デザイン:山下舞、植木駿(Camp Inc.)
KV写真:映像・写真撮影/ディレクター 古屋和臣