SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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2021/12/02

<EVENT REPORT>
食品ロスを削減しながら、食の貧困も解決する。
「BENTOコモンズ」が目指す、与える人と受け取る人が循環する社会。  

<EVENT REPORT> 食品ロスを削減しながら、食の貧困も解決する。 「BENTOコモンズ」が目指す、与える人と受け取る人が循環する社会。

10月23日から10月24日の2日間、秋の陽気が心地いい渋谷キャストにて「BENTOコモンズ」が開催されました。これは、まだ食べられるのに捨てられてしまう、サイズや形が不恰好な野菜や、飲食店で余ってしまった食材を活用して愛情たっぷりのお弁当をつくり、必要としている人へお届けする試み。
貧困問題の解決に取り組む有識者たちを交えたトークの配信も行われ、事業者の垣根を超えて「食品ロス」と「食の貧困」の2つの社会問題を語り合い、その解決に挑むイベントとなりました。

 

運営の中心となっていたのは、渋谷キャスト13Fのクリエイターコミュニティ「Cift」に所属しながら、沖縄にも活動の拠点を持つ浅倉彩さん。彼女が、沖縄県恩納村のリゾート地で食品ロスを活用した子ども食堂を運営するNPO法人「沖縄O.C.E.A.N - マーメイドママプロジェクト」の取り組みを発見し、渋谷キャストにノウハウを展開する形で企画が実現したのです。
当日の模様と、企画にこめられた運営メンバーの思いをダイジェストでお届けします。

 

PHOTOGRAPHS BY YUKA IKENOYA(YUKAI)
TEXT BY Mizuki MATSUZAWA

Day1. 現場で感じる「社会の不足」や食の課題を語り合う円卓会議

 

1日目のメインは、有識者を招いたトークセッション。さまざまな理由から生きづらさを抱える女性の支援や、食事や学習の機会の提供を通じて子どもたちの居場所づくりに取り組む団体、食品ロスを防ぐ取り組みを行うホテル・スーパーマーケット・食品流通事業者が登壇し、それぞれの活動や現場で感じる課題、解決策の実践について共有し合いました。

 

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「沖縄O.C.E.A.N - マーメイドママプロジェクト」代表理事であり、2日目のお弁当づくりもリードする伊江さんも登壇。新型コロナウイルスが流行し出した直後、自身のルーツである沖縄へ戻って暮らし始めた恩納村で子どもたちの食の貧困問題を目の当たりにし、プロジェクトを立ち上げるに至ったといいます。

 

友人たちの協力を得ながら、現地のリゾートホテルに「余っている食材をつかってお弁当をつくり、子どもたちに届けたい」とかけ合い、活動がスタート。沖縄を拠点に活動する就学援助児童支援NPO法人 エンカレッジともつながり、毎週金曜日に子どもたちにお弁当を配る活動を続けています。

 

子どもの貧困率が全国の約2倍となり、大きな問題となっている沖縄県。立ち上げから約1年弱、既に提供したお弁当の数は600を超え、活動はスピード感をもって広がりをみせています。

 

 

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(トークのアーカイブはこちらから)

 

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Session 1 /「見つめる力 目の前のひとりに向き合う現場の今」
【登壇者】
・NPO法人 BONDプロジェクト 事務局長 竹下奈都子氏
・就学援助児童支援NPO法人 エンカレッジ 理事長 坂晴紀氏
・就学援助児童支援NPO法人 エンカレッジ 恩納学習支援教室 教室長 古林彩子氏
・NPO法人 沖縄O.C.E.A.N - マーメイドママプロジェクト代表 伊江玲美氏

 

Session2/「つながりの力 シェアのデザインによる食システムの再構築」
【登壇者】
・ハレクラニ沖縄 料飲部長 岡田友嗣氏
・東急ストア フードステーション渋谷キャスト店 店長 萩生田尚佳氏
・渋谷区環境政策部清掃リサイクル課長 村山英樹氏
・一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 石山アンジュ氏
・NPO法人 沖縄O.C.E.A.N - マーメイドママプロジェクト代表理事 伊江玲美氏
・NPO法人 沖縄O.C.E.A.N - マーメイドママプロジェクト理事 田里宗章氏
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Day2. 捨てるにはもったいない!余剰食材で栄養満点のお弁当づくり

2日目のミッションは、廃棄・余剰食材をつかったお弁当づくりとその配布。渋谷キャスト内外の飲食店やスーパーの協力のもと、規格外のため市場に出回らない野菜などを中心に、さまざまな食材が渋谷キャスト13階の共用キッチンに集まりました。これらの材料から、45人分のお弁当をつくっていきます。

 

【食材の提供元/協力】
・東急ストアフードステーション渋谷キャスト店 & 契約農家の皆様
・しぶいちベーカリー(株式会社HUGE)
・Åre(株式会社puhura)
・Dōngxi 亜細亜香辛料理店(株式会社ウェルカム)

 

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調理担当は、マーメイドママのメンバーのみなさんです。手際よく野菜を切り、下拵えをはじめていきます。キッチンにはソーセージやスパイスのいい匂いが立ち込めていました。

 

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おかずが完成したら、次の作業は箱詰め。おかずもごはんも、パックから溢れんばかりに詰めこんでいきます。メンバーのみなさんによれば、「沖縄のお弁当ってみんなこんな感じ。安くて、とにかくボリューミーなんです」とのこと。たくさん栄養をとって、お腹いっぱいになってもらいたいという思いがつまったお弁当は、どれもとても美味しそうでした。

 

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45人分のお弁当を詰め終えたら、休む間もなく支援団体のもとへお届けに向かいます。今回訪問した団体のひとつが、1日目のイベントにも登壇されていたNPO法人 BONDプロジェクト。10〜20代で、さまざまな生きづらさを抱える女性たちを保護し、適切な行政サービスへつなげる活動をしている団体です。
手渡したお弁当を見て、「美味しそう!」「すごいたくさん入ってる!」と声を上げる事務局長の竹下さん。「女の子とたちと一緒に、おいしくいただきます」と笑顔でコメントしてくださいました。これにて2日目のミッション完了です。

 

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終了後、企画を主催した浅倉さんと、お弁当の届け先探しを担い、マーメイドママのメンバーと一緒にお弁当づくりを担当したCiftメンバーの鈴木さん、イベント実現に向けてプロジェクトに伴走した東急の井上さんにお話を伺いました。

 

浅倉:沖縄には「かめかめおじさん」と「かめかめおばさん」という人たちがいるんです。「かめかめ」は「食べて食べて」の意味。沖縄ってとにかく大盛りだし、ローカルな民宿に泊まったりすると、「これ料金に入っているのかな?」と不安になるくらいどんどん食べ物が出てきます(笑)。貧困率がとても高い地域で、綺麗事だけではない側面もあるのですが、10年沖縄に住んできて、「そこに食べる人がいるから食べ物をあげる・つくる」というマインドを色々な場面で感じてきました。

 

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井上:渋谷キャストには、施設に入居するメンバーの取り組みを支援する制度があります。今回は、入居メンバー間のコラボレーションを条件とした、コンペ形式での取り組み支援に初めて挑戦しました。
「創造性を誘発する空間」をコンセプトに掲げる渋谷キャストでは、各入居メンバーがこれまでそれぞれの強みや連携を生かし、施設から価値を発信し続けているんです。今回のコラボレーションは、施設の内外のコミュニティの横のつながりをさらに深め、これまでにはないインパクトをもった取り組みを生み出したいということでスタートしました。

 

さまざまな入居メンバーによるアイデア企画とコンペ、投票によって、第一弾に選ばれたのがBENTOコモンズです。なんとしても実現したいと思ったんですが、食材が集まらないことには話にならないなって(笑)。渋谷キャスト内はもちろん、明治通りをはさんで向かいのMIYASHITA PARKにある飲食店さんにもお声がけして、食材集めに力を尽くしました。

 

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浅倉:余剰食材も受け取り手も、見つかるかどうかわからない状態からスタートし、鈴木さんと井上さんと共に、時に先行するマーメイドママさんにもアドバイスをもらいながら実現にこぎつけました。
例えば東急ストアさんには最初「店舗にロスはありません」とお返事をいただいたんですね。でも店長の萩生田さんが、「農家さんのところにはあるかもしれない」と、農業総合研究所(和歌山に本社を置く企業で、新鮮な農産物をスーパーで直接販売できるプラットフォームを提供している)をつないでくださったんです。
それまで東急ストアはいち消費者として買い物するだけの場所でしたが、それがあってからは全く違う存在になりましたね。

 

他にもMIYASHIYA PARKの飲食店さんが手をあげてくださったり、Ciftのメンバーが食材の保管スペースや調味料を提供してくれたり、本当に色々な方々が協力してくださったんです。しかも、そのみなさんが参加したことをすごく喜んでくれて。関わった人全員が喜んでいるって、こんなに嬉しいことなんだって思いました。

 

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活動は今後も続けていきたいと語る浅倉さんと鈴木さん。鈴木さんは、関係者全員が損をしない仕組みづくりも考えていきたいといいます。

 

鈴木:流通業って仕入れるだけでリスクを背負うので、ロスが出ること自体大きな損失なんです。だから私たちが「この企画、SDGsとも関連があって社会的にもいい取り組みなので、食材ください」ってただお願いするのは違うなと。お腹を空かせている人たちを減らすために、その負担を別の誰かが負わなければいけないのはwin-winの関係じゃないですよね。食材の運送や保管にかかるコストの視点も含めて、より誰も損をしない仕組みを考えたいです。

 

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浅倉:一緒に活動する中で、鈴木さんが「支援者と被支援者を固定化しないことを大切にしたい」とおっしゃっていて、とても共感しています。
例えば、今回はお弁当を受け取る側として参加していただいたBONDプロジェクトさんが、支援する女性たちと一緒にお弁当をつくる日が来るかもしれません。BENTOコモンズは「支援する団体」ではなく、地域に埋もれている食材や善意、やる気というリソースがあると信じて見つけ、「ひとつながりの輪をつくる活動」だと思っています。

 

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余っている資源を、それが必要とされる場所へ届けること。資源を与える人と受け取る人の役割がぐるぐると循環し、関わる人全員がハッピーでいられる仕組み。BENTOコモンズのこれからの歩みに期待が高まります。

 

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