2022.5.11

CAST People まちとこどもの結節点 vol.02
年齢や分野を飛び越え、弾けるアイデア。異能を持つこどもとクリエイターが予想外の化学反応を生み出す「ファシリテート!クリエイティビティ」

公益財団法人 孫正義育英財団 須藤三佳さん

春蒔プロジェクト株式会社 田中陽明さん・生田目一馬さん

さまざまなクリエイティビティが交差する、地域にひらかれた場を目指す渋谷キャスト。これまでに、コミュニティ・社会で育児することの未来について考える「子連れ100人カイギ」や、子どもと大人の遊びをつくるワークショップ「渋谷まちあそび」、おとなりの渋谷教育学園渋谷中学高等学校の学生を巻き込んだ音楽プロジェクトなど、大人はもちろん、子どもも街に参加できるきっかけを提供し続けてきました。
大都市の真ん中にあって、地域にひらかれた「民間施設」が、子どもや学生を巻き込んでいくことにどんな意味があるのか。はたまた、どんな可能性を秘めているのか。連載シリーズ「CAST People まちとこどもの結節点」では、子どもに関わる活動やイベントの仕掛け人、学生を支える先生たちの思いをお届けします。

今回取り上げるのは、2月に開催された渋谷キャストの1・2階に入居するクリエイター専用のシェアオフィス「co-lab」と、同じく渋谷キャストに活動拠点を構える公益団法人 孫正義育英財団(以下、孫正義育英財団)によるコラボイベント「ファシリテート!クリエイティビティ」です。co-labと孫正義育英財団がコラボするのは、今回が初めてのこと。アイデアを生み出すクリエイターと、特化した分野を追求し続ける若い才能が出会ったとき、そこにはどんな化学反応が生まれたのでしょうか。
今回は当日の模様を振り返りながら、イベントの実現を裏から支えた春蒔プロジェクト株式会社/co-lab 田中陽明さん、生田目一馬さん、孫正義育英財団 須藤三佳さんの3名に、イベントの手応えやこれからについて伺いました。

【プロフィール】
田中陽明
春蒔プロジェクト株式会社代表取締役、co-lab企画運営代表、クリエイティブ・プロデューサー
2003年にクリエイター専用のシェアード・コラボレーション・スタジオ「co-lab」を始動し、2005年春蒔プロジェクト株式会社を設立。国内外を問わず、クリエイター向けシェアオフィスにおける草分け的な存在。渋谷キャストには構想段階から参画し、施設全体のデザインディレクションを手がけるなど設立の中心的役割を担い、開業後の施設運営にも深く関わっている。

生田目一馬
春蒔プロジェクト株式会社 プロジェクト・ディレクター
建築設計事務所にて住宅・保育園・マンション内装改修・飲食店舗・福祉施設改修などの設計・監理業務を担当したのち、2020年春蒔プロジェクトに入社。建築ディレクション業務や各拠点でのイベント企画運営を担当。

須藤三佳
公益財団法人 孫正義育英財団事務局
2008年ソフトバンク入社。ソフトバンクグループの後継者およびAI群戦略を担う事業家を発掘・育成するソフトバンクアカデミア及び、経営人材育成プログラムの企画、運営を担当。2016年孫正義が私財を投じた孫正義育英財団の設立に事務局として参画。未来を担う若手異才の支援を行っている。

PHOTOGRAPHS BY
Masanori IKEDA(YUKAI)
Riku NARABUKI
INFOGRAPHICS BY
cocoroé Miho TANAKA Yusuke WATANABE
TEXT BY
Atsumi MIZUNO

だれも予想できない化学反応のゆくえとは?


高い志と才能ある若者を財団生として認定し、未来を創る人材として羽ばたくためのさまざまな支援を行っている孫正義育英財団。研究や開発などの活動や、財団生同士の交流の場として全財団生が活用できる共同施設「INFINITY」を渋谷キャスト内に構えています。


今回のコラボイベントでは、数学における突き抜けた才能を持ち、13才にして学者として活躍する財団生の梶田光さんと、面白法人カヤックを経てブルーパドルを設立し、クリエイティブディレクター/プランナーとして活躍するco-lab所属のクリエイター佐藤ねじさんが対談しました。


梶田さんが「例外解」について研究しているという話題から、例外解の探し方のアプローチ、ひいてはアイデアの出し方という話題に発展していった今回の対談。

佐藤さん曰く、アイデアは「〇〇×〇〇」というシンプルな掛け算。題材の要素と、冷やす、増やす、映画っぽいといったエフェクトの組み合わせで生み出せるのだそう。そんな佐藤さんのアイデアのつくりかたを踏まえ、「すべり台」を題材に、梶田さんが実際のアイデア出しに挑戦する一幕もありました。


すべり台×〇〇の「〇〇」に、どんなエフェクトが入れられそうか考えていくことに。


すべり台と掛け合わせるエフェクトとして梶田さんが挙げたのは、「デジタル」、「明るい」、「時計」といった言葉。これらを掛け合わせることで、どんなすべり台を生み出せそうか?と、佐藤さんと梶田さんが一緒に発想をふくらませました。

その結果、対談の中で生まれたのが、「みんなとオンライン上で滑れるすべり台」、「点滅するすべり台」、「時計みたいに、角度が時間ごとに変わるすべり台」、「数字が滑ってくるすべり台型デジタル時計」といったさまざまなアイデアでした。



さらに対談の後半では、そういったアイデア発想法と、梶田くんの研究である数学を交わらせる可能性を探るべく、モジャモジャ頭の人が好きな数字を架空の記号「モジャ」と名付けた佐藤さん。そこからなにか新しい式を生み出せないか?という、クスッと笑ってしまうような面白い思いつきが飛び出す場面も。
数学研究とクリエイティビティ。対極に位置するようにも感じられますが、それぞれの分野に存在する理論と発想を分かち合い、対談は活発に進みました。




結果の予想がつかない掛け算をしたかった


イベント終了後、企画の構想から実現までの裏側を支えた春蒔プロジェクト株式会社/co-lab 田中陽明さん、生田目一馬さん、 孫正義育英財団 須藤三佳さんの3名に話を伺いました。



生田目:もともと、去年の5月くらいから須藤さんにお声がけをしていました。 孫正義育英財団のホームページを見ると、いろんな若い子たちが集まっていて。未知数だったんですけど、co-labのクリエイターと掛け合わせたら間違いなく面白いし、若い子の将来にクリエイターが寄与できたら、それは素晴らしいことだなと思っていたんです。

田中:もう少しさかのぼると、そもそも渋谷キャストは東京都の土地を借りているんですが、都の土地を借りる条件として、地域貢献のコンテンツをつくることになっていて。オープン当初からずっと、渋谷キャストの2階フロアに入居するテナント同士で横連携する話があったんです。

生田目:でも、co-labのクリエイターや、財団生の情報はお互いに全く共有ができていなくて。そこをすり合わせたうえで、どういう内容にするかも読めない部分があったので、実現まで時間がかかりました。

須藤:そうですね。たぶん、化学反応が起きるだろうなというのはわかってたんですけど、その反応がどう出るのか私たちにも予想のつかないところがあって(笑)。
どういうクリエイターさんと財団生を掛け合わせたら面白くなるかな?というのをお互いに探り合っていた感じはありましたね。

田中:co-labのクリエイターは全部で500〜600人。いろんな職種の人たちがいる中で、今回は佐藤ねじさんにお願いすることになりました。そこのマッチングは、上手くできたのかなと思っています。

生田目:ねじさんはアイデアマンのイメージがあるんですけど、数学のこともある程度理解されていて、本質的なところを捉えてどんな話題でも対応していただける守備範囲の広い方だったので、それが大きかったのかなと。

須藤:最初は、たとえばロボットのように、目に見えるプロダクトを出せる財団生も対談の候補として考えていたんですけど、そうなると、発展的なアウトプットをしつつ、ある程度予想がつく範囲の中で収まってしまうんだろうなと思って。

なので、今回はちょっとチャレンジングに、論文のようなアカデミックな形でアウトプットされることの多い数学とクリエイターさんを掛け合わせることによって、梶田くんにとっても発見があるといいなと思い、対談相手に選びました。

結果としてそれが上手くいって、私たちとしてもすごく面白いことができたと感じています。


アカデミックな数学と、クリエイティブ。一見交わらなさそうな両者の出会いは、イベント主催者側にとっても結果の予測がつかないまま始まったそう。


生田目:アイデアの出し方もそうですけど、数学にも、頭で考えていくうえでの順番がある。そういうところをねじさんが上手く拾い上げたことによって、クリエイティブ側からアカデミックな分野に対してアドバイスもできたし、ねじさんも数学の考え方を聞いて、きっと発見もあったと思います。

全然違うようで似たところがあったり、相手の違う部分を自分の分野に取り入れて、発展させようということが自然と起こる。社会全体で横のつながりを深めようとしているなかで今回のイベントができたのは、意味があったのかもしれないとも思いました。

須藤:おっしゃっていただいた点もそうですし、なにより梶田くんがすごく楽しそうに話していたのが、事務局としてもめちゃくちゃ嬉しかったです。

財団生が新たな発見に出会える機会をどんどんつくっていきたいという想いが根底にあるので、イベントでそういう部分が目に見えて出ていたのはすごく嬉しかったですね。



田中:今回のイベントは、財団生の人がなにをやっているのかを世の中の人に知ってもらうというのが一番の目的。デザイナーは、クライアントが取り組んでいることを客観的にどう表現するかということが専門なので、そういう意味で、表現者としてのプロと、特殊な能力を持っている財団生の掛け合わせがよかったですね。

新しい組み合わせがあれば、その数だけ面白いパターンが生まれてくるでしょうし、それがクリエイターを支援する渋谷キャストのコンセプトでもあります。その無数の掛け算ができるんじゃないかなと思っていて、これからのイベントも楽しみです。



生田目:今回梶田くんは13歳でしたけど、20代後半まで幅広い年齢の財団生がいることや、中にはビジネス的なことをやられている方もいると伺っているので、今後は面白いことを幅広くいろんな掛け算でやっていけそうな気がしました。

須藤:そうですね。AIなどを用いて、ドラえもんをつくるっていう。

AIでドラえもんをつくる、人間の脳を再現するとなったとき、技術や倫理など、機械学習やAIを知っている目線と、神経科学や生物をやっている目線だと、同じトピックに対して違った意見があるんです。それが、財団のコミュニティの中で議論されて、自分の研究に新しい視点が入って活動がブラッシュアップされていく。そういうシナジーを生み出せるコミュニティでありたいなと思って、なるべくそういう機会をつくる運営の仕方をしています。

今の財団のコミュニティや活動は、割とアカデミックな感じが強いので、ねじさんのように、ザ・クリエイターみたいな方と交わることで、財団の中だけでは得られない新しい幅の広がりが出てくるだろうと今回すごく感じました。




INFINITY内に設置された自己紹介ボードには財団生の多種多様な夢や研究への想いが掲示されている。


学校や家庭の外に、同世代の子どもや大人とつながる機会を増やす


須藤:財団生とクリエイターさんの交流の機会を設けるだけでも、勝手にお互いにつながって、掛け算でいろんなものが生まれるんだろうなって思いました。もちろん、こういうふうにイベントとしてしっかりやるのも大事だと思うんですけど、あまり場をつくり込まずに、財団生をクリエイターさんと交流させてみたいです。

田中:co-labに新しく入った方とか、新しいプロジェクトをやっている方にそれぞれが取り組んでいることを発表してもらう会を開いているんですけど、みんな近場にいるので、co-lab施設内ですれ違うじゃないですか。だから、「面白いアイデアが思いついたら気軽に声かけてよ」という関係性ができる。

普通のオフィスビルだと通過導線しかないので、他の会社の人とちょっとすれ違ったときに声をかけるって難しいんですけど、この渋谷キャストはフリーな余白部分がいっぱいあるので、一度交流の機会を設ければ、財団生とco-labクリエイターでも同じことが起こり得そうな雰囲気がありますよね。

須藤:若いうちからいろんな人と出会って、自分の中で選択肢が増えるということがすごく大事だと思っているのですが、学校の中だけだと、「同じ学年の同じ地域の子」というつながりが強くなってしまうし、社会とのつながりといえば、親や先生から入ってくる話が全部になりがちだなと感じていて。

だから、なるべく他の大人だったり、同世代でも全然違うことに取り組んでいる子と出会って一緒に学ぶ機会を増やしていって、自分にはどういう道があるのかという幅をどんどん広げてあげたい。

このINFINITYという場が、いろんな人と交じり合う可能性を秘めている渋谷キャストの中にある強みを生かして、いろいろな選択肢を提供していけるといいのかなと思っています。


渋谷キャストを拠点に活動する2社が連携することにより生まれた本企画。互いの特性や関心を活用し合いながら創造性を引きだしていく━今後の更なる共創への期待が感じられる機会となりました。