SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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2023/05/15

<EVENT REPORT>
人間以外も含めたまちづくりの視点を持とう。
「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」開催レポート

<EVENT REPORT> 人間以外も含めたまちづくりの視点を持とう。 「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」開催レポート

2023年3月4日、5日に渋谷キャストで開催されたイベント「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」。

 

地域活動団体「CATs」とまちのみどりの資源の活⽤を提案するプラットフォーム「Dear Tree Project」が「渋⾕キャスト」と共同開催したこのイベントは、渋谷のまちのみどりについて触れ、学べる体験プログラム。渋谷キャストガーデンに、資源の活用と循環にまつわるマーケットやワークショップが集結しました。

 

ここでは、イベント当日の様子ともに、地域活動団体「CATs」代表の中村元気さんと、「Dear Tree Project」を立ち上げられたfor Cities代表の石川由佳子さんにイベントの企画意図やそこに込められた想いなどを伺いました。

 

PHOTOGRAPHS BY
Yuka IKENOYA(YUKAI)
TEXT BY
Kana YOKOTA

まだ寒さが残るものの、春の予感のする日差しが心地よい3月の週末。渋谷キャストの会場には、原宿キャットストリートの花壇で育てたりんごの木から作った「シードル」の販売や、渋谷・原宿の地域で引き継がれたり、育てられた植木、生花、ハーブなどの販売など、渋谷のみどりの循環を体験できる店舗が集まりました。
まず最初に目に飛び込んできたのは、鮮やかな花々が並ぶお花屋さん。

 

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こちらは、レストランやフリーラウンジのほか、チャペルや披露宴会場を抱えるTRUNK(HOTEL)が、土日に行われる挙式やパーティーで使用したお花を「セカンドバリューフラワー」としてアップサイクルするという取り組み。

 

お花によっては少し傷んでいるものもあるけれど、その分ボリュームたっぷりなブーケをワンコインで購入できるんです。TRUNK(STORE) では毎週月曜日の夕方に開催しているそう。

 

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原宿キャットストリートの花壇で地域の人々が育てたりんごから開発した表参道・座光寺シードルも販売。こちらは雑誌「NEUT Magazine」とのコラボレーションで、イラストレーターのnico itoの書き下ろしイラストをメインビジュアルにしたオリジナルラベルバージョン「NEUTON」を提供されていました。キャットストリートでりんごをつくられていたこともはじめて知って驚きでしたが、実際に飲んでみるとすっきりとした甘味のある味わいでとってもおいしい!大都会の真ん中でつくられたシードルを飲めるなんてちょっと感動的です。

 

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引っ越しや育てることが難しくなった植木を引き取り、育てたい人に引き渡す活動を下北沢エリアでされている 「古樹家」さん。愛らしい植物たちがたくさん並んでいました。

 

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軽井沢・岐阜・高知をはじめ各地に研究拠点を持ち、全国の里山に眠る植生の「食材としての可能性」の発掘を行っている「日本草木研究所」は、ヒノキやモミなど日本の香木を用いた「飲む森林浴ドリンク」を販売。木材を蒸留水に混ぜて作った、森林浴をしている気分になれるというフォレストジンが気になる!

 

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たくさんお話をしながらおすすめの苗を教えてくださったのは、渋谷キャスト近辺にお住まいのマダムで、ご自宅でハーブの苗を多数育てているのだとか。このほかにも、みどりに関する様々なショップが出店。ひとつひとつの製品それぞれにストーリーがあり、訪れた人は熱心に耳を傾けていました。

 

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会場では、まちのみどりをコレクションできるツールキットの無料配布を配布。こちらを携えながら、まちのみどりを知る「グリーン・ウォークスルー」が行われました。参加者は渋谷キャストからキャットストリート、住宅街をゆっくりと散策しながら、お気に入りの葉っぱや草花を集めました。

 

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ここで、「CATs」代表の中村元気さんと、for Cities代表の石川由佳子さんのお話を伺います。

 

ー今回のイベント「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」はどのような意図で企画されたのですか?

 

中村:僕は「CATs」で渋谷エリアの清掃活動を9年くらい続けていて、もう100回目くらいになるのですが、4年前から地域の方と表参道の欅の木の落ち葉で堆肥を作る活動もしているんです。その堆肥でハーブやりんごの木を育てるということを続ける中で、もっとこの活動を広く知ってもらいたいという想いと、地域の緑と人との関係性を伝えられるようなイベントができないかと考えたことがきっかけです。まだまだ花壇にゴミをポイ捨てする人もいるし、街路樹の剪定や草木の水やりって意外と大変で、それをどんな人がやっているのか、そんなバッググラウンドも含めて伝えられたらと思ったんです。

 

石川:私はfor Citiesという都市体験のデザインスタジオをやっていて、大きなトップダウン型の都市計画というよりも、もっと市民主体のボトムアップ型で、自分達の手で街を作っていく活動を支援したいという想いで続けています。最近は人間以外も含めたまちづくりに興味があり、人間サイズの視点だけではなく、緑やほかの生き物の視点でまちづくりができたらと思い、「Dear Tree Project」を仲間とともに立ち上げました。千代田区の伐採問題をはじめ、行政の都合で伐採される街路樹と、それに反対する市民の方の想いなどをヒアリングするうちに、もう少しクリエイティブに緑に関わるところをデザインできないかと思ったんです。NYにストリートツリーマップといって、街路樹をデジタルマップ化し、市民のリテラシーを上げたり、市民と緑の関わりを作るという事業があるのですが、それを日本でもやりたいと思い、渋谷区の緑道の再開発のプロジェクト「ササハタハツ」の一環で活動をしています。私も同じく地域のためのイベントができないかと思っていたタイミングで元気くんに誘ってもらいました。

 

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ー地域で緑にまつわる活動をされている方と交流できたり、伐採木でバイオネスト(堆肥置き場)を制作したり、キャットストリートで育ったりんごでできたシードルを飲めたりと素敵な出会いや発見のあるイベントでした。イベントの内容を考える上でこだわったことはありましたか?

 

石川:地域に開いたイベントにすることがテーマだったので、なるべく渋谷キャストだけで閉じないようなつくり方ができたらと思いました。事前にキャットストリートの緑にまつわるリサーチをして、花壇の管理をされている方に案内してもらったり、渋谷の緑道で伐採した木の枝で制作したバイオネストをまた同じ場所のコミュニティファームに戻したり。イベントの前後も含めて地域の方と繋がることができるような展開を目指しました。

 

中村:僕らがやりたいことはたくさんあるけれど、地域の方々をはじめ、大人も子どもいろんな世代の方に参加してもらいたいと思ったので、バイオネストづくりのワークショップを開催したことで子どもたちがたくさん参加してくれたことが嬉しかったです。バイオネストは、鳥や昆虫の巣を意味するのですが、剪定枝などで枠をつくり、中に不要な枝や枯れ葉を捨てると自然にそのままかえるという手作りコンポストのようなものです。今回は渋谷の緑道の伐採木で形づくり、その中に落ち葉を入れて子どもたちに踏んでもらいながら完成させました。

 

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ー参加者の反応は?

 

中村:やっぱりバイオネストのビジュアル的なインパクトは大きかったみたいで、みなさん驚かれていました。木の枝という身近なところにあるはずのものなのに見落としていたねって声をたくさんいただきました。二日間で二つのバイオネストをつくったのですが、それをイベント後に渋谷の緑道にみんなで運んだことも忘れられない思い出です。

 

石川:バイオネストは簡単に作れるので、自分達でもやってみようという声もありましたね。出店者さんたちが横の繋がりを持てたことも良かったです。

 


ーお二人にとって、意義を感じられるイベントになったと思われますか?

 

石川:そうですね。今回ワークショップでチャレンジだったのは、これまでお金をかけて捨てられていた伐採木を私たちが引き取って、リデザインするということ。それをもともと伐採された場所である渋谷の緑道のコミュニティーファームに戻して、それを市民の方が活用してくれる、という新しい動きをつくることができました。

 

中村:僕はこれまでも渋谷キャストのイベント企画に何度か関わらせていただいていて、ファッション関係のイベントやフリーマーケットなど、渋谷のイメージに沿うものや、昔を思い出すようなアナログなイベントをやってきました。いずれも当日は盛り上がるけれど、次につながるようなものにするのは難しい側面があったなかで、今回はイベントが生まれる背景のストーリーや、事前準備のプロセス、イベント後の展開まで、すべて繋がりができたので、新しいイベントの形になったなとも感じています。

 

石川:枝ってどこでもらえるんだろう? というところから始まり、シモキタ園芸部さんに相談したり、渋谷区の公園課に連絡したり。伐採しているその場でイレギュラーな感じで枝をもらい、渋谷キャストに運んだり(笑)。捨てられるはずだった価値のないものでも楽しく遊べるし、さらにはバイオネストとして価値のあるものに転換することができた。すべてのプロセスが手探りではありましたが、交渉作業も含めて新しい学びも得ることができましたし、価値の転換ポイントをつくることができたのは意義があったと思います。

 

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手前、左が石川由佳子さん、右が中村元気さん


ー最後に、今後の展開や渋谷キャストに感じる可能性があれば教えてください!

 

中村:緑というテーマは、一回やったら終わり、というものでもないですし、さらに盛り上げていきたいと思っています。第二回ができたなら、緑をさらに細分化しても面白いですよね。渋谷キャストは、渋谷と原宿のど真ん中にあって、特にガーデンは通りすがりの人にふらっと参加してもらえるポテンシャルがあります。今後違った形でも、新しい公共の在り方を考える企画などを探ってみたいなと思っています。

 

石川:季節に合わせた仕掛けなんかができるといいですね。たとえば、桜の時期はみんな桜の写真を撮るけれど、桜の木に看板を取り付けて、その看板をスマホで読み込むとその地域にまつわる人や面白いプロジェクトをやっている人の情報が見られたり、アクセスできたり、なんてことができたらいいなとDear tree Projectでは考えています。渋谷キャストは若年層を呼び込むイベントをたくさん開催されていますが、私はもっとシニア層を取り込むイベントを企画してみたいなと思いました。今回の出店者さんもですが、シモキタ園芸部の方や近所のマダムがすごく草木の知識を持っていたり、元気でクリエイティブだったり。もっと都会の高齢の方の知識を活かすようなイベントが開催できたら素敵だと思いました。


ーありがとうございました!

 


渋谷の緑を存分に体験できる機会となった本イベント。今後の展開にも期待がふくらみますが、新たな視点で渋谷の街を歩いてみたいと思わせてくれる本当に素敵な時間でした。