SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2020/02/19
CAST People#12_渋谷 と シェアオフィスから街をつくる人たち

クリエイターの集合知で、渋谷の個性に磨きをかける

co-lab渋谷キャスト 佐藤千秋さん コミュニティマネージャー / 伊集院実梨さん 内田ゆりかさん コミュニティファシリテーター
クリエイターの集合知で、渋谷の個性に磨きをかける

渋谷キャストの1・2階に入居するクリエイター専用のシェアオフィス「co-lab渋谷キャスト」。「クリエイターが行き交う創造拠点」という渋谷キャストのコンセプトを体現する場として、クリエイティブで街に貢献するエンジン役を担っています。


異業種のクリエイターが集まり、交流・連携しながら働ける場として2003年にスタートしたco-labは、質の高いクリエイティブコミュニティを生み出してきた日本のシェアオフィスのパイオニア。
渋谷キャストには企画開発コンペの段階から参加し、co-labに関わるクリエイターとコラボレーションしながら、施設のコンセプトづくりや建築のデザインディレクションを手がけました。開業後は「co-lab渋谷キャスト」を運営するかたわら、施設周辺のエリアマネジメント企画に携わり、渋谷のまちづくりに並走する新たなシェアオフィスの形をつくっています。


co-labが街の活性化に本格的に取り組むのは、今回が初めて。クリエイターとともに、クリエイティブが街にできることを考え、実践してきたことで、渋谷の街にどんな変化が生まれたのでしょうか。コミュニティマネージャーの佐藤千秋さん、コミュニティファシリテーターの伊集院実梨さん、内田ゆりかさんに話を伺いました。

 

PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA(YUKAI)
TEXT BY Atsumi NAKAZATO

クリエイターが渋谷の街でやれることはまだまだある


ーー「co-lab」は都内に4拠点を展開されていますが、「co-lab渋谷キャスト」の特徴を教えてください。

 

佐藤:渋谷キャストのクリエイティブ活動の中核としてスタートした「co-lab渋谷キャスト」のテーマは、「新しい仕事を生み出す」こと。クリエイティブ事業のプロデューサーやディレクター、IT分野の先端的な方々が多く集まり、多様なビジネスが集積する渋谷という街の個性や立地を生かし、メンバーさん同士のコラボレーションによって新しい仕事を生み出したいという思いがあります。

 

ーー「co-lab渋谷キャスト」は、どんな方々に利用されているのですか?

 

佐藤:今200人近くのメンバーさんがいらっしゃいますが、デザインや映像、建築などを専門とするクリエイターのほか、他拠点と比べてデジタル系の方が多いですね。AIやロボットなど先端的な分野を扱う方々をはじめ、デジタルアートを手がけるカナダの会社や照明デザインを行うイギリスの会社など、海外の企業が多いところも特徴です。渋谷の個性や立地の良さを求めて、みなさんここを選んでくださっています。

 

ーー渋谷キャスト開業前、代表の田中陽明さんにお話を伺った時に、「シェアオフィスがエリアの拠点となって街の活性化に貢献することは、念願だった」とおっしゃっていました。まちづくりに並走する新たなシェアオフィスの形をつくることも、「co-lab渋谷キャスト」のテーマの一つに挙げられていますが、この部分はどのように具現化されてきたのでしょうか。

 

佐藤:渋谷の街を活性化する取り組みとして、渋谷キャストが行っているエリアマネジメント活動をサポートし、クリエイティブで街に貢献するようなイベントを企画してきました。co-lab内部のクリエイターさんに参画してもらうことで実現したイベントも数多くあります。
シェアオフィスがエリアマネジメントイベントをやるというのはあまり例がないと思うんですが、そこが「co-lab渋谷キャスト」の特徴なのかもしれません。内部のコミュニティを外に活かすことは、メンバーさんにとって活躍の場を広げることや新たな刺激を得ることにつながり、内部のコミュニティにとってもいい影響があるなと思っています。

 

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ーーもともとこの近隣に「co-lab渋谷キャスト準備室」を5年間限定で運営し、渋谷キャストの開業と同時に移転してきました。開業して3年近く経ちますが、日々現場に身を置く中で感じる変化はありますか?

 

佐藤:渋谷キャストは「クリエイターための複合施設」という新しく個性的な建物で、当初から東急さんのco-labに対する期待値の高さを感じていました。co-labがエリアマネジメント活動に取り組むのは渋谷キャストが初めてで、最初は手探りの状態でしたが、活動を通して自分たちの視界もだんだん開けてきて、渋谷にとってクリエイターの存在がいかに大切かを実感しています。やれることはまだまだたくさんありますね。

 

ーーエリアマネジメント活動として、これまでどんなイベントを行ってきたのでしょうか。

 

佐藤:外国の方が想像する「ザ・シブヤ」を体感しながら、来場者同士もつながれる交流型エンターテインメント博覧会「SHIBUYA CREATIST PARK」や、クリエイターが自分のスキルやつくったものを無料でふるまう「パブリックサーカス」など、クリエイターさんの力を借りて渋谷らしさを前面に出したイベントを行ってきました。

そんな中で、「渋谷の街に暮らす人」を特に意識したのが、「渋谷まちあそび」という子ども向けのイベントです。渋谷キャスト周辺は中高一貫校やインターナショナルスクール、保育園といった学校施設が多く、「子どもたちに渋谷でクリエイティブな原体験をさせてあげたい」という思いから企画しました。
3年間、クリエイティブが街にできることを考え、実践したり、それに賛同してくださる方を集めたりと渋谷の街で活動してきたことで、「自分たちが渋谷でやれることはある」と強く感じるようになりました。そのことが、エリアマネジメント活動を行うモチベーションになっています。

 

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渋谷まちあそびの様子


ーー街の方々の反応はどうですか?

 

佐藤:近隣の学校施設にイベントのチラシを配りに行ったりすると、期待感はすごく高くて、「次もぜひ教えてください」と言ってもらうことが多いです。「あの建物、何だろう?」と思われていたところから始まって、いろんな企画を持って伺うことで理解が深まり、「自分たちも行っていい場所なんだ」と思って実際に足を運んでくださるようになって。
この近くに私の友人家族が住んでいるんですが、毎年渋谷キャストでやっている盆踊り大会に参加してくれて、「今年は行かないの?」と逆に誘ってもらったり(笑)。渋谷キャストという場所が街に少しずつ浸透して、街の方々の生活圏の一部に加えてもらえていることを感じています。

 

ーー「co-lab渋谷キャスト」には、エリアマネジメント活動に関心があるクリエイターが多いのでしょうか?

 

佐藤:シェアオフィスごとにキャラクターがあると思うんですが、co-labのクリエイターさんは「本質的にクリエイティブが社会にできること」に興味があって、実直な方が多い印象です。渋谷の駅近できれいだからという表面的な部分で選ぶのではなく、みなさんco-labの姿勢にシンパシーを感じてくださっているので、コミュニティに入っていただくときもなじみやすく、同じ価値観で話せます。

 

伊集院:行政のお仕事や、渋谷のお仕事をしたことがあるというメンバーさんも多いので、みなさんこちらが説明しなくても、今渋谷でどんな開発が進んでいるのかをご存知なんです。

 

内田:もともと地元で地域活動をされていたメンバーさんも多く、「活動を拡張して渋谷でもやってみたい」というお話をよく聞きます。ビジネス一辺倒というより、人や街とのつながりを意識されている方が多いですね。また、「co-lab渋谷キャスト」に関心を持って見学にいらっしゃるクリエイターさんに、エリアマネジメント活動についてお話しすると、みなさんすごく関心を持ってくださいます。

 

佐藤:代官山や二子玉川などco-labの他の拠点でも街の人たちに向けたイベントをやっていますが、一番大々的にやっているのがここ渋谷ですね。co-labは不動産賃貸業としてシェアオフィスを運営するのではなく、コミュニティづくりと空間づくりを融合した新しい建築の形を模索するところからスタートしたので、私たちの姿勢が渋谷キャストの取り組みにうまくフィットしたんだと思います。

 


型にはまらない、自然なコミュニケーションが生まれる場

 


ーーコミュニティファシリテーターが常駐し、内部のコミュニティを活性化するためのさまざまな仕掛けをつくっているところも、co-labの特徴です。メンバー同士の交流を生み、コラボレーションにつながるように工夫していることはありますか?Y

 

内田:月に一度行っているカジュアルな交流会では、自然とコミュニケーションが生まれるような場をつくることを意識しています。夏はかき氷、冬はおでんなど季節に合わせたメニューを用意したり、お隣のカフェ「Are」さんにお願いしてスイーツをつくってもらったり、お茶の飲み比べ会やラム酒限定のバーをやったこともあります。一人でも多くの方に参加してもらいたいので、その時々によって時間帯や内容を変えるようにしています。

 

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伊集院:メンバーさんとは共有キッチンで一緒にご飯を食べることも多いのですが、その時に交流会で食べたいものや集まりやすい時間を直接聞くようにしています。「今度の交流会、どんな感じがいいですか?」とカジュアルな感じで相談していますね。

 

ーーメンバーさんとは他愛のない会話が交わせるような、ほどよい距離感にあるんですね。

 

佐藤:「co-lab」という名前だけあって、内部でコラボレーションすることがテーマでもあるので、メンバーさんとはお客様というより、フラットでリスペクトし合える関係でありたいと思っています。だから、「今度の忘年会、クイズとビンゴどっちがいい?」みたいな会話も普通にできるという(笑)。

 

伊集院:新しいことに常に触れてらっしゃる方が多いので、「今こんなの流行ってるよ」と教えてもらったり、逆に「この年代だとテレビは何見てるの?」とか聞かれたりすることもありますね。

 

ーー伊集院さんと内田さんは働き始めてまだ一年にも満たないそうですが、コミュニティファシリテーターとしてメンバーさんと接する上で気を配っていることはありますか?

 

伊集院:こうあらねばならないという型がないので、先輩スタッフがどういうふうに接しているのかを見ながらコツをつかんでいるところです。

 

佐藤:自然なコミュニケーションというのは教えてもらってできることではないと思うので、co-labのファシリテーターはこうあるべきという型はつくらないようにしています。自分で何が必要なのかを考えてやる方が実践的ですし、本当に必要なことをやれますよね。

 

内田:「co-lab渋谷キャスト」には、私たちよりもはるかにco-labをよく知っているような長く在籍するメンバーさんがいらっしゃいます。何かを頼みたい時もこちらに気を使ってくれて、「大変になっちゃうからいいよ」とおっしゃってくださる方もいて。カジュアルな関係だけど、こちらも甘えすぎないことが大事だなと思っています。

 

伊集院:co-lab歴の長いメンバーさんは、私たちが席を外している間に、新しいメンバーさんにこの施設の使い方を教えてくださったりすることもあります。みなさんあたたかくてウェルカムな雰囲気です。

 

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佐藤:5年限定で開設していた「co-lab渋谷キャスト準備室」に入居していたメンバーさんがみんな一緒にここに移ってくださったので、すでに温まった状態でスタートできたことも大きいですね。その方々曰く、「場所が変わると雰囲気も変わってしまうかと思っていたけど、人が変わらないから同じような雰囲気でやれる。これは新しい発見だった」と。人が場をつくってるんだなというのをすごく感じました。

 


企業や行政が注目する、シェアオフィスから生まれるイノベーション

 


ーーメンバーさんが自身の仕事を紹介する「プレゼン会」を隔月で行っているのも、co-labならではですね。

 

佐藤:そうですね。プレゼン会では毎回4、5人の方に登壇していただくんですが、登壇者を選ぶときも、コラボレーションが生まれそうな業種の方々を選定するようにしています。普段は他のメンバーさんがどんなお仕事をされているのかをじっくり聞く機会ってなかなかないと思うんですが、お互いに仕事内容を聞くことができると、すぐに「これやろう」という新たな動きが出てくるんです。

 

ーー実際に、メンバー間でどんなコラボレーションが生まれているのでしょうか。

 

佐藤:それはもういろいろありますね。

 

伊集院:小さなものでいうと、イベントのワークショップのゲストをメンバーさんに紹介してもらったとか、動画撮影のキャスティングをキャスティング専門のメンバーさんにお願いしたとか。co-lab内でメンバーさん同士が打ち合わせをしていることも多いですね。

 

佐藤:Webと写真、イラストとグラフィックなど親和性の高いジャンルの方々が集まっているので、仕事上のコラボレーションは特別なことではなく、もはや日常です。webサイトの制作プロジェクトなどにメンバーさん同士で取り組んでいる姿もよく見かけます。それ以外にも、例えば映像クリエイターさんが余力がないときに、同じ映像関係の方に仕事を手伝ってもらうということもありますね。

 

ーーメンバー間のコラボレーションの中でも、特に大きな事例があれば教えてください。

 

佐藤:代官山の拠点で、同じ業種のメンバーさん同士が一緒になって会社をつくられたことがあったんですが、渋谷でも、もともと同じ資本にあった不動産企業とテック企業がクラウド技術やAI技術で不動産管理システムの開発を行う新会社を設立されました。会社をつくるというのが、この3年間で最も大きなコラボレーションですね。
もともと私たちは、渋谷キャストの企画開発コンペから参加し、co-labに関わるクリエイターにサポートしてもらいながら、コンペ用の資料作成や建築デザインのディレクションを行いました。コラボレーションとしてはこの施設をつくったことが一番大きくて、それを超えるものが生まれるのはまだまだ先になりそうです。

 

ーーco-labは、外部クライアントの課題をco-labメンバーの集合知で解決することにも力を入れていますが、「co-lab渋谷キャスト」の開業後、外部クライアントとの関わり方に変化はありましたか?

 

佐藤:co-labという集合体に興味を持っていただき、自社で足りないリソースをco-labで補いたい、と企業さんにお声がけいただくことは、「co-lab渋谷キャスト」の開業後さらに増えてきました。音楽関係、メーカー、不動産といった大きな企業さんが多く、co-labを「問題を投げ込むと答えが返ってくる箱」と捉えてくださっているようです。
以前に比べて、企業さんの規模も大きくなり、地方の自治体からの相談もいただくようになっています。渋谷のエリアマネジメント活動に関わって次々とアウトプットを生み出し、活動が外に発信されたことも影響しているのだと思います。

 

ーーco-labというクリエイターの集合知への期待はますます高まっていますね。「co-lab渋谷キャスト」は渋谷の街でこれからどんな進化を遂げていくのでしょうか。

 

佐藤:渋谷にはシェアオフィスが増えてきましたが、co-labの特徴は「クリエイターの力で社会を良くしたい」という一貫した思いを持ち続けているところです。
クリエイターの社会的地位を上げて、クリエイターの存在感を渋谷の街で発揮することができれば、世界の中でも際立っている渋谷の個性にもっと磨きをかけることができるんじゃないかと思っています。そんな街の個性を磨くような活動や動きが、今渋谷の中でたくさん起こっている状況がすごくおもしろくて。
その中で、埋もれないように勢いを増し、クリエイティブで未来に投資をすることで、クリエイターの活動の場を広げたい。そして、渋谷で活動する外部のクリエイターさんやシェアオフィスなどいろいろな集合体と連携しながら、渋谷の街全体を盛り上げていきたいですね。

 

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