SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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PEOPLE
2018/07/25
CAST People#7_渋谷 と 子連れで住む人

子育てをもっと街へ、社会へ開いていく

神田沙織さん 渋谷キャスト13F「Cift」住人 / 株式会社wip取締役
子育てをもっと街へ、社会へ開いていく

渋谷キャストには、住居スペースがあります。そのなかでも13階は「Cift(シフト)」というクリエイターのコミュニティがあり、現在19部屋におよそ40人が暮らしています。一見すると普通のマンションでシェアハウスをしているようですが、ここでは「ともに働き、ともに暮らす」をテーマにしており、メンバー同士で仕事をすることも多いようです。


今回お話を伺った神田沙織さんもその一人。デザインやPRなどの仕事をしている神田さんは、旦那さんと暮らす大崎の家と渋谷キャストを行き来しています。それも、2歳の息子さんと一緒に。
今年3月と6月には「子連れ100人カイギ」を開催した神田さんに、子育てや仕事をシェアする暮らしぶりについて聞きました。


PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA (YUKAI)
TEXT BY Eri FURUSE

2人から40人での子育て生活

 

渋谷キャストの13階にある「Cift」。19の部屋のほかに、住人みんなが使えるラウンジとキッチンがあります。ラウンジでは食事をしたり仕事したりゴロゴロしたり……。思い思いに過ごすことができそうです。

 

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ここに2017年9月から入居している神田沙織さん。どんな経緯で住むことになったのでしょうか。

 

「『Cift』発起人の藤代健介さんは私の夫といっしょに起業したパートナーで、最初は夫に『渋谷でこういうのはじめるんだけど』と誘いの話があったようです。それを聞いた夫は『これは沙織のほうが合ってると思う』と紹介してくれました」

 

興味を持った神田さんは、旦那さんと当時出産したばかりのお子さんと3人で一室を借りようと考えていました。ところが。

 

「夫に『僕は入るつもりないから』と言われて。それで諦めようとしたら『自分だけ入れば?』と言われたんです。そんなことある?!って驚きましたけど(笑)、思いがけない独立を促された感じでした」

 

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かくして入居を決め、「Cift」で出会った3人と一部屋をシェアをすることに。ルームメイトを決める際には“家族のお見合い”があり、「神田さんにはこの人が合いそう」と紹介され、その言葉通り初対面ながらもすぐに打ち解けたのだとか。そのうちの一人は同じく子どもを持つ女性で、一緒に住むことが決まったときから「共同で子育てができそうだ」とイメージできていたと言います。

 

現在は家族3人で住む家を持ちつつ、旦那さんが出張でいない日は渋谷キャストに泊まったり、仕事やお子さんの保育園の都合などでその日帰る家を選んでいるそう。最近は旦那さんも「Cift」で仕事の打ち合わせをしていることもあり、結局どちらの家でも顔を合わせる機会があるようです。

 

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また、お子さんも一緒に行動するうちに影響が現れてきました。

 

「息子は話し始めた頃で『〜だね』『〜しましょう』とか幼児語なりに丁寧に話すのですが、最近になって『それかっこいいっすね』とかお兄ちゃん言葉を喋るようになって(笑)。確実に『Cift』のメンバーが話している言葉を聞いているんですよね。毎日ここでたくさんの人に会っているので人見知りもしなくなりました」

 

実際に渋谷キャストではどのように子育てをしているのでしょうか。

 

「以前は夫とふたりでバスケットボールのように息子をパスしてお風呂に入らせたり、寝かしつけたりしていました。それが今では『Cift』の40人でバスケットボールをしている感じで、頼れるフォーメーションになりました」

 

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たとえば朝、誰かにお子さんのごはんを食べさせてもらっているあいだに神田さんは自分の身支度を整え、食べ終わったら一緒にお子さんの支度をして、保育園に送っていく。夜も保育園のお迎えの後に遅くなったときは、「Cift」メンバーのLINEグループに「ごはん炊いておいて」とお願いすると誰かが炊いてくれたり、神田さんたちの分もごはんを作ってくれたりすることもあり、ちょっとしたことでもとても助かると言います。

 

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「子育て全部を一人でやると気が抜けないし、自分のことが疎かになってしまいます。誰かに手伝ってもらいたくても、同じ保育園に通っている方とは意外と会わないし、子どもが小さいうちは保護者どうしとか街とつながる機会がないことに気づきました」

 

 

子育てについて街のみんなで考えよう

 

「子育て」をもっと街へ開いていきたい。そうした思いが募っていった結果、今年3月21日〜22日、神田さんは「子連れ100人カイギ」を渋谷キャストで開催しました。これは、渋谷ならではの子育てについてみんなで考えよう、というもの。

 

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「もともとは、3月21日の春分の日は保育園が休みなのでどうやって過ごそうか悩んでいたんです。きっとそう考えている人は自分だけじゃなくて、ほかにも少なからずいるんじゃないかな、と視野を広げてみたら、クリエイティブな人たちの集まる場と子どもに特化した場の中間をつくれないか、と考えたのがきっかけです。
そのときちょうど、子連れで議会に参加した議員さんのことがニュースになっていて、どうしたら子連れで会議ができるのか?と友人と考えているうちに、やるしかない!やろう!と思い立って。その発想をどんどん膨らませていきました」

 

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「Cift」のメンバーにも声をかけ、ロゴのデザインやワークショップの設計、コンテンツづくりなどを一緒につくっていきました。渋谷区も後援につき、当日は大盛況。通りかかりの人も多く参加してくれたそう。

 

「渋谷には子どもと一緒に遊べる場所が少ないんです。だから自分だけでなく渋谷キャストを運営する東急電鉄さんと一緒にやることで、いろんな人に子連れで遊べる場を届けられたらいいなと思っています」

 

6月には渋谷区全体で開かれるイベント「おとなりサンデー」に合わせて、第2回「子連れ100人カイギ」を開催。都議会議員の龍園あいりさんを招いたトークイベントや、味噌づくりワークショップ、フードロスの問題を考えるシェアリングランチなどがおこなわれました。

 

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「3月に開催したときは大人のための場所と子どものための場所が離れすぎていて、どうやって子どもを見ながら大人も楽しめるかが難しい問題でした。その反省点を活かして、6月は歌いながら読み聞かせしてくれるパフォーマーを呼んだら、大人向けにトークイベントをやっている横でけっこうな音量でやっていて。ただ子どもにおとなしくしていてもらうことが子どものためではないんですよね」

 

今後は渋谷区で子育ての活動をしている団体などとも連携して「子連れ100人カイギ」を継続開催していきたい、と意気込みます。

 

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「私は子どもを生むまで子育てに関わったことがなかったことを後悔していて、誰かのところにもう少し踏み込んでいたらよかったと思っています。その反省もこめて、あえて『親子』ではなく『子連れ』という表現にしました。

 

たとえば年の離れた兄弟でもいいし、LGBTカップルが預かっている子どもだったり、近所の顔なじみの子どもだったり、親以外にもそういう大人がいてほしい、という思いがありました。いろんな『子連れ』があってもいいんじゃないかな、と。子どもにとっての社会の接点を増やしておきたいですね。そのためにも、子育てをしている側から開いていきたいです」

 

一般的に「子育て」というと、両親だけ、あるいはその親や兄弟など家族でするものだと思われていますが、友達やご近所さんと一緒にしたっていいはず。渋谷キャストでは、新たな住まい方や子育てがはじまっていました。

 

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